平成11年3月  福井県高教組 発行 「生徒とともに」 原稿より

 
ディベート大会をやってみませんか  
                                                    福井県立若狭高校 渡邉久暢
 
一 はじめに
 
 「ただいまから肯定側立論を行います。メリットを2点述べます。1点目のメリットは『時間の有効活用』です・・・」
 若狭高校では、毎年二月に全校討論会が行われる。多くの生徒が熱中するこの行事を紹介することで、今後生徒会行事としてディベートに取り組もうとされる学校の参考になればと期待する。
 
二 若狭高校討論会の歴史
 
 途中数年のブランクはあるものの、昭和二七年以来継続して行われている行事である。
 平成五年度までの討論スタイルは、一つのテーマに関して賛成・反対の二つの立場に分かれ立論を述べあった後、自由に討論を行う「朝日式」と呼ばれるものであった。
しかし議論がかみ合わずに、あれこれと自分の意見や感想を出し合うだけになってしまうケースが多かった。  
 一方的に自分の主張を主張するのではなく、相手の意見をよく聞いてそれに対して反論するためのトレーニングとしてはディベート形式が有効である。
 そこで、平成六年度以降、教室ディベート連盟推奨の形式を若狭高校用にアレンジして、現在に至っている。
 
二 若狭高校討論会の概要
 
【参加者】
 一・二年生全員が参加
【チーム数】
 各クラス三つのテーマそれぞれに肯  定、否定側各一チーム、計六チーム。
 (クラスから三十人が出場)
【チーム編成】
 一チーム五人編成。
 (立論・質問・第一反駁・第二反    駁・最終反駁を五人で分担する。   ただし、補欠生徒もステージ上    で、一緒に相談できる。)
 
【対戦方法】
  学年に関係なく各テーマごとに肯   定・否定側に分かれて対戦。
  例: 肯 一の六 対 否 二の三
【表彰】
  クラスの合計勝数で表彰する     6勝0敗 → 金賞
  5勝1敗 → 銀賞
  4勝2敗 → 銅賞
                  
三  若狭高校討論会の目的
 
「異質のものに対する理解と寛容の精神を養う」という本校の伝統的教育目標を達成するための一つの手だてとしてディベートに取り組んでいる。       
 本校では、ディベートを「一定のルールに則って行われる対立形式のコミュニケーション」と定義し、以下の3つの能力の育成を主たる目的としている。
 @相手の意見を正確に理解し、分析す  る能力
 A論理的発言内容を組み立てる能力
 Bチームとしての意見を分かりやすく  表現する能力
 
 個人の価値観が多様化してきた現代にあっては、今までの日本社会で行われてきたような「以心伝心的コミュニケーション」は必ずしも効果的ではない。現代日本人には、相手の価値観や意見と自分との違いを明確にし、そこから論理的な議論をかわすことによって、様々な問題を解決していく能力が不可欠になる。
 そこで本校では論理的議論の進め方、批判的思考、問題の調査・分析、口頭発表などのコミュニケーション能力の育成を主たる目的としている。
 また、以下のことを副目的とする。
 
 T必要な資料を探索し、それを活用で  きる情報活用力を養う。
 Uテーマに関する学習を通じて社会的  事情について関心を持つ。
 V異なる立場の意見についても検討で  きる複眼的思考力を養う。
 W主体的な自分なりの意見を持てるよ  うにする。
 
 ディベートに特徴づけられる思考やコミュニケーション能力は今日の社会において不可欠である。社会事象に対しての関心が薄れがちな昨今、まず新聞・書籍・WEB等から必要な情報を探し出し、その情報を活用する能力を育成することは急務であると考える。
 そこで、ディベート体験を通して生涯学習社会に適応できる「自己啓発型の人間」となり、国際的に活躍し得るような人間が育つことを目標としている。
 
 
四 平成九年度における大会までの準備
 
 
(ア) テーマの決定
 
 一二月初旬から、執行部を中心にテーマ設定・ルール作成のための準備に入る。
 まず、テーマ決定のためのアンケートを教員・生徒に実施した。そして八つの候補を執行部会で選択。そして、討論会実行委員会(各クラスから二名ずつ)で検討し、三つのテーマを決定した。
 九年度の論題は
「日本国は選択的夫婦別姓を認めるべし」
「日本国は少年法を改正すべし」
「日本国はもんじゅを廃炉にすべし」
である。ちなみに、過去の論題は以下の通りである。
八年度
「消費税を廃止すべし」
「在日米軍は日本から撤退すべし」
「日本の学校は週五日制を導入すべし」
七年度
「もんじゅは永久凍結すべきである」
「死刑制度は廃止すべきである」
「日本人の朝食はご飯がよいか、パンが よいか」
六年度
「脳死状態における臓器移植を容認すべ きである」
「日本人の便器は洋式がよいか、和式が よいか」
「これ以上の原発の増設は凍結すべきで ある」
 
