福井の名物のひとつにそばがある。冷したそばに大根おろしをかけて食べるおろしそばは、福井独特でありファンも多い。近年今庄や美山ではこのそば作りを体験することが出来る。週末には訪れる子供会や家族連れに好評を博しているという。
少年自然の家では、3年前に活動の一つとしてこのそば作りを取り入れた。以来、多くの子供たちがこのそば作りを体験している。今回は、このそば作りについて紹介したい。
場所はいつもの趣味の家。子供たちが来る前に、そば専用の道具が入っているカゴを準備室から出して一列に並べる。このカゴにはボール、伸ばし棒、包丁、ざるなどが入っている。ほかに、伸ばし台も準備する。一方、炊事場にはプロパンガスと大きな鍋。それに、だしをかけるテーブルを2〜3台準備する。
時間になると、厨房で材料をもらった子供たちが降りてくる。班ごとに並んだ子供たちを前に、職員が説明を始める。
壁に説明用の紙が貼ってあるので、その順番にしたがって丁寧に説明していく。このそば作りには当初のスタートのときにかなり手間をかけたらしく、説明用のビデオまで出来ている。最後はこのビデオを流して確認する。
さて、作業にとりかかる。班ごとにビニールシートをひき、こね台を中心に置く。そば粉をボールに入れ、規定の水を入れてもみほぐす。両手で擦るようにして細かくし、水分とそば粉が均等に混ざるようにする。
次に、そば粉を丸めて団子にし、ビニール袋に入れて足のかかとで平たく延ばす。本来は手で行う作業だが、小学校5年の子供たちの細腕にはそれだけの力がない。清潔感に問題を残すがここでは足でこの作業をしている。
延ばしたそば団子をもう一度丸めてまた延ばす。これを4つに分けて、それぞれをまた足で延ばす。ここまでの作業が終わるとやっと手の作業だ。板の上に広げたそばに薄力粉に似た華粉(はなこ)をまぶしながら、厚さが1ミリぐらいになるまで大きく広げる。子供でもそれなりの形が出来ていく。
3重に折り重ね、専用の包丁で2ミリくらいの幅で切っていく。上手な子供とそうでない子では差ができる。上手な子には
「そば屋さんに就職できるね」
とほめるし、不揃いの子には
「食べればみんな同じだよ」
と励ます。
次は大鍋にプロパンガスで湯を沸かして、そばをゆがく作業だ。熱い湯は危険なのでこれは職員が担当する。
5分ほどゆがいて一本だけ箸で取りだし、水で冷やして子供に食べさせる。やわらかくなっていればざるザルに移して水で冷し、あとは食堂で用意しただしをかければ出来上がる。
先ほどの延ばし板にテーブルクロスをかければ立派な食卓に早がわり。他に用意されたてんぷらとおにぎりがつき、子供の食事としては充分満足のいく量である。
自分で打って、自分で食べる。これだけでも充分満足できるはずだ。専門のそば道場に比較すると設備や方法は多少劣るが、自然の家の活動の一つとして考えればこんなものだろう。
日頃食べているそば一杯に、これだけの手間がかかっていることを知るだけでも十分価値があるそば打ち体験である。
自然の家では、活動の中に木工ペンダント作りなど木を利用する活動がある。案内板などの制作にも木を利用する。この材料は自分たちで調達している。
ちょうど、御茸山展望台の途中に、木を伐採して間伐材がそのまま置いてある場所がある。持ち主と話しをつけて、間伐材をもらうことになった。
今日は入所者もなく、自然の家の男の職員6名がこの仕事にあたることになった。先発隊が先に歩いて現場に行き、その後をトラックがバックで登る。
ここのトラックは5人乗りのダブルキャブなので、本庁連絡のときは乗用車がわりとして重宝しているのだが、今日はトラック本来の使い方だ。
この時期は夏草がひどく両側から覆いかぶさるように茂っている。本来結構広い道なのだが、ひどく狭く見える。運転手は後を振り向きながら恐る恐る登る。
何とか目的地までつくと、道路の脇に数10本の桧の丸太。30センチを超えるものはすでに運びだされていて、残っているのはそれ以下の木材として利用が出来ないものばかり。これを趣味の家まで運ぶ作業だ。
1本を4人で抱え、トラックの荷台に乗せる。150キロぐらいはあろうか、ずしりと重い。荷台がゆれる。とても、自分の車だと躊躇しそうだ。5本ほどのせるとタイヤがつぶれてくる。これくらいが限度だろう。
ロープでしっかり固定して、静かに下る。荷台から突き出た丸太の端が、脇に植えられている桜の枝に少しひっかかるが、これくらいはしょうがない。そのまま下りていく。
よく見ると、丸太の1本に何かつるが付いている。あまちゃづるのようである。道端に自生していたものが、置いてあった丸太に巻きついたらしい。せっかくなので持って帰ることにした。
