本書は宗祖自ら「勘文」といわれるように、幕府の依頼によるものではないものの、勘文の意識をもって認められており、それ故にその大部分が経文の引用である。客と主人の九の問答と最後客の決意で構成される。 第一問答は、客の近年の天変地夭飢饉疫癘の原因と、諸宗の祈願に験が無いのはなぜかとの問いに対し、主人は世が正に背き悪に帰す故に、善神国を去り悪鬼来たりて起こす災いであるとする。 第二問答は、客がその証拠を尋ね、主人は『金光明経』『大集経』『仁王経』『薬師経』の文を示す。 第三問答では、客がこのように世に仏法は盛んなのに何故廃れているというのかと問い、主人は一見仏法が隆盛であるかに見えるが、邪正を弁えざる偽りの隆盛であることを示す。 第四問答は、客が怒って誰を悪侶というか具体的に示すようつめより、主人は法然の『選択集』こそ諸悪の根元であるとし、様々な祈祷を修すのではなくこの元凶を禁ずることが急務であると述べる。 第五問答は、曇鸞・道綽・善導・恵心・法然という浄土教の聖僧を誹謗することは、重罪ではないのかとの客の問いに対し、主人は彼らは一代の権実を弁えず『法華経』を誹謗する悪侶であることを示し、浄土教を崇めて災難を招いた故事を挙げている。 第六問答は、主人の主張をほぼ理解した客が、しかしながら仏家の重鎮が浄土教破折の勘状を上申していないのに、何故賤身たる身で分不相応にももっともらしいことをいうのだと問い、主人は身は少量たりとも、仏法の正義に後押しされて謗法を呵嘖するとの決意を述べたうえで、浄土教破折の先例を示す。 第七問答は、しからばいかにして災難を止むベきかを客が問う。主人は偏えに国中の法然一門を断ずべし、その為には『涅槃経』に示される如く、国主が勢力をもってこれを駆逐しなければならぬと述べる。 第八問答は、客がさりながらいやしくも仏子を打ち辱めるは、仏語違背堕獄の因にあらずやと問う。それに対し主人は仏子をあなずるのではなく、謗法を悪むのであると答える。 第九問答は、客がいよいよ主人の意を理解し、謗法への施を止めて天下の泰平を願うことを表明する。主人はその決意を良しとし、三災七難の内未だ顕われぬ自界叛逆難・他国侵逼難を未然に防ぐためにも、早く謗法を退治し実乗の一善に帰すことを重ねて強調する。そして最後に客は自ら謗法を止め正法を信ずるばかりでなく、また他の過ちをも誡めることを誓って本書は結ばれている。 |