第二部・総括 
 
 

あいせん:さて、そういうわけで第二部の“総括”です。」
あ い こ :今回はどういった内容になるんでしょうか。」
あいせん:そうだねえ、改めて日本語版に関して僕なりあいこ先生なりの意見を発表していこうか。この問題ってニューカマー獲得に関しても少なからず関係しそうな気がするので。」
あ い こ :はい、よろしくお願いします。」
 
 
あいせん:ではまずあいこ先生に聞きましょう。今のマジック日本語版についてどう思いますか?」
あ い こ :素直な印象として、マジックをやり込めばやり込むほど『私は絶対に買いません』と思っちゃうデュエリストが大勢現れそうな気がします。現在日本で主流になっているマジックの遊び方、要するに競技的なマジックへの取り組み方をしようと思うと、並行輸入の英語版がある以上は日本語版、もっと言っちゃうと国内ルートで流通するマジックは高くて買いたくないでしょう。あと競技プレイヤーを目指すならば当然英語への慣れは必要なので、あえて日本語版でごまかしながらマジックを遊ぶ必要はないですもの。」
あいせん:じゃあ無くしちゃえばいいと?」
あ い こ :そう言い切っちゃうのもどうかとは思うんですが、私は“無くても困らない物”だと思います。多分多くの競技プレイヤーあるいはその予備軍のみなさんも同じ意見じゃないかと思いますよ。」
あいせん:でも少なくとも昔の日本語版は日本のマジックにとって“無いと困る物”だったんだよ。しかし最近はそうじゃない。そういう雰囲気をなぜか日本語版を売ってるホビージャパンが自ら日本に定着させたからね。」
あ い こ :これだけ日本のマジックで競技指向が強まると…ねえ。」
あいせん:そういう時代の変化にホビージャパンや多くの販売サイドが配慮せず、相変わらず無いと困る頃の発想で売っている。だから売れなくなった。そういうことになりそうだね。」
あ い こ :それに関しては私も同じ意見です。実際には『競技を推奨すればカードの需要が増えて日本語版も売れるに違いない』と判断したんじゃないでしょうか。今になってみれば明らかに判断ミスだったと思いますが。」
あいせん:ここで話の本筋からいったん離れるけど、ちょっと日本語版に関して考えてみないといけないことがありそうなんだ。」
あ い こ :何ですか?」
あいせん:うん、日本のマジックの現状をよく見渡してみると、この日本語版の話には“勝者”が存在しないんだ。少なくとも日本国内にはね。」
あ い こ :えっ!?…ああ、言われてみればそうかも。」
あいせん:普通こういう形で日本のマジック、あるいはデュエリストを誘導したのであれば、本来少なくともホビージャパンは“勝者”になっているはずなんだ。でも実際はそうじゃない。むしろホビージャパンは今や“負け組”に入りつつある。自社流通のマジックがどんどん売れなくなってると思われるからね。」
あ い こ :そうなると…日本のマジック関係者で勝ち組の人って誰もいないんじゃないですか!?」
あいせん:端的に言っちゃうとそうなるね。そこでだけど、これに関して1つこういう見方がある。」
あ い こ :なんでしょう?」
あいせん:今年のマジックの国内選手権さ。日本ではサンシャインビルで開催されたそうなんだけど、米国はディズニーワールドだったんだって。この日本と米国の盛り上がりというか市場規模の差はどこから生まれたんだろう。」
あ い こ :えっ…あっそうか、マジックの並行輸入ですか!」
あいせん:そういうこと。我々は頑張ってマジックを遊ぶことで米国のマジック市場を潤わせてるんだ。だって日本の業者にはあまりお金が落ちているように見えないし。まあ落ちていたとしてもユーザーサポートといった面に支出される額は少ないだろうけどね。」
あ い こ :でも結果的にウィザーズ社が儲かってるから、米国のマジックはそれだけ充実した物になっている…なんかくやしいですね。」
