Postscript 
 
 

あ い こ :あいせん君、質問があるんですけど。」
あいせん:なんでしょうか。」
あ い こ :一昨日辺りに『オンスロート日本語版にレアがないパックがある。』という話題が出たじゃないですか。でも一般世間ではあまり騒ぎになっていない気がするんですけど。」
あいせん:うん、福井の某店でも聞いてきたんだけど、今のところエラーパックを引いた人はいないと思われるって。」
あ い こ :なんでしょう、生産ロットの関係なんですかね。」
あいせん:おお、あいこ先生も随分と難しい用語を使うようになったねえ(笑)。でもちょっと違うみたい。なんでもエラーが出たのはトーナメントデッキみたいだよ。」
あ い こ :あ、そうなんですか。」
あいせん:僕も某所の日記を読んでようやく理解したんだけど。つまり『一般のデュエリストは日本語版のトーナメントデッキなんて買っちゃいないから被害が出ていない。』ということなんじゃないかな。」
あ い こ :…それ、なんか素直に喜べないんですけど。」
あいせん:だってそもそも今の日本のマジックは、日本語版を買わせるための動機付けに完全に失敗しちゃってるもん。プレミアイベントで無理矢理使わせて売り上げを維持してる、そんな意地悪な見方すらできるくらいさ。そういう状況で1つ1500円のトーナメントデッキを買わせるのは到底不可能だろう。」
あ い こ :確かに言われてみるとそうですね。でもあれだけ誤植のある日本語版を、そうと知りつつリミテッドのイベントで使っちゃうのは、私にはなんか納得いかないです。」
あいせん:確かになあ。ちょっとこの話題はこの後の第四部・総括でも触れますか。」
 
 
あいせん:さて、話を本題に戻しますか。この『成功例の真似をしよう』という発想そのものは僕も賛成しますよ。」
あ い こ :そうなんですか。なんかあいせん君はこの手の真似って嫌いそうなんですけど。」
あいせん:ああ、そうでもないよ。昔勤めていた会社の上司が『成果物をゼロから作るという発想しかない人は仕事ができない。既にあるならそれを流用して活用しろ。』とか言っていたから。ただしただ真似してコピーするだけというのは論外だけどね。少なくともそれじゃあその道の権威には絶対になれないもん。」
あ い こ :その道についてノウハウを修得して基礎を身につける。そういう部分では真似事って大事ですよね。」
あいせん:そうだな。野球とかサッカーってそうやってうまくなるし、それでプロ選手が大勢育ってるわけだから。でも少なくともマジックには、発売から6年も経つのに日本で売るためのノウハウが全くないよ。ホビージャパンは相変わらずそういった販促はてんでダメだし、ウィザーズは日本の市場を知らなすぎ。ただウィザーズの方はそれが分かったから、ハリーポッターやデュエル・マスターズは別の企業に任せたんだろうけど。」
あ い こ :そういうことでしたら、今回はここで簡単な“事例研究”をしませんか。」
あいせん:ああ、いいですよ。」
あ い こ :まず遊戯王OCGなんですけど。」
あいせん:あれは何よりも“ジャンプの連載マンガ”に尽きるかな。それ以外無いといっても言い過ぎじゃないくらいだよ。」
あ い こ :確か遊戯王は最初“マジックマンガ”になる予定だったんですよね。」
あいせん:そうだよ。一度はマジックのマンガとして連載されかけたんだけど、なぜかダメになってオリジナルTCGのマンガになった。そういうことらしいです。理由は『ホビージャパンが横槍を入れた。』というのが有力な説になってる。日本でのマジック普及の手柄を集英社に取られる、あるいはマジックの話題を奪われて自社出版物が売れなくなるのを嫌った。真相はそんなところじゃないかな。」
あ い こ :そういう遊戯王が実際にTCG化してあそこまで成功した理由って何なんでしょう?」
あいせん:ジャンプの連載マンガによる知名度とゲームそのものへの関心度の高さ、そこに小中学生にも分かりやすいゲームシステムと買いやすい価格設定が見事にマッチした。一言で言うとそんな感じかな。」