 テーマの選定の際には
@議論可能であること
A現在話題になっていること
B身近な問題であること
が大きなポイントとなる。
 本校の場合、特に原発が近くにあることや、修学旅行の行き先が沖縄であることもあってか、これらのテーマが何度も採用されている。
 八年度、九年度と固いテーマが続いたのであるが、昨年の討論会実施後のアンケートでは、「学校生活を考えるテーマもあった方がよい」との意見が多かった。 そこで本年度は身近な問題として
「若狭高校はアルバイトを自由化すべし」
を採用し、それに
「日本国は死刑制度を廃止すべし」
「沖縄普天間飛行場を移転すべし」
を加えて決定した。
 
(イ) 論題の学習
 
 冬休み直前に一年生の討論会実行委員が、三つのテーマについて基礎的な知識を盛り込んだ新聞を作成し、各クラスに配布した。
 また、一月下旬に二年生実行委員と、執行部による、各テーマに配布する資料づくりを行った。(図一は、本年度執行部が作成した資料)
 この資料を配付した後は、クラスごとのリサーチが始まる。生徒会室に備えてある基本図書(持ち出し禁止)を、コピーして、それをもとに立論、反駁を作成する。
 本年度は、図書資料だけでなく、職員室や指導部室にあるインターネットを使ったリサーチが大流行していた。
 
(ウ) 形式・方法の学習
 
 一月最後のロングホームの時間を使って教職員による模擬討論会(小体育館に一・二年生全員を集める)を行い、解説を交えながら、ディベートの形式と進行の基本事項を理解させた。
 なお、本年度は対象を一年生にし、生徒自身が模擬討論を行った。
 そしてその日の夕方から一泊二日で、各クラスから四名参加してのディベート研修合宿(一泊二日)を行った。クラス内での指導者を養成することが主な目的である。
 また、アルバイトの論題では二年生の生徒が審判を行うため、その研修も行った。
 試合一週間前には、クラス内模擬討論会の時間を設定し試合練習も行われる。
 この模擬討論にあわせて、生徒会執行部ではディベートでの戦術を書いたパンフレットを作成して全クラスに配布する。クラス員はそれをもとに、戦術を練るのである。
 試合の前日や前々日は、他クラスとの練習試合を行っているところも多くあり、試合慣れもしてくる。
 
(エ)教職員との打ち合わせ
 三学期始業式にクラス担任会議を開き、テーマ・ルールの確認と討論会までの準備の日程について協議、検討した。 また、試合三日前には審判講習会(審判は全教職員が担当)を行い、フローシートの書き方、判定の方法、コメントの手順等を説明した。
 この行事は、全校の先生方がたいへん積極的に取り組んで下さるおかげで、運営できている。
 もし、実施を計画される場合は時間をかけた討議を行い、多くの先生方に協力をお願いする必要があるだろう。
 具体的には、次に書くような意義を多くの先生に認めていただくことが肝要である。
 
五 生徒会行事としてディベートを行う  意義
 (ア)執行部の活動としての意義
 後期執行部では、校則の見直しを行ったり、学校生活の不満について考えたりすることが多い。
 ただ、現実としては執行部だけが盛り上がって、一般生徒と執行部が遊離してしまうことがある。
 学校における様々な問題を解決する運動の一つとして全校ディベートを実施するのはどうだろうか。
 たとえばテーマを
「△△高校において、○○を認めるべき である」是か非か
とする方法である。
 ○○の中身は、@アルバイト A原付免許の取得 B茶髪・ピアスCカラオケボックスD自動販売機の設置E携帯電話など、何でもよい。
 また、「○○を廃止すべきである」として、@課外補習 A制服  B部活動としてもよい。
 とにかく生徒が疑問に思っていることについて、考えるきっかけにすることが重要である。
 また、これによって生徒意識の調査もできる。(図二参照)
 「校内の清掃は業者に委託するべきである」「高校生の喫煙を認めるべきである」等、保健関係のテーマにすることで、保健部の協力を頂けるかもしれない。
 
 (イ) 進路指導の一環としての意義
 
 就職試験や進学の推薦入試において、面接や作文は必ず課される。
 ディベートはこの二つの対策にはもってこいである。
 進路指導室が課外によって指導するよりも、生徒会執行部が企画運営した方が、生徒の意欲も高まり、効果が期待できる。
 特に国公立大学で後期試験が本格化し、面接小論文対策を検討している学校は多いはずである。
 藤島高校も本年度、生徒企画によるディベート大会を催すそうである。
 このような大会を生徒の手によって開催することで、論理構成力・人前で話すことの訓練等多大な効果が期待できる。
 
六 おわりに
 
 「ディベート」と聞くと「難しい」と思われる方がほとんどではないだろうか。しかし現在小中学校では、ディベートを使った授業は定着しているし、高校現場でも多くの先生方が取り入れていらっしゃる。
 あまり難しく考えないで、是非一度、ディベート大会やってみませんか。
 何かお手伝いできることがありましたらkkanabe@mitene.or.jpまで、いつでもご連絡下さい。
        
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