富士宗学要集第十巻
実相寺住僧等申状
賀嶋の庄実相寺の住僧等謹んで言す。 殊に慈恵を垂れ前司入道殿の御判、当寺四至の境絵図并びに御下教書等を糺し返させられ実検の次を以て境を定められんと請ふの状。 右当寺は聖徳太子の御本尊を模し奉り、忝くも鳥羽法皇の御願寺として、観自在尊利生の砌り智印上人建立の地なり。仍て右大将家先に平家追討の法を仰せ付け、遠江守殿永く治国繁栄の祈りを修せらる。此の如く厳重之間前司入道殿殊に御信仰之余、或は院王の一職を定められ、或は寺領の田畠を注し置き候。爰な当御代実験を当庄の間に入れられ寺領を申し立てる旨相触れらるるの処、当寺堺絵図御下知等大納言阿闍梨御房の為に須津庄に渡し置かるるに依つて寺僧等証文に暗き所なり。若し一宇一言たりと●も其の堺を違へ申すは君の為其の恐れ有るべく、仏の為の其の忠無かるべし。進退巳れ谷心神無聊なり。然らば則ち彼の絵図御下知具書等を糺し返させられ前司入道殿の御時定め置かせらる●の旨に任せ、実検の次を以て分明に其の堺を立てらるれば、向後迷堺の心を改め、永代争●の論を止めん、懇●の至りに堪えず、勤め状に在り以て解す。 文永六年十二月八日 衆徒等上る 編者曰く重須本門日興上人の正本に依り岩本実相寺の古写を以て参校す。 但し御正本の誤字等は●註を加へ蟲損等には□符を以てし又愚推を●註にするあり。猶不明の□符には後賢熟校を吝むなかれ、又易読の為に訓点を加ふ。本書宗史に関係無きが如しと●も。開山上人既に廿三才の血気を以て寺中正義の先鉾として邪院主を排●する。其間大に宗義を揚げられし事を推知せらるべく、又実相寺に付いて古来大に縁起を誤りをれるを正すの料となすべく要文に○○印を加へて頭註を施したり。 |