朝倉氏の出城跡がある槙山から少年自然の家まで尾根づたいにたどる山道がある。
芝生の広場やフィールドアスレチックが備えられている槙山の山頂。休日には子供連れがおとづれる。ここから少年自然の家まで約2時間の遊歩道のコースだ。
東郷の町中から槙山の頂上まで歩いてやく20分。九十九折で続く道はアスファルト舗装されている。車で頂上までいけるので、東郷の人々の憩いの場所になっている。
芝生の広場から歩きだせば、すぐ下りの階段が始まる。このまま下ったり登ったりの山道なのかと思わせる。しかし、しばらく行くと階段はなくなり、心地良い平坦なコースが続く。ここの道も城山と同じように、歴史を感じさせる歩き古された道だ。
両側の所々に、見なれない木々に名札が下がっている。林業試験場の時代に植えられたのか、はたまた誰が名札を付けたか知らないが勉強にはなる。一応目を通して、その木の特徴を見ながら進む。
途中直径40センチもの大きな松が何本も切り倒されている。マツクイムシにやられたのだろうか。皮をはがすと虫があけた穴が見られる。枯れたまま立っている松も数多い。酸性の雨がここでも降っているのかと、冗談ながらにも思う。
尾根を歩いている割りには展望がきく所はない。しかし、木々の間からは自然の家や南山の集落などが見え、自分の位置を確認することが出来る。また木立の密度が低く、空も見えて十分明るい森の道だ。「トコトコト..」と森の熊さんの歌を口ずさみたくなるような快適な森の中の道である。
30分ほど歩くと自然の家まで1時間30分と書いた看板に出会う。まだ4分の1かと落胆を隠せないが、仕方がない。少し行けば人手の入った竹林に出会う。たしか、八地谷から登った三叉路付近にも竹林があった。もう、少しだと直感する。
少し、道が狭くなり雑草が増えてくる。いやな気持ちを押さえて急いで歩く。ほどなく、見慣れた八地谷の分岐へ出る。ここまで、約40分でこれる。思ったより雰囲気の良いコースだ。山の雰囲気を味わいながら歩く場合は是非勧めたい。
日本の国土は七十パーセントが森林のおおわれ、世界的に見ても立派な森林の国である。
そして、自然林の多くはぶなやくぬぎの雑木林である。これらの広葉樹と植林された針葉樹が日本の森林をつくっている。
自然の家付近にも植林以外の場所にはぶなやくぬぎの木がたくさんある。こんな広葉樹の林に、ちょっと毛色の変わった木が自然の家の玄関近くに植えられている。
高さは約10数メートル幹の周りは3メートルはあろうか。幹の表面はマンモスを毛を思わせるふかふかした表皮でおおわれている。その名はアメリカ杉。林業試験場時代からの木である。その姿は堂々として、見上げればはるか昔の太古の雰囲気を感じさせ、そして、アメリカの大地を感じさせる。
故郷から遠く離れたこの脇三ケで育ったアメリカ杉、末長く生き延びて、ここを訪れる多くの子供達に故郷アメリカの香りを伝えてほしいと思っている。
森林には、それらが傷ついたときにその傷を癒す物質が出されるという。その物質には殺菌作用があり、針葉樹のなかで死んだ動物は腐敗しても臭くないという。
また、人の気持ちを癒し、体をも活性化することができる。森林で働く人は風邪にかかりにくいとか、喘息を持っていた人が森林で働くようになったら嘘のように治ったとかいう例もある。
少年自然の家の裏山は以前から県有林となっている。ていねいに植林された杉の木々は、今やその樹齢が20年から30年になっており、素晴らしい針葉樹林となっている。
入所団体がない昼休みに、自然の家の建物を出て遊歩道に5分も入れば、そこには人気のない杉林のなかに入ることができる。ワープロで疲れた神経も、深い緑から発散される物質によって、生き返ることができる。
市役所には数多くの出先機関があるけれど、職場から数分で森林浴ができる場所はそう多くはあるまい。そういう意味において、忙しい毎日ではあるが、こんな素晴らしい森林に囲まれた職場で働けることにまず感謝しなければいけないと感じている。
キャンドルサービスの2部。ある中学校の出しものである。フォークダンスで、ある一人の女の子が男の子の好きと告白することを劇風にしたものだ。
その女の子が目的の男子に順番が回ってきて、さあ告白しようとしたら曲が終わっていたとか。やっと告白できたら、周りの女の子が全てその男の子を好きだったとか。さきほどまで司会をしていた茶目っ気のある子が、その役を上手に演じている。古今東西を問わずこういうものは見ていて楽しい。周囲で見ている子供達も本当に喜んでいる。
さて、出しものが終わると今度は全員でフォークダンスだ。オクラホマミキサやコブレチカなどのスタンダードの曲で私達が学生時代から踊ったものだ。かわるがわる男子と女子が入れ替わりながら踊っている。内側の円で回る男の子も外側の円で回る女の子も、その顔はちょっと真面目でよそ行きだ。
一般に、この年令だとダンスをしてもはずかしがって話をしないものだが、この学校はめずらしく隣り合うと話をしている。男と女の心地よい緊張感がある会話があちこちで見られる。
