アオジ等冬鳥の越冬地への回帰率について

  平井正志(三重県安芸郡安濃町)

 三重県中部の安濃川中流河川敷(安芸郡安濃町川西)で1993年から1998年にかけての5シーズン、冬季に標識調査を行った。網場は、雑木の河岸林に囲まれた草地およびアシ原であり、周辺の交通からも隔離され、冬季に人の出入りは極めてまれであった。調査は11月から3月にかけて行ったが、主な調査時期は12月から2月であった。網場は3つに区分し、それぞれについて調査結果をまとめた。
 回帰の指標として2つの指数を用いた。回帰率
Aはそのシーズンに新たに捕獲したもの(リターンを含む)のうちリターンの割合である。回帰率Bはそのシーズンに新たに放鳥したもの(リターンとして再放鳥したものを含む)のうちその後のシーズンに1度以上回帰した個体の割合である。回帰率についてはノンパラメトリック検定(Wilcoxon検定)を行い、種間の回帰率で有意差があるかどうかもとめた
 いずれの回帰率でもアオジは高い割合をしめした。4年の合計で回帰率Aでは
22%を、回帰率Bでは30%を示した。また区分別の回帰では89%が同じ区分に回帰し、越冬地への非常に高く、かつ正確な回帰傾向をしめした。アオジの年間生存率は知られていないが、仮に0.5としても回帰率Bでは約0.3であり、生存している鳥の60%がその後のシーズンに同一場所に回帰することになり、極めて高い回帰率である。
 ウグイスでもアオジとよく似た高い回帰傾向を示した。回帰率Aでは
26%をBでは31%を示した。また同一区分に回帰する割合も高かった。アオジとウグイスの間では回帰率に差はみとめられなかった。
 しかしカシラダカでは回帰率はアオジやウグイスのそれより有意に低かった。カシラダカでは回帰率A、Bでそれぞれ
0.06および0.07であった。で特にカシラダカでは回帰したものが同じ区分で捕獲される傾向は見られなかった。
 ホオジロの回帰率A0.09であり、B0.10であり、アオジやウグイスの回帰率より低かった。回帰率Bではアオジやウグイスより有意に低かったが、回帰率Aではアオジとの差が認められなかった。回帰した鳥のほとんど(82%)が同一区分で捕獲された。
 冬鳥の少ないといわれた
19951996年のシーズンではリターンの割合が増えた。
 アオジやウグイスは林や薮を越冬期の生息地としている。これらの生息地は急激な変化が少なく、同一場所への高い回帰率が生存に有利に働くのであろう。一方草地で越冬するホオジロ、カシラダカでは気象条件や川の氾濫などで越冬地がかく乱されたり、餌の量が変化する割合が高く、同一場所に回帰することが種の保存に有利ではないのであろう。


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