趣味の家の中まで車をいれて、また降ろす作業。2回往復するとちょうど昼になった。
軍手もポロシャツもズボンも茶色に汚れている。まさに山仕事といった感じである。自然の家だから多少の汚れ仕事覚悟していたが、まさにこれは山仕事だ。
まあ、これだけ運べば、ここ数年は材料の心配はいらないだろう。また共同の作業として、それなりに価値があったようだ。
バーベキューや雨の日の野外すいさんは趣味の家を利用するが、この北側に防火水槽として利用していた水溜めがある。
縦3×横1メートルで深さが1メートルはあろうか。以前から雨水が溜り、水抜きもなく不潔な状態になっていた。一度水抜きをあけてきれいにしようと話しをしていたところだ。
今日は主任のTさんが電気のコンクリートハンマーを借りてきた。穴をあけて、大掃除の予定だ。とても一人で出来る作業ではないので、3人でやることにした。
室内からコードを引いてきて、早速作業開始だ。左すみをあけることにしたが、コンクリートの厚さは20センチはあろうか。いつあくかとても見当が付かない。しかし、やらなければあかないと、まずはやってみることにした。
ガッガッガッとすごい音と振動をたてながら、ハンマーをおし当てる。10キロ近くあるハンマーが振動する。作業は5分も持たない。交代しては作業を続ける。
30分も作業を続けただろうか。苦労の割りには最後はあっけなく抜けた。ジョボジョボと水がながれでてくる穴を更に大きくしていく。青函トンネルほどではないが、小さいながらも貫通の喜びはある。それなりに3人で喜ぶ。
水が出終わるのを見計らい、水槽の中を掃除だ。木の切れ端や炭。シャッターを降ろす引き棒まででてきた。一人がホースで水をかけ、一人が棒たわしで磨く。自分はハンマーで穴を大きくする作業をする。
きれいにして、水を満たす。冗談で
「ここで泳いでもいいな」
なんて言葉が出るくらいきれいになった。ハンマーを使った初めての作業なので満足感は残る。これはこれでよしとしよう。
福井市は公民館は42館。そこに働く主事は100人を超える。任期は4年だが、家庭の事情でやめる人もあり、普通の年でも7〜8人の新人が採用される。
今日はその新人の初任者研修会。6日間の研修のうち、4日間は映像文化センターや青年の家で行われ、最後の2日間がこの自然の家で宿泊研修となる
第1日目、九時から入所式である。歓迎の挨拶は所長の役目だ。以前社会教育課に在籍し、公民館の仕事を長くたずさわってきた所長である。今日はその頃の話しを含めて、感慨深そうに話していた。 開講式の後は自分がオリエンテーションと概要説明だ。オリエンテーションだけのつもりだったのだが、急遽概要説明とのことであわてて資料を用意した。これからここも公民館の利用が多いだろう。利用の手引や学校用の資料を利用して丁寧に説明する。せっかくの機会だからと、何か話しを最初に入れようと考えていたのだが、成り行きですぐに説明に入ってしまった。説明がおわりかけたころ、やっと話すきっかけがつかむことが出来た。
入所の団体の例を上げて、
「子供たちには様々な表情がある。いきいきした団体ほど活動も素晴らしい。1から10まで指示しているところは結果的には良くない。皆さん方公民館主事も、地域の一人一人が生き生きできるようにするのが大きな仕事だ。頑張って下さい」
とそれらしくまとめて、概要説明を終わることが出来た。
たしかに公民館の仕事は多種多様で大変な仕事だ。それに圧倒されることなくパワーで頑張って欲しいものだ。
昼の講義が終わり夕食と風呂を終えると、今度は体験発表の時間だ。自己紹介や今までの体験発表をすることにより、講義では得られない貴重な時間を過ごすことになる。社会教育課の職員にとっても新しい主事を知り、また、主事の本音が聞ける大切な時間でもある。
今日は自分が宿直を割当てられている。以前にも何回か自然の家へは社会教育課の職員としてこの会に参加していた。今日は立場が違うが、他に宿泊団体もないので同席させてもらうことにした。
新任の主事もさることながら、自分にとってはやはり同僚と会うのが楽しい。課内のことなどを話していると、自分の今の立場などつい忘れてしまう。楽しい一時を過ごすことが出来た。
ここへ移動したときは、同じ社会教育の範囲だからそれほど違いはないだろうと甘くみていたが、現実的には職種が違うといってもいいくらい別の場所であった。こんな移動当初の頃の気持ちを思いだし、楽しいながらも複雑な気持ちで友と話しをしている。
地球の背景に「I LOVE
NATURE」の文字。色は緑色で、地球環境問題を多少匂わしている。今年のカウンセラー用Tシャツのデザインである。
