人気投票は誰のため? 
 
 WoCが「第8版に再録するカードや再録時のイラスト(の一部)を人気投票で決める。」という事を始めたようです。こういう意見募集は Magic の歴史上始めての事なのではないかと思います。(少なくとも私個人は過去に記憶がありません。)ただこれ以降はあくまで一個人の見方として書くのですが、今回のいわば人気投票的な企画には間違いなく“ある種の違和感”を感じるデュエリストが少なからずいるはずなのです。

 今までWoCは Magic について、ほとんどすべての事を自社内のスタッフで決めてきました。これは基本セットの再録カードについても同じです。第5版の時に某人気クリーチャーを消し、そして第7版で復活させた(笑)。それもすべてWoCのスタッフが決めた事です。そして我々デュエリストはそのアウトプットに対して、多分ほとんどの人達が“100%承認はしないが従うしかない”という姿勢で付き合ってきました。それはそうするしかなかったからです。ただしすべてのデュエリストがその内容を鵜呑みにした訳では決してなくて、実は“もう基本セットは買わない”あるいは“イラストが差し替えられたカードは集めない”というささやかな抵抗を示すデュエリストも少なからずいたのです。

  Magic がそういう歴史を積み重ねてきて、でもここに来て突然手のひらを返したかのような人気投票の実施。これを見て「WoCは何を考えてるんだ?」というある種の違和感というか不信感を感じるデュエリストは少なからずいるはずなのです。これに関して私は“暗黒の儀式”がかなり象徴的なカードになるだろうと思っています。もしデュエリストが今までも自らの意志で基本セットへの再録カードを決められていたならば、恐らく暗黒の儀式が基本セットから落ちる事はあり得なかったはずです。実際に「俺は暗黒の儀式が使えない Magic なんか続ける気はない。」と言って Standard から離れたデュエリストや、あるいは Magic そのものを止めちゃったデュエリストすら少なからずいたというのが私個人の印象です。でもWoCは Magic の競技化を目指し、その方向性を阻害すると判断した暗黒の儀式を基本セットから消したのです。じゃあもし我々がこれを機に「暗黒の儀式を基本セットに復活させよう!」と一大キャンペーンを起こしたとして、果たしてWoCは首を縦に振るでしょうか。私にはそうは思えません。つまり競技 Magic が目指す方向性とデュエリスト個人の意識、別の表現をすると“競技 Magic ”と“本当に遊んで面白い Magic ”とは相容れない部分が多々あるのです。だってWoCは、だからといって今更“バンド”とか“毒”を復活させる気はサラサラないんでしょうし。 (^^;;;

 それと「再録するカードイラストを人気投票で決める」というのも、私に言わせるとかなり片腹痛いです。 (^^; だってWoCは第7版の発売時に“カード再販時のポリシー”なる物を発表したばかりじゃないですか。今後再録するカードのイラストは全部差し替えるんじゃなかったでしたっけ。それが新しいポリシーで発売した第7版が・・・だったからといって、こんなに短期間に自らのポリシーを変えちゃっていいのでしょうか。それはWoC自身が「第7版は失敗作でした、ごめんなさい。」と自ら宣言したような物です。正直言いますが、私はWoCのそういう姿は見たくなかったです。

 以前の記事で私は「世界中に存在する Magic のプレイヤーチームに『自分達が考える理想の基本セット』を提案してもらってはどうか?」という話を書いた事があります。人気投票という形で個人が好き勝手にカードを提案したのでは、全体のバランスが取られる事は到底期待できないからです。だから基本セット全体を見通した提案をもらい、できればそういう提案から“ Magic の固定セット”を発売して欲しい。要はそういう事です。こういう企画にやる気を持って真剣に取り組んでくれるプレイヤーチームは世界中にたくさんあると思います。(日本国内にどの位現れるかはちょっと分かりませんが。 (^^; )私としてはそういう内容であれば今回の企画には無条件で賛同したのですが。

