乗合バスに見るプロの仕事

 私はバイクで移動するようになった最近も、時々乗合バスを利用します。福井の公共交通機関(電車/バス)で私は乗務員の応対等で不愉快な気分を味わされた事はないのですが、時々考えさせられる出来事に出会う機会があります。

 ● ケース1 〜遅れてきた客〜

 私がバスに乗っていて最も心を痛める瞬間、それは遅れてきたお客さんがバスに乗り損ねる光景を目撃した時です。そしてこの時の運転手さんの対応については、後々まで考えさせられる事があります。明らかに自分のバスに乗ろうとやって来たお客さんが停留所でない場所で手を上げている、こういう時に運転手さんとしては「お客さんである以上はバスを止めて乗せる。」「停留所でない場所での乗車はご遠慮願う。」という2つの選択肢があります。この対応のうちどちらがベターかというのには人それぞれ意見があるかと思うのですが、私個人は“そのどちらも明らかな正解とは言い難いのではないか?”と感じています。

 バスの中には大抵の場合お客さんが乗っています。そのお客さんはちゃんと停留所でバスを待ち、バスの定刻通りの運行を期待して乗っています。ひょっとすると何らかの用事で急いでいるかも知れません。そういうお客さんが乗っている状態で不用意にバスを止める事は、既に乗っているお客さんのバス会社に対する風評を悪くしかねません。ましてやそんな飛び込みのお客さんが何十人も現れたのでは、バスの定刻通りの運行等できるはずもないのです。

 ですが、私個人は歩道を走っている人を見つけてバスを止める運転手さんが好きです。「ちゃんと回りを見ているし気が利くよなぁ。」と思うからです。またそうやって無事バスに乗れた人も間違いなくうれしいでしょうし、バス(の運転手さん)に対する印象は明らかに良くなるでしょう。元々バスの乗客全員がそうやってバスを停車させる事を容認しているのであれば何ら問題はないのです。ただやはり世の中には・・・な方がいらっしゃいますので(笑)。

 ですから「もし自分がバスの運転手さんだったらどうするだろう?」と考えると、私には明確にどちらの対応をするかは決められないのです。ただ「あの人怖そうだから無視。」「あ、綺麗なお姉ちゃんだ、乗せよう。」流石にこれはまずいと思うのです(笑)。運転手さんがプロである以上、自分がどちらの対応をとるかは明確なポリシーを持って一貫したやり方を取って欲しいですし、多分実際そうされているだろうと思います。「他にお客さんがいない時には止める。」そういった対応も考えられるでしょう。

 ● ケース2 〜払われすぎた料金〜

 福井の乗合バスはその大部分が料金後払いです。市バスと違って乗った距離によって料金が変わるため、降りる時でないと料金が分からないからです。ところがこのシステムが時として“料金を払いすぎる”お客さんを生み出します。当然お客さんとしてはその分を取り戻したい訳ですが、しかしお金は既に料金箱の中&鍵は営業所にあるので開ける事はできません。

 流石にこういうケースで運転手さんが自分の財布からお金を立て替える事はできません。実際間違って多く入れたかどうかはその場では分かりませんし、その間バスを止める事にも問題があるからです。ましてや「金返せ。」「できません。」の押し問答が始まるのでは、他のお客さんはたまった物ではありません。一般的にこういう場合は“営業所まで来てもらい本当に入れすぎたかどうかを確認して返す”という対応になっているようですが、たかが10円100円のためにそこまでは・・・という気がします。ましてや子供なら尚更でしょう。

 ところが先日、このトラブルに対して画期的な対応を取った運転手さんを目撃しました。小学生2人(多分姉弟)がバスを降りる際にお金を払ったのですが、前の女の子が2人分の料金を払ったのに後ろの男の子が間違って100円を料金箱の中に入れてしまったのです。運転手さんもこれを見ていて「あっ、入れんでいいのに。」と止めたのですがあとの祭り。さてどうしたものかと思っていると、すかさず運転手さんは私に向かって「お客さんは(料金を)現金で払うの?」と聞いてきたのです。私はすぐに運転手さんが何をしたいかを理解し、その男の子に持っていた小銭から100円を渡しました。2人が降りると運転手さんは「料金払う時100円引いて払っての。」と言ってバスは出発。こうしてそのトラブルはわずか1分足らずで無事解決を見たのです。

 ● “プロの仕事”とは?

 私個人はプロの仕事を表すキーワードとして“首尾一貫”“臨機応変”“顧客第一”等という物を持っています。仕事に対する考え方やポリシーを一貫させる事、でもその場に応じて柔軟な対応をする事、そして何よりもお客さんの事を考えた仕事の進め方をする事、それがプロとしての仕事だろうと思うのです。私は今まで幾つか全く業種の違う仕事を経験してきましたが、この3つはどの職種においても重要でしたし、これ無しではとても仕事などできる物ではありません。

 今回書いた話って、ひょっとすると実際にバスを運転している運転手さんですら問題意識を持っていない可能性があります。そしてそれはすべての職業で言える事です。自分の仕事に常に問題意識を持って取り組む人とそうでない人では、その結果には明らかな違いがあります。お客さんに満足感を与えて自分や会社が儲かるような仕事の進め方ができる人、それこそが“プロ”と呼べるレベルの職業人ではないかと私は考えています。そして人間が報酬をもらって仕事をする以上、全員がプロになるべきなのです。


   
なお、このページの内容に関する文責はすべて私 あいせん にあります。