今年、夏休みの活動をお手伝いしていただくキャンプカウンセラーは、新人を含めて約30名。この人たちには一人2枚のTシャツが配られる。
毎年新しいデザインを考えるのだが、今年はどういう訳か自分が作ることになった。特に以前から考えていた訳ではなく、頭の中にふと浮かんだものを形にした。
ちょっと作ってみようかという軽い気持ちだったが、他に案もなく必然的に自分の案を採用することになった。
鉛筆で紙に軽く下書きをする。もちろん製図の道具などないから、サインペンで湯飲みの円を利用して地球を描く。後はフリーハンドだ。さすがに少年自然の家とキャンプカウンセラーという文字はワープロで作った。
印刷は一般のプリントゴッコを利用する。原版の枠に合うようにあらかじめ下書きを縮小しておく。焼き付けは年賀状と同じ方法で、2個のフラッシュをたく。
インクは布用の特殊なものだ。昨年ここで多量に購入してあったので、今回はそれを使う。色を調合して複雑な色にしてもいいのだが、今回は初めてなので原色をそのまま使うことにした。
年賀状だとプリントゴッコの本体を使用して色を写すのだが、Tシャツの場合は位置合わせが難しい。とくに今回は100枚近く制作予定である。直接シャツの胸に原版を押しつける方法にした。
抑えつけすぎると色がにじむし、インクが原版からはみ出す。弱いとインクがまともにでない。強からず弱からず、適当な力で抑えつけると見事な柄がシャツの胸に浮かび上がる。2〜3時間乾かしてから、アイロンを当て1分ほど温めれば色が定着する。
初めての挑戦としてはまずまずの出来である。カウンセラーの評価が気にかかるところである。次は別のデザインで挑戦を試みたいものだ。
夏休みは地区の子供会や育成会が数多く利用する。これらの団体は一般的に大人が役員となっており、その利用はどうしても土曜日曜に重なる。
今年の7月8月に利用できる土曜日曜は5〜6回。多くの団体がそこに集中する。少ないときでも3団体。多いときは5つの団体が重なってしまう。ファイアー場、体育館の施設の利用も重なることになる。
この調整が大変である。全ての団体が一緒に打合せが出来ればいいのだがそうもいかない。打合せの段階で電話連絡等で調整していくのが、団体の意向や留守のところもあって、頭を悩ませる。
本来学校の利用しか考えていないこの施設としては、細かい団体が利用する場合はアキレス腱になる。しかし、そうも言ってはおれない。多くの利用者を受け入れるためにはいたしかたなかろう。
とくに得策もないのでこれからもこんな調整の作業が続くであろう。何か良い方法はないのだろうか。
焼き杉は面白い。仕上げもきれいである。当初薪で焼いていたのだが、火の調節が難しく焼け具合が均一でない。それはそれなりに面白いのかも知れないが手間がかかってしょうがなかった。
ある日、ホームセンターで家庭用のブタンガスを使ったトーチを見つけた。値段も2800円で手頃なのでさっそく手にいれ、使ってみることにした。
ゴーッという音に圧倒されるが、火炎の調子は良い。慎重に隅から焼いていく。3秒ほどで黒く焼けて炭化する。均一にしかもねらったところがうまく焼ける。30分もかからず1枚の板が焼け上がってしまった。
薪で焼いたときのような杉の臭いが嗅げないのが残念だが、汗もかかずに涼しい顔でできる。焼ける深さも浅いので、たわしで擦るときも手間がかからない。
わずか2時間ほどで4枚の杉板が出来上がってしまった。焼き杉を大量に作る場合はまことに都合がよい。今回は案内板用に7〜8枚作る予定である。強い味方を得たので1週間ぐらいで仕上げるつもりでいる。
カウンセラー講習会の野外すいさんの時間である。
3年4年の先輩が新人のカウンセラーに詳しく教えている。我々職員が知らないことまでも丁寧に教えている。心配するほどのものではない。
この講習会は事前の準備が十分でなく、自分としても初めてなので、どうなるのか少々不安であった。
しかし、始まってしまえばなんの不安もいらなかった。10年の歴史がそうさせるのか、カウンセラー同志で教えあう伝統があるらしい。これはもうカウンセラー文化といってもいいかも知れない。このおかげで、職員も大いに助かっている。
我々自然の家の職員は自然のよさをPRする役目。その気持ちはナチュラリストに近いのもがある。ここに集まってきているカウンセラーの意識も私たちに近いものを感じている。
将来は教師や医者、あるいは家庭に入るのかも知れないがそれぞれで自然を愛する人間になって欲しい。
この学生たちは自然を愛する人間の大切な卵だ。大切に育ててあげたいという気持ちをもっている。
戻る