 今回のこの企画は Magic 史上始めて“一般のデュエリストが基本セット制作に参加できる”という点で画期的な物だ・・・と思いたかったのですが、どうも実際はそうなっていないようです。WoCは自分達に都合のいい意見のみに耳を傾け、でも投票のテーマを絞り込む事で自分達のやり方みたいな物は押し通そうとしています。ただ基本セットが改定される度に、どうもWoCが考える基本セットの理想像とデュエリストが期待している基本セットの内容とがどんどん離れてきた印象を私は禁じ得ません。だから基本セットが売れなくなっていて、その事にWoCが気が付いて軌道修正を始めた。今回の件はそう解釈してまず間違いない気がするのです。

 じゃあ具体的に両者がどう離れていったのか。例えばクリーチャーの特殊能力です。我々は特殊能力を持っていないクリーチャーにはあまり魅力を感じないはずです。またそういうクリーチャーを使う場合でも、間違いなく“軽い”とか“でかい”といった (^^; 何らかの特徴を期待しているのです。でもそういう意味で最近の基本セットは何ともどっちつかずで中途半端です。だから売れない。これって当たり前の話なのです。

 あとカードイラストの件にしてもそうです。WoCだって Magic というTCGがカードイラストの持つパワーによるコレクション性で支えられてきた歴史を理解しているはずです。だからWoCはそのコレクションを促進するためにカードイラストを刷新すると宣言した。でも実際にはうまく行っていない。だから「じゃあ皆さんどういうイラストが良いの?」と聞く気になった。これは企業としてはある意味正しい判断なのだろうと思いますが、でもそうなる前になんでマーケティング・リサーチの1つもしなかったのでしょうか。

 しかも今回の人気投票にはあまりにも制約が多すぎます。恐らく過去に基本セットから消された能力(バンド/毒/ランページ etc. )や、今まで基本セットに再録された事がない能力(側面攻撃/シャドー/フェイジング etc. )を持つカードは多分駄目。あとWoCと喧嘩して(!?)袂を分かったイラストレーターの絵も使えない。 (^^;;; そうなると「人気投票!?、俺には関係ないや。」というデュエリストは少なからず現れるんじゃないでしょうか。少なくともここに1人いますし(爆)。だってさあ、どこをどうひっくり返したって Aysen Crusader(HL) が再録される可能性なんか零なんだもん。 (^^; このカードはそれこそ“能力”でも“絵師”でも再録できない条件にモロ引っかかるので(涙)。

 また Magic が今までにない程競技性を指向している以上、当然そういう視点からの提案が数多く寄せられるはずなのです。それはそれで構わないと思うのですが、しかしそれで果たして“基本セットが昔ほど売れなくなっている”という現状を打破できるのか、私にはかなり疑問だったりします。あまりにも競技向きのオーバーパワーな内容になれば確かに売れるでしょうが、そうすると今度は初心者が基本セットのカードを使いこなせなくなり、初心者が感じる Magic に対する敷居が更に高くなってしまうでしょう。また Standard で禁止カードが山ほど・・・という第4版の再来になりかねません。でも Magic の過去の歴史を振り返ると、1つのカードセットを売るための最強キャッチコピーって「禁止カードになる寸前位のオーバーパワーなカードがいっぱい」なんですがね(笑・・・えない)。ただしそういう人気カードが実際に禁止カードになった途端にデッド・ストック化確定ですが(嫌すぎ)。

あいせんの“本音の部分”

 今回の本音は、改めて Magic のカードイラストについて触れます。

 私個人はWoCが「今後再録したカードのイラストは全部とっかえます。」という発表をした時、内心もの凄い期待感を持っていました。第6版の時にラースサイクルからそのまま再録された幾つかのカードがイラスト的にもの凄く浮いていて (^^; 私としては「今まで以上に統一性がないのはともかく、流石にセンスが感じられなくなったのは問題では。」と考えていました。しかも Magic のカードイラストは年を重ねる毎にそのクオリティに疑問の声が出るようになり、実際にコレクターと言われる人種は最近 Magic の世界では絶滅危惧種に指定されそうな勢いで激減しています。そういう状況がこの措置で改善されるかも知れない。私はそう思ったからです。ただし実際どうだったかは今更書くまでもないでしょう。こういう意見には間違いなく賛否両論あるはずです。でも少なくとも現時点で、WoCは「第7版発売の時に示したあのポリシーは間違いでした。どうか皆さん Magic が再びカードイラストで売れる物になるようにお知恵を貸して下さい。」と自ら宣言したのです。我々としてはまずそういう現実を受け入れる事からスタートせざるを得ません。