あ い こ :遊戯王OCGというTCGそのものの出来はどうなんですか?」
あいせん:それは僕には情報がないから言及はできないよ。でもこの場合そんなのどうでもいいんだけどね。」
あ い こ :どういうことですか。ゲームが遊ばれるかどうかのお話でゲームの出来云々を語る必要がないなんて。」
あいせん:“遊びが流行る”とはそういうものなんです。」
あ い こ :あ、そういうことですか。」
あいせん:遊戯王OCGが全盛だった頃、ある小学校の先生が自分のクラスでどの位遊戯王OCGが遊ばれてるか調べてみたんだ。すると男子生徒だけなら10割、女子生徒を合わせても9割が持ってたんだって。」
あ い こ :女子生徒を合わせても9割というのはすごいですね。」
あいせん:こうなるともはや“そのクラスでは遊戯王OCGなしでは友達の輪に入れない”という状態だろうね。」
あ い こ :確かにそうなっちゃうと、ゲームの出来が云々なんて話は必要ないですね。」
あいせん:まあ取りあえず買っとけ、そんな感じだろうな。ちなみに一部のコンシューマRPGもそんな感じで売れてるけど。」
あ い こ :やっぱり遊びが流行ったときの勢いって凄いですよね。」
あいせん:そうだね。マジックプレイヤーは昔から『日本のTCGはマジックが牽引者だ。』みたいな顔をしてるけど、何だかんだ言っても遊戯王OCGがなかったらここまでの市場にはならなかっただろうな。なにしろ日本国内のTCG市場の半分以上は遊戯王OCGなんだし。あと遊戯王OCGが無かったら、ひょっとするとマジックはもっと早く衰退してたかもしれないよ。」
あ い こ :なんで?」
あいせん:遊戯王OCGがない状態でTCGショップがここまで維持できたとは到底思えないもん。TCGショップがなければデュエルルームもシングルカードも存在しないわけだから。あと何だかんだ言って日本でTCGという遊びに一定の市民権を与えたのは遊戯王OCGだからね。実際に遊戯王OCGからマジックに流れてきたデュエリストは少なくないと思うし。」
あ い こ :あ、そういえは遊戯王OCGってWebサイトでの初心者勧誘ってやってるんですか?」
あいせん:多分こうなっちゃうと必要もないだろうな。『遊戯王OCGを知りたければジャンプのマンガを読め。』で話が終わっちゃうから。それに遊戯王OCGの対象年齢って、そんなに積極的にインターネットを利用してるとは思えないし。」
あ い こ :それじゃあ次にデュエル・マスターズなんですけど。」
あいせん:うん、デュエル・マスターズは今のところタカラが持つ玩具販売網を活かした販売を展開してるみたい。タカラは過去にいくつものヒットゲームを生み出してるから、海の物とも山の物とも分からないデュエル・マスターズにしても、販売店は一定の注目をせざるを得ないだろう。」
あ い こ :いざヒットしたときに商品がないんじゃお話になりませんもんね。」
あいせん:そういうこと。そういう時に頼りになるのは、やはり日頃からの問屋との関係なんだ。だからヒットする前からある程度仕入れて恩を売っておかないといけない。そういう発想はあるよ。」
あ い こ :それじゃあデュエル・マスターズのオフィシャル・サイトはどんな様子ですか?」
あいせん:前にチラッと見に行っただけだけど、すべてのカード画像が公開されてたりして、ゲームの詳細を調べるにはかなり便利そうな感じだった。ただ未経験者が見ることを前提にしてる感じじゃなかったな。」
あ い こ :あ、今までのお話でちょっと思ったんですけど、実はインターネットってマジック未経験者にマジックを勧めたりするのには向かないメディアなんじゃないですか?」
あいせん:おお、いいところに気が付きましたねえ。まさにその通りだと思います。」
あ い こ :でも、それだとここでお話が終わっちゃうんですけど。 (^^;」