あいせん:これはかなり初期に発表した僕の意見なんだけど、ウィザーズから見た日本でのマジック販売って“欧米人に安く快適にマジックを遊ばせるための資金稼ぎ”が主目的になっている気がするんだ。欧米は消費者の目が厳しいから、価格のつり上げなんかを図ればあっという間にユーザーはマジックを離れてしまう。しかもマジック販売店間の競争も激しいし、他の遊びとのシェア争いもある。でも日本の消費者ってご存じの通りアマアマだよね。これなら1パック500円でマジックを売ったって誰も文句は言いそうにない。」
あ い こ :でも実際には日本人デュエリストは並行輸入に…あ、あいせん君は『ウィザーズ社はそこまで計算していた』と見てるんですか?」
あいせん:その通り。それこそホビージャパンに日本語版を扱わせた当初からね。だって日本のマジックが460円とか500円で売られていて、同時に並行輸入の英語版が300円そこそこであれば、普通はそっちを買わない方がどうかしてる。こうすればウィザーズはホビージャパンから莫大な契約料や仕入れ代金を受け取り、同時に米国の業者をも潤わせることができる。まさに一石二鳥ってやつだよ。」
あ い こ :つまり日本人デュエリストはウィザーズ社にまんまと乗せられた!?」
あいせん:表現が適当かどうかは分からないけど、結果としてそういうことになるかな。」
あ い こ :でもあいせん君、まさかこの推察までいつものように『このお話には論拠があります』とか言わないでしょうね?」
あいせん:あるんだな、それが。 (^^;」
あ い こ :えええっ、まさか!」
あいせん:実は今の日本語版がまさにその論拠そのものなんだ。」
あ い こ :どういうことですか?」
あいせん:ほら、以前ウルザサイクルの頃に突如日本語版のフォントが変わったって事件があったでしょう。あのフォントって日本人が誤読しそうな分かりにくいフォントだと思うんだ。『アクリディアン宏(虫)』とか『中べ(心)部の防衛』なんて福井のイベントでもネタにされてたでしょう。」
あ い こ :はい、確かに。」
あいせん:じゃあなんでウィザーズはああいうフォントに変えたんだと思う?しかも日本語版発売から2年以上経って突然変えたんだよ。」
あ い こ :え!?、それは…なんでですか?」
あいせん:この部分はあくまで僕個人の想像だけど、あれは欧米人が中国語版と見間違わないように変えたんだと思ってる。」
あ い こ :!?」
あいせん:あのフォント変更による影響やその理由を推察してみると、ある結論にたどり着くことになる。ウィザーズは日本語版を日本人のためになんか作っちゃいないんだ。欧米人に『マジックは日本でも売ってるぞ!』とワールドワイドなところを見せて、漢字を珍しがる欧米人プレイヤーの話題にしよう。むしろそういう目的の方が大きい気がするよ。」
あ い こ :…さすがにそこまで考えませんでした。」
あいせん:だって当時も日本語版の主な購入層は小中学生や高校生だったはず。そういった人達にあえてあんな読みにくいフォントでカードを提供することにメリットはないはずなんだ。ましてや当時既に日本のマジックは競技指向に突き進みつつあったんだし。」
あ い こ :確かにそうですね。実際に公認トーナメントでカード名の読み違えによるデッキ記録シートの誤記入があったというお話もありましたよね。」
あいせん:マジックの世界では日本語版すら日本人のためではなく欧米人のために存在している。だとすれば、当然マジック全体がそういう発想で動いていても何ら不思議じゃない。だから日本でのマジックの流通システムだって日本人デュエリストやバイヤーのための物じゃないんだ。だって実際にそうなってるじゃない。」
あ い こ :…」
あいせん:でも、僕はこのことでウィザーズを攻める気はサラサラないよ。むしろそういう商売をやりつつこれだけ多くの日本人マジックファンを獲得した。ある意味多くの日本人をだましたことに敬意すら払いたい位ですよ。あ、これは冗談でも皮肉でもなく本心から言ってるからね。」
あ い こ :なんか怪しいですけど(じと目)。」
あいせん:だって、少なくとも日本人デュエリストのほとんどすべてが、結果的にそういう流通システムに関して文句を言ってないんだから。『なんで日本のマジックはこんなに高いんだ。まあでも並行輸入で安い英語版が買えるからいいか。』ってね。」
