敦賀市中池見湿地の保護と標識調査
吉田一朗(福井)
福井県敦賀市にある中池見湿地は、周囲を山に囲まれたきわめて特異的な袋状埋積谷で、湿地の部分は標高約47m、面積は約25haあり、泥炭層が厚く堆積している。水田として利用されてきたが、現在はかなり放置された状態で、ヨシ原などが広がっている。
当地域では、1992年にLNG(液化天然ガス)基地の建設が計画されたが、自然保護を含む色々な問題点も指摘された。このような中で、中池見湿地学術調査チームによる調査が始まり、1999年から鳥類調査のメンバーとして参加してきた。2002年に計画が中止され、自然を残す方向で検討されつつあるが、どのような状態で残していくかも含め、色々な課題が残っている。鳥類調査を行ってきた立場から、今後どのような活動を行っていくかを考慮中であり、ご意見等をお聞かせいただきたい。
調査を始めることになった当時は、すでに知られている情報が少ないこともあり、まずは鳥類リストを作成することにした。また、大まかな鳥類相を把握するために、ラインセンサス法による調査を開始した。この他に、「ワシタカを見つめる会」による猛禽類の定点調査なども行われてきた。現地は植物が茂るなど観察が難しく、特殊な環境のためか予想とは異なる調査結果も少なくなかった。さらに詳しい調査する必要性を感じ、2000年5月から標識調査(定点捕獲調査)を開始し、1月を除くすべての月に調査を行うことができた。主な網場は、池に近い湿地中央部付近と、林に近い湿地東部付近だが、湿地下流部の谷などでも調査を行った。
調査の結果、全体で15目38科135種の鳥類が記録され(2003年10月18日現在)、標識調査では4目19科46種が記録された。標識調査のみで記録されたのは、ショウドウツバメ、アカモズ、ヤマヒバリ、シマセンニュウ、マキノセンニュウ、ツリスガラ、ホオアカ、クロジの8種であった。特に越冬地や中継地として利用されていると思われるが、希少種で繁殖または可能性のある種もあり、繁殖地としても重要な地域と考えられる。
標識調査での最も大きな成果と考えられるのは、中池見がノジコの安定した中継地で、短期間滞在していることが示唆された点である。4年連続で40羽以上が記録され、2003年には300羽を越える個体が標識された。推定個体数2500羽〜10000羽の希少種であり、今後どのように調査を進めるかを検討中である。
この他にも、繁殖後に中池見へ移動し、換羽期を過ごすオオヨシキリが多くいる可能性が出てきた。また、オオジュリンなどの再捕獲が多く、異動の状況も少しずつ分かってきた。サハリンで放鳥されたアオジや、フィリピンで見つかったツバメなど、短期間の標識調査にしては、多くの情報が得られたと考えている。
中池見では、色々な方が協力しながら活動を続けてきたと感じている。情報交換も行われるので、それだけ効率の良い調査ができたと思う。今後も、標識調査を含む鳥類調査を続け、それが中池見や鳥類の保護に活用されることを願っている。
なお、中池見での活動については、中池見湿地トラストのホームページをご覧いただきたい。資料室では、標識調査を含む鳥類の資料をまとめている。
中池見湿地 | 捕獲されたノジコ |
画像提供:吉田一朗
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