あいせん:それは仕方ないでしょう。そもそもインターネットって、結局は自分でブラウザにURLを入力するか、アンカータグをクリックしなければ何も表示されない。つまり『自発的にその情報を得る』という動機付けを与えないとダメなんだ。でもマジックにはそもそもそういう動機付けができてないから、インターネットの情報をマジック未経験者に見せることができていない。」
あ い こ :あ、だから逆にマジックには未経験者用のコンテンツがないんですね。」
あいせん:そもそも必要だと思われてないからね。実際に現状では必要なさそうだし。」
あ い こ :それに比べて遊戯王やデュエル・マスターズは、子供達が自発的に買うマンガ本の中に情報がいっぱい詰まってる。」
あいせん:元々他の情報を求めて本を買った人にもその情報は飛び込んでくる。そして見ると面白そうだし、自分の周囲でも話題になってる。」
あ い こ :それなら買ってみようかな…そう思っても不思議じゃないですよね。」
あいせん:元々そういう面白そうな遊びや話題に飢えてるところに情報が飛び込んで来るんだから。」
あ い こ :ねえ、マジックでもそういう販促をやる方法ってないんでしょうか。」
あいせん:難しいだろうなあ。なにしろマジックには“メディア・ミックス”なんて発想は微塵もないからね。ドリームキャスト版のマジックですら、結局タイアップ・イベントを開いたのはゲームに話題性が無くなって燃えかすになった後というお粗末振り(笑)。」
あ い こ :…それ、笑えないんですけど。 (^^; ただドリームキャスト版のマジックはオンライン対戦がなかった時点で負け確定だったというお話もありますし。」
あいせん:そもそもコンピュータ相手の対戦がそれほど面白いはずがないから、ゲームを売りたいならオンライン対戦は必須だったし、それができないならむしろゲームそのものを発売しなくても良かったくらいだよ。ただゲームの発売直後にメーカーから出された『ネット対戦のシステムはできてたのに…』というコメントに、その悔しさがにじみ出てたけどね。」
あ い こ :やっぱり難しいですね。マジックの宣伝というか売るための情報発信って。」
あいせん:結局のところ、そういうのってニーズがないとダメなんだよ。満腹の人にごちそうを与えても喜ばない。でも3日間絶食してた人なら昨日の残り物のご飯だって喜んで食べる。ちなみに腹ぺこで目が回ったトルネコなんか腐ったパンでも食べるぞ。」
あ い こ :最後のは余計です(笑)。」
あいせん:つまりマジックを売る側は、そもそも『いかにして世の人達をマジックの情報に飢えさせるか?』を考えるべきだったんだ。そうすればどんなに宣伝や販促がお粗末でも、向こうからその情報に食らいついてくるから。ちなみにたまごっちも遊戯王OCGもそれがうまく行ったからブームになったんだ。」
あ い こ :それは例えばどういうやり方になるんでしょう。」
あいせん:そうだなあ、たまごっちは『女子高生がなんか面白そうなゲームを遊んでる』から話題性の突破口を開いたんだ。確か最初は一部の女子高生にタダ同然で配ったんじゃなかったかな。」
あ い こ :あ、そうやって彼女たちが遊べば、それを見て一般の人達やマスコミが『あれは何だ?』と話題にし始める。」
あいせん:そういうこと。その他具体的には『超が付く位の有名人が夢中になって遊んでる』とか『面白い人気マンガのモチーフになってる』とか。少なくとも『賞金総額5万ドルの競技イベントがある』じゃあダメだろうな。そんなの単なるユーザーサポート情報でしかないし、第一未経験者や初心者にはあまりにも話題として縁遠いから。巨人の松井選手が年俸を5億円もらってるからといって、それを聞いて野球を始める人がいないのと同じだよ。」
あ い こ :となると、マジックはやっぱり“有名少年マンガ雑誌への連載”なんでしょうか。」
あいせん:というか、僕に言わせると『もう他に取り得る術はない』と断言してもいいと思うよ。なにしろマンガは小学生に囲碁すら始めさせるパワーを持ってるからね。」
