話し方指導で論理的思考力を育てる
福井県立若狭高等学校 渡邉久暢
1 わかりやすい話し方とは
ディベートでは、自分の意見を伝えることと、相手の意見を評価しながら聞くことの二つの力が要求される。立論では、自分たちの主張を整理して「わかりやすく」伝える義務がある。また反駁では、相手の主張を批判的に聞くことによって、その問題点を発見し、それを指摘すると同時に、自分たちの意見の正当性をジャッジに対して「わかりやすく」主張しなければならない。
さて、「わかりやすい話し方」とはどんなものか。それは、
である。表面的に聞きやすいスピーチでも、内容が論理的に構成されていなければわかりにくいものとなる。逆に、少々早口なスピーチでも、論理的に構成されておれば内容は把握できる。
「話し方を鍛える」と称して、発声・発音・速度・音量等の指導をディベートで行う実践もよく見られる。しかし、松本茂氏が
ディベートの指導で何を身につけさせるのか。あれもこれもディベートに期待することは間違 いだと思います。
(中略) もしもゆっくりと相手に語りかけるように話すことを実現したいのならば、ディベートではなく スピーチやプレゼンテーションを指導すればよいのです。
( 教室ディベートへの挑戦第九集 八二頁) |
と指摘しているとおり、ディベートで学ぶべきことは「表面的に聞き易い話し方」ではない。
相手の主張のどこに対して反駁しているのか、なぜそう考えるのか、その根拠は何なのかを整理し、ジャッジに伝えようと言う意図を持った話し方。これがディベートで学ぶべき「わかりやすい話し方」である。
その際に必要とされるのは、自分の考えを筋道立てて述べたり、他者の話を内容や構成について評価しながら聞くといった、論理的思考力である。
生徒たちは「ジャッジに対して」「わかりやすい話」をするために、内容を論理的に構成する。そのプロセスを経ることで、一人ひとりの中に論理的思考力が定着する。
話し方指導を単なる「発話教育」にとどめるのでなく、ディベートを通して「論理的思考力の育成」をはかることが、国語科における真の音声言語教育ではないだろうか。
2 「わかりやすい話し方」指導のポイント
@ 最初の段階では論理構成の型(パターン)を教えることが必要である。
ア 立論の場合
1 定義 2 プラン 3 プランから発生するメリット/デメリット
4 現状分析 5 どれくらいそのメリット/デメリットが重要/深刻なのか
6 なぜそのメリット/デメリットが起こるのか |
4では、あえてメリットデメリット方式にはない「現状分析」を挙げている。
藤川大祐氏は
「現状分析」という独立した項目を設けてしまうと、個々のメリットデメリットとの関係が 曖昧になってしまう。
教室ディベートへの挑戦第六集 一三三頁 |
と述べているが、現状を分析して、それとプラン導入後を比較して「こんなに良くなる」または、「こんなに悪くなる」と主張した方が、より論理的であろう。
イ 反駁の場合
1 ロードマッピング 2 自分たちの主張を守る 3 相手の主張を攻撃する |
1は、「今から何を話すか」という予告である。音声言語は、文字言語と違って振り返ることができない。聞き手にある程度先を予測してもらいながら話すことが重要になる。
特に第二反駁の場合、相手の何について反駁しているのかよくわからない場合が多い。肯定側第二反駁ならば、「最初にメリット1の重要性について説明し、次にデメリット2の発生過程について反駁し、最後に全体を総括して、メリットデメリットの大きさを比較します」のようにすると、ジャッジにはわかりやすい。
2と3の順番は入れ替わっても問題ない。
A ナンバリング・ラベリングを効果的に使い、一文を短くする。
短くて、インパクトのある言葉にラベル化して、ナンバリングすることで、話す内容を厳選する。また、一文があまり長くならないように気をつける。そして必要最小限のことをスピーチすることが早口問題の防止にもつながり、結果的にわかりやすいスピーチになる。
3 「わかりやすい話し方」指導のためのフォーマット
話し方指導をディベートの導入段階で取り立てて行う場合は、マイクロディベートのフォーマットから、以下の点を変更して行うと効果的である。
1 2人一組で行う 2 論題は当日与え、その日に配った限られた資料と、自分の知識だけで行う 3 メリット・デメリットを一つずつにする。 4 各ステージごとに準備時間を設ける。 5 判定は特に行わず、論理的に話し合われていたかどうかを相互評価する。 6 時間配分
立論の作成(10分) 肯定側立論(2分)
否定側立論(2分) 準備時間(2分) 否定側第一反駁(2分)準備時間(2分)
肯定側第一反駁(2分) 相互評価(10分) |
2、3の意図は、論点や資料を限定することによって、かみ合った議論をさせることにある。証拠資料だけに頼らず、自分の頭で論理付けを行う訓練である。そのためには、論点は少ない方がよい。 また4は、論理構成を考えるための時間である。自分の書いたフローシートから、自分の主張のどこを守り、相手のどこを攻撃するかを考えることが大事なのだ。当然次の反駁ではロードマッピングを使った反駁をさせなければならない。
5の相互評価では、お互いのフローシートがよく書けているか、書けていないのならばどちらに問題があったのか、話し手側の問題ならばなぜ書き取られにくかったのかを話し合う。どちらが勝ったかと言う判定を行うのではない。
実際の授業では、ナンバリング・ラベリングや、立論・反駁の型をまず15分程度で教え、そしてこのフォーマットでミニディベートを行う。話し方の型を覚え、それを何度も使っていく中で、論理的なものの考え方が養われる。このことがディベートにおける話し方指導のポイントだと考える。