鉄仮面
「鉄仮面」。ディカプリオ主演の「仮面の男」という映画でご存知の方も多いと思います。
固有名詞がないのは、映画でも分かるように、結局の所、誰か分からないものですから、ここでは、鉄仮面と題さしてもらいます。

フランスはルイ14世の御代、バスティーユ牢獄に一人の囚人が投獄されていました。
その囚人は、仮面をかぶせられている上に、牢獄の中では特別な存在として扱われていました。
専用の部屋や食器が与えられ、この囚人の前では、牢獄長すらも座することを許されていませんでした。
しかし、その囚人は、普通の囚人以上に厳しい牢獄生活を強いられていました。
彼が、余計なことを話そうとすれば、その場で殺してもいいことになっていました。

その囚人の素性はいっさい誰にも知らされていませんでした。
ただ、その命令を下したのがルイ14世自身であるという事実意外は。

鉄仮面の男は、最初(1669年)はピネロル牢獄に投獄されていました。
その後、1687年、南フランスのカンヌ湾にあるサント・マルグリット島に移され、1698年、バスティーユ牢獄に送られてきました。

さて、この人物はいったい誰なのか?
鉄仮面の真相をめぐるいくつかの仮説が産まれました。
国王の隠し子説、国王の双子の弟説(先の「仮面の男」はこの節を採用)、王妃の私生児説・・・。
しかし、そんなうわさの中にもひとつだけ共通点がありました。
それは、仮面の男が国王にそっくりだから、投獄されているということでした。


ヴォルテールの仮説。
ルイ13世は性的に不能であり、王妃アンヌは宰相マザランと不倫関係であるという噂が当時流れていました。そこで、 「仮面の男は、ルイ14世の父親、ルイ13世の王妃アンヌと、当時の宰相マザラン枢機卿の間に生まれた私生児である。」
という仮説をうちたてました。
さて、アンヌはこの産まれた子を国王の実子だと信じさせる必要がありました。
そこで、王妃からそのことを打ち明けられていた枢機卿リシュリューは、国王と王妃が一夜を共にするようにしたのですが、その時、皮肉にも本当に懐妊してしまいました。
そして、産まれたのがルイ14世でした。その事実に慌てた枢機卿らは国王にばれないようにこの私生児をよそに隠しました。

時はながれ、成人したルイ14世は、やがて、自分にうりふたつの兄がいることを知ったのでした。
そして、ルイ14世は、この兄が国王の座を要求してくるのを恐れて、兄を捕らえて仮面をかぶせ、牢に幽閉したのでした。

しかし、この説は、現在では信憑性は低いとされています。
理由は、記録に矛盾点が多いことと、何より、当時、王妃の出産は全廷臣の眼前で行われ、隠しておく事は不可能だったからです。


次にアレクサンドル・デュマの仮説。
これは、彼の小説「三銃士」で書かれていた、「仮面の男は、ルイ一四世の双子の弟である。」 という説です。
この根拠は、「ルイ14世が誕生したのは1638年9月5日の昼11時ごろで、弟が誕生したのは、その夜8時ごろだった」
との内容の機密文書の存在でした。

しかし、この説も現在は、この機密文書が偽造文書であるとの説が強いのであります。

では、鉄仮面の正体は?というと、最近の一番有力な説は、 「腹違いの兄弟」説です。
ルイ14世の親衛隊の士官に、仮名と思われていた囚人の名前、ユスターシュ・ドージェという名前が発見されたのが糸口になりました。
彼の記録を調べると、出生記録はありますが、死亡記録はなく、そして、彼の消息は1668年から不明になっているのでした。
彼は、放蕩者で、いつも喧嘩や決闘騒ぎを起こし、そして、王宮の庭で酒がらみで流血騒ぎを起こし、親衛隊の士官をクビになったのでした。
そして、一文無しになり、家族からも見放されたユスターシュは、あることでルイ14世をゆすろうとして捕らえられ、
幽閉されてしまったのではないかと見られています。

で、ユスターシュがルイ14世をゆすろうとしたしたネタこそ、自分がルイ14世の腹違いの兄弟であるということでした。
確かに、今に残るユスターシュの肖像は、ルイ14世にうりふたつなのです。

ルイ13世に後継ぎが産まれないことを心配した宰相リシュリューは、代理の父親をたてて、王妃アンヌに子供を産ませることを考えました。
そして、その種付け役として選ばれたのが、フランソワ・ド・カヴォアという男でした。
彼の一族の姓はドージェですが、彼の一族が所有していた領地の名を取って、いつも、カヴォアと呼ばれていました。

かくて王妃がカヴォワとの間に産んだ子は、無事ルイ14世として即位しました。
しかし、困ったことに、ルイ14世はカヴォワ家の息子達とうりふたつに育ってしまったのでした。
そして、それを怪しんだカヴォワ家の三男、ユスターシュがこの事実を知って、国王をゆすったのでした。

しかし、この仮説もまだ完全ではないと言います。
真実がわかる日は本当に来るのでしょうかね。
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