あ い こ :あ、確かにそうですね。」
あいせん:少なくともホビージャパンが推進してきた競技指向によるマジック拡販は、今やほぼ完全に崩壊しちゃったもん。口先であおるだけでろくなサポートもしない。プレミアイベントを開いても多くの人達がお目当てにしているバイヤーブースが置けないような狭い会場しか借りられず、来日したイラストレーターにトイレの横でサイン会をさせちゃう。」
あ い こ :そんなひどいことしたんですか!?」
あいせん:なんかそうみたいだよ。しかも今度は報告書類の不備が多数指摘されてポイントやランキングの信憑性そのものが怪しくなってる。そして何よりも、おかげで日本語版が売れなくなるという大・本末転倒状態だもん。」
あ い こ :だからといって競技マジックの必要性が無くなったわけじゃないでしょうけど、少なくとも何らかの方法で体勢を立て直す必要はあるでしょうね。あと何よりも日本語版の拡販に有効な方法を見つけないと。それも早急にですね。」
あいせん:う〜ん、僕は日本語版についてはもう既に手遅れになってる気がするけど。」
あ い こ :それを言っちゃうとお話が終わっちゃうじゃないですか。」
あいせん:まあ、確かに。」
あ い こ :ねえ、例えばの話、集英社といった少年マンガ雑誌の出版社にウィザーズ社かホビージャパンが頭を下げて、マジックマンガの連載をお願いするということはできないんでしょうか。」
あいせん:少なくともホビージャパンは絶対やらないだろうな。そういう面倒な作業は基本的にしない会社だから。あとは何よりも、そういうタイアップをしてもマンガ雑誌の出版社側には何のメリットもないよ。今さらマジックの話題性で自社雑誌の発行部数が伸びるとは到底思えないから。」
あ い こ :あ、言われてみるとそうかも。タイアップって結局のところ、両者に利益があるから協力関係が成り立つんですものね。」
あいせん:しかも、これに関しては過去に具体的な“失敗事例”があるからねえ。」
あ い こ :あの某マンガ雑誌ですね。初回にプロモーショナルカードを付けたところまでは凄かったんですけど、後が続かなかったですから。でもトーナメント・リーガルなプロモーショナルカードでなかった割にはかなり話題になりましたけどね。」
あいせん:ジャンプマンガという話で言うと、以前“こち亀”でたまごっちを取り上げて、それがブーム化のきっかけの1つになったという話があるよね。でもそれにしたって、読者がマンガを読んで『これなんだろう?』『面白そうだから買ってみようかな』と思えるような遊びでないと取り上げにくいはずなんだ。」
あ い こ :確かに。こち亀でマジックを取り上げる様子って私には想像できないですもん。」
あいせん:いきなり両津さんが『賞金獲りに日本選手権に殴り込みだ!』はないだろうな。あと何よりも両津さんなら言いそうだよ。『なんで日本語版ってこんなに高いんだよ。中身が同じなら安い英語版買えばいいじゃねえか。』ってね。」
あ い こ :あとマジックってマンガの中で取り上げるにはシステムが複雑すぎですね。」
あいせん:それも言えてるかな。だから結局デュエリスト自身が剣や斧を持って戦うしかなくなる。」
あ い こ :それは間違ってると思います(笑)。」
あいせん:やっぱり改めて思うけど、なんでマジックはコロコロコミックの連載マンガを大事にしなかったんだろう。あとはやはり遊戯王だよな。この2つの失策が日本のマジックにとっては極めて痛かった。近い将来に僕が『マジックはなぜ滅んだのか?』という振り返りを書くとしたら、この2つの事件は大きく取り上げざるを得ないだろう。」
あ い こ :あとはやっぱり…」
あいせん:…ああ、その先は言わないで。まあ今さら言わなくてもここを読んでる人達には分かってるだろうし(笑)。」
あ い こ :あ、やっぱり(笑)。」


     

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