松野殿御消息
松野殿御消息建治二年の概要 【建治二年、松野六郎左衛門、聖寿五十五歳】 昔乃往過去の古へ、珊提嵐国と申す国あり。彼の国に大王あり、無諍念王と申しき。彼の王に千の王子あり。 又彼の王の第一の大臣を宝海梵志と申す。彼の梵志に子あり、法蔵と申す。彼の無諍念王の千の太子は穢土を捨てて浄土を取り給ふ。 其の故は此の娑婆世界は何なる所と申せば、十方の国土に父母を殺し、正法を誹謗し、聖人を殺せる者、彼の国々より此の娑婆世界へ追ひ入れられて候。例せば此の日本国の人大科ある者の獄に入れらるるが如し。 我が力に叶はざれば哀愍せずして捨て給ふ。宝海梵志一人請け取て、娑婆世界の人の師と成り給ふ。 宝海梵志の願に云く、我未来世の穢悪土の中に於て正に作仏することを得べし、即ち十方浄土より擯出せる衆生を集めて我当に之を度すべし、と誓ひ給ひき。 無諍念王と申すは阿弥陀仏なり。其の千の太子は今の観音・勢至・普賢・文殊等なり。其の宝海梵志と申すは今の釈迦如来なり。 此の娑婆世界の一切衆生は十方の諸仏に抜き捨てられしを、釈迦一人計りして扶けさせ給ふを唯我一人と申すなり。 日蓮花押 松野殿 |