海道をゆく

函館へ


海道をゆく 海の夢と課題を乗せて北前航路を雲龍丸がゆく  1997(上)
 小浜湾を望みながら雲龍丸は沖へと向かう。双子島が見送ってくれる。内外海半島が美しい。「小浜湾はナポリ湾のようだ。」と韓国麗水出身のロジン・パーク氏が何度も言った。「『海道をゆく』というテーマを聞いただけで、夢があって、私は人生のロマンを感じて参加を希望しました。」ロジン氏の指さす方向を案内「あそこが私の村です」船はやがて蘇洞門の沖へと向かってゆく。白い花崗岩の岩肌が美しく光っている。

 小浜港から函館に向かう船旅が始まる。福井ライフ・アカデミー講座「海道をゆく」の受講生40名を乗せていく。台風9号が迷走し予定を2日間伸ばし。幸いにも台風が日本海に抜けた。不安ではなく安心と希望を乗せての出航となった。

 船酔いを心配していた人も多かったが、それより雲龍丸に乗船して函館に行けるという魅力から、元気で勢いのある旅になった。

 5月25日から始まった15回連続の講座、「日本に初めて象が渡ってきた港町小浜」「港湾都市小浜の交易」「北前船と小浜湊」等テーマで歴史を学び、このまちを、地域を、自分自身を再発見しようと試みた。講座の後半は雲龍丸に乗船、北前船の航路を函館に向かう。座講だけでなく、船に乗って潮風に吹かれる中で、新しい発想や想いもふくらみ、それまで学んできた知識が一束の学びの風となればと期待した。

 雲龍丸(499t)は、福井県立小浜水産高等学校の漁業実習船である。海洋漁業科の生徒を乗せハワイ沖までマグロとりに出かける。今回、講座関係者40名、船員が20名、計60名の航海である。漁業実習船といっても、船内の装備は素晴らしく、客船感覚であり、船室も快適空間である。

 若狭湾沖に出た頃、船内では、小浜水産高校の一瀬哮彦校長が、「水産教育の現状と課題」と題して話、ハワイ沖にマグロとりに行ったときの生徒の航海日誌、海に生きることの夢と厳しさ、日本で一番古い歴史を持つ水産高校の存在意義と役割を話す。ユーモアたっぷりの話に受講者はうなずき、また爆笑しながら、なごやかな雰囲気のなかで船内講座は進んでゆく。「船長航海日誌」と題して荒木正道雲龍丸船長の登場。船長になってからの苦労話、マグロとりの仕掛けなどについての話。受講者から盛んに質問も出て、時間があっと言う間に過ぎてく。船長が「みなさんを函館まで無事に運びます」というと「船長大丈夫ですか」とお茶目な参加者が聞くと「まかせなさい」と船長。船の中でまた爆笑。参加者は昨夜の台風の事などすっかり忘れ、船はおだやかな日本海を北に向かっていく。

 夜は「北前船と民謡」と題して、民謡歌手恩地美佳さん(福井県の民謡を研究、今回参加者として乗船)。民謡が日本海交易によって各港に伝わり、その地域に馴染んだ民謡となっていった経過をの歌で紹介。思わぬ船上ライブに参加者は大喜び。「越前船方節」を船長に捧げる。船長も御機嫌。「ソーラン節」が始まると手拍子と歌で船内食堂は熱気あふれるステージになった。

 船の時間はゆったりと流れてゆく。日常あくせくと急いでいる人生を遠望できる。潮風に吹かれ、星を仰ぎながら進んでいく。この旅は、単に講座というだけではなく、人生を探す旅となる。船の中でネットワークもできてゆく。


海道をゆく 海の夢と課題を乗せて北前航路を雲龍丸がゆく 2 1997(下)
 船の朝は早く明ける。もう4時頃からデッキに出て海を見ている人もいる。操舵室では夜勤の船員さんが舵をしっかりにぎっている。舵を握っているといっても自動操舵で船は進んでいく。監視を続けながら船が進んでいくのである。

 潮風を受けながらさわやかラジオ体操。朝食をすませてからは自主研修、参加者の中から長谷勇さんが「ミクロネシア体験記」と題して太平洋の美しく素朴な島の話。

 昼食後、「海を越えて」と題してロジン・パーク氏の話。イタリアに歌の勉強に船で渡る時のエピソードを交え、彼の波瀾万丈の人生を語る。「海道をゆく」今回のテーマにぴったりの話。話の中で「帰れソレントへ」他2曲歌ってくれた。みなさんの感動が伝わってくる。いつまでも拍手がなりやまない。

 午後、イカ釣りの仕掛け準備。イカ釣り体験は初めてという人が多い。いきなり名漁場の秋田沖とあって豪華版。夕食が終わるや否や、みんなそわそわし出して、日没を待たぬ内に釣り具をたらしている人もいる。日本海に真っ赤に燃えて落ちてゆく夕陽をバックに写真をとっている人もいる。

 夕方7時、イカ釣り大会開始。一番大きな獲物をつり上げた組みには大賞が当たるとあってみんな力が入る。最初につり上げたのは福田チーム。そして次々と釣れる。

「はい!350グラム」「400グラム」計量係も忙しい。夢中になっていると時間はあっという間に9時をすぎている。この時間から入れ食い状態、どんどん釣れていく。デッキでは船長と校長がイカを料理、参加者の長谷さんが持参したイカそーめん機の大活躍。

 大物大賞は、倉谷・ロジンチーム。何と540グラムの大きなイカを釣った。校長先生から大賞が贈られる。「私の人生の中で最高の栄誉です」そう言うとロジンさんが歌う。船上は素敵なパーティー。船で出会った仲間が一つのファミリーになって歓声と笑顔が溢れる。

 7月29日、朝、函館山が見えていよいよ入港である。全員、アッパーデッキに上って入港を待つ。中央埠頭に手を振る人有り。藤井さんである。小浜出身で北海道大学水産学部のおしょろ丸船長として北洋に生きた人。函館にて雲龍丸の入港を心待ちにしていてくださった。

 藤井教授の案内で北大水産学部の水産資料館を見学、ニタリクジラの骨格などめずらしものばかり。白樺の木陰に座って藤井教授の話を聞く。北にこの人有り。海道をゆく旅は藤井さんに出会うことでまた大きく広がってゆく。

北大で解散式、今回の雲龍丸の旅はここまで。最初、現地解散をお知らせしたとき、みなさん躊躇いがあった。しかし、初めて自分で旅行計画をした人や、旅行計画を通して仲間ができた人などいい展開をしていった。。最近の旅はセットされていて楽だけど、人生は帰着点まで分かっているとつまらないかも知れない。わくわくどきどきしながら旅をするのもいいものだ。「みなさんの旅はこれから始まります」今度であったときは。お互いの旅の話を交換しましょう」そう言って分かれた。


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