 ただそういう現状を見たWoCが取った施策が「今まで発表された Magic イラストの中からより人気がある物を投票で選ばせる」で、しかもその対象はWoCが勝手に決めている。この事に私はかなり失望感を持っています。はっきり言いましょう、我々コレクターという人種は“自分が好きなカードイラスト”があるから Magic を続けてこられたのです。しかし今回のようなやり方では、そのイラストに再び脚光を浴びせて復活させるなんて不可能なのです。これは先日HJが実施した人気投票で話題になった Amy Weber 氏の事例を考えれば明らかです。 Amy ファンは今回の企画に関して、現時点では完全に蚊帳の外です。これは NeNe ファンにしても同じです。それでWoCは我々コレクターに何を期待しているんですか?。「このイラストは多数決で決まった人気のある物だ。だから Amy ファンや NeNe ファンも我慢してこれを集めなさい。」とでも言いたいのでしょうか。はっきり言いますが、そんな事で Magic を離れていったコレクターは戻ってきやしませんよ。

 本編にも書きましたが、WoCは今回の人気投票をあまりにも自分達に都合の良い物にし過ぎなのです。しかし人気投票といったマーケティング・リサーチって、本来は自社に都合の良い/悪い情報を引っくるめて、ユーザーの嗜好やニーズを客観的に把握するために行う物のはずです。ひょっとして世界中のデュエリストが欲しがっている基本セットって、暗黒の儀式が再録されて Amy Weber 氏がイラストを描いている物かも知れないのです。でもそういう世論が今回の人気投票では全くと言っていい程把握できないはずです。それで基本セットが良くなるのか。昔のように初心者から上級者まで笑顔で買いたくなるような魅力のある物になるのか。私にはそうは思えません。私は以前からHJがやってきた販促に関して「それで Magic が良くなるならともかく、何も変わらない(そもそも変える気がない)のなら経費の無駄だから止めた方がいい。(その分を別の販促やカードの値下げに使って下さいよ。)」と言ってきました。今回私はこの言葉をそっくりそのままWoCに対して贈らざるを得ないと思っています。こんな人気投票さっさと止めちゃうか、今からでも遅くないからやり方を改めるべきでしょう。それでは引っ込みが着かないと言うならば (^^; せめて多くのデュエリストが「うっ、こういう設問で攻めてくるか。こりゃ真剣に考えないといかんな。」と感心できる物にして欲しいです。

  Magic が今でもカードイラストをその販促の大きな戦力としている。この事は先日開催されたレベッカ杯で図らずも証明されました。しかし私に言わせるとWoCって特に第6版以降はカードイラストをかなり等閑にしてきた印象が強いです。私はそういう様子を見て「でもWoCってそれでも Magic を売っていく自信があるんだよね。」と思っていたし、日本の多くのデュエリストも私の意見を読んで「 Magic はイラストなんか頑張らなくてもやっていけるんだ。全くこれだからヲタクなコレクターは困る。」とか思っていたはずです。 (^^; でも実際はそうじゃなかったのです。別に私はだからと言って自分の意見を押し付ける気はありません。ただ人気投票という形で我々デュエリストに「おっ、今度の基本セットはやってくれるかも知れない。」と期待させた分、実際に発売された内容が・・・だった時の落胆は大きな物になるはずです。要するに「これを機に Magic のカードイラストに関しても、もう1度考え直すべき時が来たんじゃないか。」という事です。多分これが Magic というTCGを“売れるTCG”に軌道修正する最後のチャンスなのです。

   

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