この学校は小規模の中学校で小学校のクラスがそのまま中学校に上がっている。そして、今日は1年から3年まで一緒の宿泊だ。前々から楽しみにしていた合宿なのだろう。
さきほどのキャンドルの出しものは、子供達の本当の気持ちだったのかもしれない。そして、自分が高校の時に踊ったフォークダンスの1場面が、この子供達のダンスに重なりあっている。
朝倉氏遺蹟からの山越えは2つのコースがある。
ひとつは遺蹟前からすぐはいる八地谷コース、もう一つは安波賀へ下る春日神社コースだ。八地谷コースは急な登りで雨の日は滑りやすいので、こんな時は春日神社コースを勧めている。
今日は春日神社コースをおりてみることにした。尾根道の三叉路から安波賀へとの標識にしたがって進む。しばらくは植林されて十年ほどの桧の幼木のなかを歩く。比較的新しい道らしく、足元の土は赤土だ。凹凸のないなだらかな下りだ。
次第に勾配が大きくなってくる。二メートルおきぐらいに階段がきられている。登るにはちょうど良いが、雨の日に下る場合は滑りやすいとみた。今日は路面が濡れていないので快適だ。
標高の割には距離が長いので、雑木林の中をだらだらした下りが続く。
特にこれといった特筆する場所もなく、あれよあれよという間に春日神社の奥の社についた。参拝用の石の階段と合流し、50メートルほど下りると本殿に下りる。しっかりした大きな神社だ。境内に植えられている杉の太さから、その長い歴史を感じさせる。
この境内を出ればそこは安波賀の村のなかだ。左に折れて、資料館を横目にみながら20分ほど歩くと自然の家に着く。
キャンプファイヤー場へのいくには、自然の家の横の長い階段をおりなければならない。右手には福井市の花あじさい。左手には植林されたひのきの幼林がある。
そのひのきと間はざまざまな雑草が生えているのだが、その中にキイチゴの木がある。このキイチゴ、詳しい種類はわからないが、6月のはじめにはまっ赤なおいしそうな実を付ける。これが階段を通る子供たちに見逃されるはずがなく、バーベキューやファイヤーヘ急ぐ子供たちの格好のおやつになっている。
また、タヌキかイタチの食用にもなっているらしく、タネが消化されていない糞が、階段の上に見かけることがある。
長い階段は、結構つらいものだが、この糞を見るとつい楽しくなってしまうキイチゴの階段である。
ファイヤーかキャンドルか、今日の選択はむづかしい。
さきほどまで降っていた雨は今は止んで、西の空は少し赤みがかかっている。経験からすると、このままいけばまず大丈夫だ。しかし、NTTの天気予報サービスは夜半から雨。前線が通過するので雷や風が伴うでしょうと伝えている。
午前中なんとか山越えをしてきたこの学校、午後は雨で室内の活動だった。降らなければ出来るだけキャンプファイアーをしたいというのが、先生と子供の正直な気持ちだ。
先生とは、雨で出来なくなるまで、ぎりぎりまでファイヤーを続けようと確認していた。
6時すぎ、準備のためにファイアー場に子供達が集まる。さて、トーチづくりの説明に取りかかろうとしたら、さっそく雨がぽつり。一瞬、もうだめだなという気持ちが全員の脳裏を走る。
係り以外の子供に時間になったらレクレーションホールに集まるように指示をして、今にも雨が落ちそうな空の下で、両方兼用のリハーサルを終えた。
7時になった。指示通りに室内でのキャンドルサービスが始まる。小規模の学校だけにまとまりはよく、雰囲気のあるしっかりしたキャンドルサービスが進められた。
しかし、雨は最後まで落ちてこず、皮肉な結果となった。このことについて先生とそのあと何も話をしていず、選択に悔いを残すものとなった。
中学生のオリエンテーリングの晴れコースは40のポストを探すことになっている。
展望台から分神社におりる遊歩道に3つのポストが設けられている。以前、自分が通ったときにコースが荒れていることに気が付いていたが忙しい毎日のためになかなか整備できなかった。
急な登りがあるので、そこのところの階段作りと、木の枝が伸びているのでそれらの伐採をしようとみんなで考えていた。
指導員の先生が何日か前から階段づくりに取り掛かりはじめた。階段を切り、直径10センチぐらいの木を横におき、両側を杭で止める。1本1本はそれ程複雑な作業ではないが、数が多いので大変だ。杭も自分で作るから、材料集めも手間がかかる。
自分は、さしあたってナタで枝を振り払うことにした。素手のほうが手応えがわかるので、しばらく素手で作業をつづけたら、手首が細かい切傷だらけになってしまった。たまらず準備してきた軍手をはめた。
杉や桧の枝は根元を落とせば、ばっさりと気持ちよく落ちる。その点、笹やすすきはナタではやりにくい。左手でまとめてナタで振り払うが、うまくいかない。やはり、草刈り鎌に軍配が上がるようだ。
見通しがきくように両側の枝を落としていく。たいした距離も行かないのに、小1時間もすると握力が落ちてくる。にわかの山仕事はこれだから駄目だ。
きょうはあまり時間がないのを理由に早々に引き上げだ。先生の階段づくりもひと区切りついたようだ。分神社で一休みして帰路についた。
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