あ い こ :あ、見ようによってはこれって変ですよね。だってそういう流通を元々承認したのは誰でもないウィザーズ社なんですから。」
あいせん:要するに“ユーザーをだます”とはこういうことなんだよ。どこかに悪役を作ってそこに批判を集中させておけば、周囲の人達には矛先は向かない。たとえその取り巻きの中に裏で糸を引く“悪の親玉(失礼)”がいたとしてもね。ただし僕はあの件でホビージャパンのだらしなさには落胆したけどね。なんでこんな大事なことすらウィザーズに直言できないのか。だから日本のマジック市場が日本人のために機能しないんだって。」
あ い こ :あ、それだったらお話を本筋に戻しますけど、そうなるとあいせん君はマジック日本語版をどうすべきだと思うの?」
あいせん:そもそも根本的に“本当の意味で日本人のための商品にすべき”だと思うよ。それこそ我々が納得のいくクオリティの物を納得のいく値段で買えるようにする。まずはそこからスタートだよ。ただ今となっては実現は極めて難しいと思うけど。」
あ い こ :そうなると“現実的な対応”を考えざるを得ないんだけど…」
あいせん:現実的対応となると話は180゜方向転換するだろうな。基本的には日本のマジックをすべて並行輸入の英語版にシフトさせるのがベターだと思われる。日本国内の販売店がすべて並行輸入の英語版をメインにマジックを売れば、少なくとも価格の面ではかなり欧米の水準に近づくことができる。他の国産TCGと比べてもそれなりにお得感を出せそうだし。」
あ い こ :でも日本語版がないとニューカマーさんがマジックに感じる敷居が高くなりますよ。」
あいせん:そうとも言えないよ。同じお店に500円の日本語版と350円の英語版があったとしたら、初心者に勧めるとしたらどちらがより親切だろうか。」
あ い こ :…」
あいせん:そうやって悩まないといけない状況が既に終わってるんだって。」
あ い こ :言われてみればそうですね。普通なら間髪入れず『日本語版を勧めよう!』って言える状況にすべきなんですよね。」
あいせん:僕もそう思うよ。僕だって日本語版でマジックを始めたデュエリストだし、日本語版を売って飯を食っていた時期もある。だから本当は日本語版には頑張って欲しいんだって。」
あ い こ :でも今のままだと衰退の一途ですよね。それこそ基本セットとか構築済みデッキ辺りと似たような理由で。」
あいせん:そうだなあ。それこそ抜本的な発想の転換が必要な気がするよ。これは売り手にも買い手にも言えることだけど。」
あ い こ :…ところであいせん君、最近ちょっと思ってることがあるんですけど。」
あいせん:なんでしょう。」
あ い こ :ここでの話題って、なんか福井のイベント会場とか、かつての事務局辺りでやっていた“暗黒座談会”の雰囲気そのもの…」
あいせん:おお、あいこ先生もようやく気が付きましたか。」
あ い こ :確信犯だったんですか!?」
あいせん:でも実際の暗黒座談会の方が内容は遙かにダークだぞ。 (^^;」
あ い こ :そういう問題じゃないでしょう。」
あいせん:はっきり言うけど、こういう意思表示って必要だと思うんだ。『日本人デュエリストもバカじゃありません。ちゃんとウィザーズなりホビージャパンのやることには厳しく目を光らせてますよ。』というね。」
あ い こ :確かにそうかもしれませんね。日本人デュエリストの声って特にウィザーズ社に届く機会はなかなかなさそうですし。」
あいせん:ただマジックに取り組む姿勢として、ウィザーズの目指す競技マジックに共鳴して着いていくのも正解だし、それに逆らって別方向に突っ走るのも正解なんだと思いたい。でも同時に両者が向かっている目的地は同じであってほしいけどね。それは『日本でマジックがもっと遊ばれるようにしたい』『マジックそのものやこの世界の人達を有名にしたい』という所に帰着するんだと思う。」
あ い こ :はい、それは間違いないと思います。そうでなければ両者が同じマジックという遊びを共有できるはずがないですから。」
