下種 (げしゅ )  関連語句  三益。久遠下種。逆縁
 仏が衆生の心田に成仏・得道の種子を下し植え付けることで、種・熟・脱の三益の一つ。『法華経』の下種には迹門の下種と本門の下種がある。
 迹門の下種は『法華玄義』第一上の三種教相の第二・化道始終不始終相において説かれるもので、化城喩品の説相に従って三千塵点劫の昔に大通智勝仏の第十六王子たる釈迦牟尼仏が娑婆世界の衆生に初めて下種し、それが調熟されて今の迹門の脱益に至ったと説かれるものである。
 一方、本門の下種は『法華文句』第一上の四節三益において示されるもので、第一節の久遠下種・中間成熟・今日度脱、第二節の久遠下種・過去熟益・近世脱益(=地涌菩薩)の両節にて説かれる五百塵点劫の久遠における下種である。この場合、大通の下種は中間の成熟と規定される。
 このような久遠・大通の下種義に基づいて、宗祖は爾前諸経における得道はその経の力によるものではなく、過去の『法華経』の下種の力によるものであるという爾前無得道義を主張している。
 また、特に四節三益に従って、久遠下種・大通結縁の者(本已有善)は在世においてすべて脱益し、また在世下種結縁の者も正像二千年の間に度脱してしまう。その結果、末法には過去下種の者は皆無となり、すべて本未有善の衆生であって、それゆえ地涌千界の菩薩が出現してあらたに下種すべきという末法下種論が展開されている。
 『如来滅後五五百歳始観心本尊抄』〔17847〕には「在世の本門と末法の始は一同に純円なり。但し彼は脱、此れは種なり。彼は一品二半、此れは但題目の五字なり」とあり、滅後末法における妙法五字をもっての下種が明示されている。
 また、『曾谷入道殿許御書』〔19818〕には「今は既に末法に入りて在世の結縁の者は漸々に衰微して、権実の二機皆悉く尽きぬ。彼の不軽菩薩末世に出現して毒鼓を撃たしむるの時なり」とあり、下種の方軌が不軽菩薩を手本とした逆縁毒鼓義の折伏であることが説かれている。