真言見聞の概要

『金綱集』「真言見聞集」(『日宗全』13巻222頁以下)全文収録(但し三分割され、その間に他の文が入っている)。『平賀本目録』『刊本録内』等に収録される。『日蓮聖人遺文辞典』(歴史篇)は『金綱集』の 当該部分を抽出して御書になぞらえたものと見ている。
 本書は@真言亡国の所以A顕密の事B真言七重の難の三段から構成されている。
 第一に真言は亡国であるとは、真言は法華経誹謗の宗なる故に堕獄の因であり、 それによって国家安穏を祈れば国が滅ぶのは当然の理であり、事実承久の変では真言の祈祷によって、国主である三上皇は滅ぼされたのであり、これこそ亡国の現証であるとしている(承久の変の失敗は三上皇の真言祈祷によ るとの見解の初出)。また、智証作といわれる『大日経指帰』に『法華経』は『大日経』に及ばずとされていることについては、それは智証に仮託された偽書であり、真作の『授決集』には『大日経』は『法華経』の摂引門で あるとしていると反論されている(この辺の所論は本書を台密破以前と推定する根拠)。そして邪法による祈祷が亡国の因であることを示す経典が示される。
 第二に顕密について、秘密に二あり、一に宝を隠す微密、二に 疵を隠す隠密。法華は微密であり、真言は二箇の大事が無いという疵を隠す隠密であるとしている。また、『法華経』には印真言が無いという難に対しては、元はあったものを羅什がそれを略して翻訳したものであるとしてい る。そして真言の経典は二箇の大事無き故に、十界互具はおろか非情色心の因果草木成仏などは思いもよらず、ただ一念三千の義を盗んでいるに過ぎないと破折している。また、善無畏の理同事勝に対しては、『法華経』は二 乗作仏という理と久遠実成という事を具足していると反論している。
 第三に真言七重の難とは、@Aは真言経は釈尊所説以外の経であるとの説への反論で、ではその仏の出世・成道・利生はいつか、また陀羅尼蔵を弘法は 真言と見ているが、陀羅尼蔵は釈尊の所説ではないのかと破折している。BCDEは『法華経』等の引文により、『法華経』が一代の説教の中で最第一であることが示される。Fは一念三千論で、一念三千法門は天台所立の法 門であり、これが無ければ性悪の義もなく、普賢色身・両界十界の曼陀羅・五百七百の諸尊等の真言の法義は有名無実であるとしている。