火起こし体験記



 今、私たちは高い文明の中に生活している。スイッチ一つで部屋は真昼のごとく明るくなり、テレビのチャンネルを回せば、世界の隅々の情報が手に入る。
 こんな文明社会の原点は人間が火を発見したことである。この火を現代の利器を使わずに起こしてみることは出来ないか。もし、出来たら感動的なのではないか。このことに本能的にわくわくするものを感じていた。
 ある研修で、岐阜のある施設が火起こしを活動に取り入れていることを聞いた。さっそく資料を手にいれ、実験してみることにした。 いくつかの方法があるが、代表的なものに火打石型とまいぎり型がある。
 火打石型は石英などの堅い石に鋼鉄の破片を打ち付け、その火花を消し炭に移らせる方法だ。手っ取りばやく出来るので、日本やヨーロッパなどではむしろこちらの方が主流であったらしい。
 石は九頭竜川原で拾ってきた10センチほどの石英。火打石は30年ほど前に家のひいじいさんが煙草用に使っていたものを借りてきた。消し炭は資料にあったとおりにガーゼを密閉した缶の中で蒸し焼きにして作った。
 さて、やってみる。カシッ、カシッと音を立てて、3回に1回は火花が出る。鉄が石に引き裂かれて、運動エネルギーが熱に換わり、引き裂かれた鉄粉を燃やす。この鉄粉でガーゼの消し炭に火をつける。蒸し焼きガーゼを火花の下に置くが火花が炭まで届かない。近づけすぎると今度は火打石を打ちにくい。どっちにしてもうまくいかない。
 キセルならうまくいくかとキセルに煙草の刻みをいれ、消し炭を先につける。石にキセルの先端を付けて、火打ちがねを打ち付けるがこれもうまくいかない。結局、上手にできる人が見つかるまで中断ということにした。



火起こし その2



 一方まいぎり式と呼ばれるものは、キリに円盤を付けてひもで回転させる方式である。
 まず、ホームセンターで細くて丸い棒と板を購入してくる。ひもはテント補修用のひもを利用する。円盤はひのきの丸太があったので厚さ5センチぐらいにきって中央に穴をあける。
 丸い棒を通してかんなで削りとりながらバランスをとり、こまとしてうまく回るようにする。板やひもを取付け回転させてみる。穴が小さいのかひっかかって回転しない。穴を大きくして挑戦すると今度はうまく回る。
 資料によると先端につけるのはあじさいと杉板がいいと書いてある。幸い自然の家にはあじさいが植えられているのでこれを1、2本切ってきて乾燥させて使うことにした。台は桧があったのでそれを使う。ひのき(火の木?)というからには火起こしに使ったのではないかとの勝手な推測である。
 台にV字型の縦溝をきり、その先にあじさいの幹をはめこんだキリを当てこまを回転させる。勢いがつきしばらくすると焦げ臭い煙が出てくる。黒っぽい木のくずが溝から出てくる。ここでひるまずに力を込めて頑張ると煙はますます多くなる。
 重くなるのを構わず頑張ると今度はあじさいの幹に力がかかりすぎてグシャリと折れてしまった。失敗のようである。力を入れすぎたのかともう一度挑戦するがやはり同じようにグシャリと折れてしまう。回転が小さいのか材質が悪いのかよくわからない。
 試しにと電動ドリルにあじさいの幹を取付けグィーンと台に押しつけてみた。煙が出てきてそれが頂点に達したころ溝のすき間から火種がポロリと出てきた。これだと間髪を入れずに近くにあったおが屑を置く。フーッと息をふきかけ火種を次第に大きくする。最後の一息で炎が上がった。手段はどうであれ、感動の瞬間である。成功だ。
 冷静になって考えてみると、この火起こし器は回転数が足らないようだ。



火起こし その3



 何日かして、県立博物館が開館当時に親子で火起こし教室を開催したとの情報が入った。自然の家の職員の中にきりもみ式で火起こし証明書をもらった人もいる。
 知人を頼って博物館を尋ねるとと奥の大きな部屋に案内してくれた。普段は入ることが出来ないその場所は昔の子供の玩具がいくつか置いてあった。どうもここでその催しものを行ったらしい。
 そこから続く小さな倉庫の中に火起こし器はあった。使い古されていて、先が黒くなっているものや折れているもの、その数は約20余り。その当時の親子でわいわい言いながら火起こしをしている場面が眼に浮かぶ。
 ここのまいぎり式の火起こし器は自然の家で作ったものより一回り小さいものだ。キリの材料は桧、火きり台は杉の木を使っている。これならあじさいを使わない分だけ、材料の入手が楽だ。必要なだけの量産がきく。
 現実的に火がついた実績があるのでこのやり方では火がつくはずである。しかし、話しを聞くと、30組やっても火がつくのは7〜8組らしい。湿度も関係するし、木の乾き具合も影響する。もちろん力の入れ方もある。
 この形なら、自然の家でも活動の中に入れることが出来る。やっと光が見えたような気がした。



冬いちご



 遠くの山並みを見ればすでに白く雪化粧。外に出てみれば肌にあたる風は冷たい。
 そんな日にふれあい広場から展望台へ抜ける道を歩く。紅葉の季節もすみ、多くの広葉樹はその葉を落としている。幹だけの林は思いのほか明るく、足元には濡れた落ち葉が重なりあう。
 殺風景なこの場所に、珍しく赤い実を付けている植物がある。道の脇に群生する木いちごである。葉の緑といちごの赤がこの時期にはとても目立つ。試しに一つ口に含むと甘酸っぱいものが広がる。
 この時期に実をつける木いちごには冬いちごというのがある。たぶんこれらは冬いちごと呼ばれるものであろう。
 この冬いちごはこの御茸山付近では数多く見られる。古墳の近くや駐車場の回り、気をつけてみればあちこちに見かける。
 動物たちにとってもこの時期の食物は貴重だ。峠からの階段を降りれば、この種をたくさん含んだたぬき?の可愛らしい糞を見つけることが出来る。
 今年は山の幸が少なかった。精々この冬いちごで厳しい冬に備えて欲しいものだ。
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