あいせん:でも少なくとも日本のマジック界では、特にホビージャパンとかその取り巻きがもの凄く狭い視野しか持っていなくて、自分の意に添わない勢力を排除してきた気がする。実際にうちも何度か排除されかけたし(笑…えない)。」
あ い こ :へへへ…その件に関してはノーコメントで〜す(笑)。」
あいせん:あ、また逃げましたね(笑)。この人どこでこういう世渡り術を覚えてきたかなあ。」
あ い こ :というか、あいせん君が世渡り下手すぎるんです!」
あいせん:…すいません、それに関しては何も言い返せません。 (^^;」
あ い こ :あ、あと残るニューカマーさんの獲得についてですが、実は今までのお話の中にヒントっぽい内容がありましたよね。」
あいせん:そうだね。要するに『初心者に日本語版を笑顔で勧められるような雰囲気が生まれれば、自然とニューカマーが感じるマジックの敷居は低くなるだろう。』という感じかな。」
あ い こ :それには何と言っても“値下げ”なんでしょうか。」
あいせん:最善策は間違いなくそうだろうなあ。でも実はそれ以外の工夫も必要だろう、というのが最近の僕の意見です。」
あ い こ :そうなんですか。」
あいせん:最近“スローフード”という発想が話題になってるよね。言うまでもなくこの発想は“ファーストフード”に対する物だけど、要はこれって『昔の食生活を見直そう』ということなんだ。何も新しいことを始めようと言ってるわけじゃない。」
あ い こ :つまり、マジックもそうなればいいと…」
あいせん:そういうこと。そもそも新しくマジックを始めたニューカマーを、わずか数ヶ月で公認トーナメントに参戦させようという発想自体が本来おかしいんだって。スタンダードで使えるエキスパンションは2年周期で入れ替わる。だったら1人のデュエリストが2年計画で公認トーナメントへのデビューを果たしたっていいんじゃないかな。そうすれば多少割高な日本語版を買うことにも抵抗感が薄れるはずだし。」
あ い こ :でも、今はその準備期間の間デュエリストをサポートする雰囲気がないですね。」
あいせん:そうだね。周囲はほぼ全員がスタンダードを遊んでいるし、当然ニューカマーにも勧めてくる。そうなると自分だけがのんびりカードを買っていることがさも悪いことのように思えてしまうし、何より対戦相手がいなくなっちゃう。それで他の人達がどうしているのか情報を得るためにGAMEぎゃざを買うと、そこにあるのは『競技マジックをやらないヤツはデュエリストにあらず!』的な煽り文句ばかり。これじゃあ普通なら息が詰まっちゃうよ。」
あ い こ :だからスローフードならぬ“スローマジック”なんですね。」
あいせん:しかもそうやって自分でデッキを考える経験って、例えばその後競技マジックに入った時にも絶対に役に立つはずなんだ。ちょうどスローフードがファーストフードよりも体に優しくて役に立つ物が多いのと同じかな。」
あ い こ :あ、それってかなり前に書いた“デュエリストの背骨を育てる”ってお話ですね。」
あいせん:うん、今はデュエリスト、特に競技プレイヤーが促成栽培で量産されてる感じで、正直言って個々の魅力というか旨味に欠ける印象が強い気がするんだ。もっと人をじっくりと育てる、育てられる環境をマジックに整えないと、いよいよマジックは佐竹雅昭氏の知名度以外に頼る物がなくなっちゃうよ。あの人の背骨は半端じゃなく太そうだけどね。」
あ い こ :あ、第三部のテーマが見つかりました。『マジックで人を育てるには?』にしようかと思うんですがいかがでしょう。」
あいせん:いいんじゃないでしょうか。これもなかなか難しいテーマだけどね。」
あ い こ :ということで、第二部の総括はこの辺にしましょう。」
あいせん:了解です。でも今回はいよいよ“総括”になってない気が激しくします(笑)。」

※ “ Postscript ”はお休みします。
   
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