県内繊維産業の財務分析
2000.9.5
ryuzo
『福井県の経済』平成11年度版によると、10年度における福井県内における設備投資の動向は、対前年比54.2%となっており、11年度においても61.4%となっている。しかも、(株)福井経済経営研究所の調査では、設備投資の約80%は資本金1億円以上の企業が占めているとしており、繊維産業、特に中小企業における設備投資はここ数年ほとんど行われていないと考えられ、企業の財務内容を把握することは非常に困難である。ここでは、最近数年間に設備投資を行った数社の中小企業と、民間調査機関の調査による中堅企業の財務内容を手がかりに、県内における繊維産業の実態に迫ってみたい。
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編レース平均 |
繊維その他平均 |
優良中堅企業平均 |
織物製造業 |
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経営資本対営業利益率 |
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1.1 |
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2.1 |
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7.7 |
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-0.2 |
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経営資本回転率 |
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1.1 |
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1.1 |
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0.7 |
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0.7 |
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売上高対営業利益率 |
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1 |
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1.9 |
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10.8 |
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-0.2 |
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自己資本対固定資産比率 |
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80.3 |
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484.9 |
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61.9 |
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457.8 |
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固定長期適合率 |
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36 |
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61.9 |
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45 |
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91.4 |
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流動比率 |
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173.6 |
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195.8 |
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291.4 |
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120.5 |
当座比率 |
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95 |
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112 |
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163.9 |
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52.9 |
総資本対自己資本比率 |
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31.5 |
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9.3 |
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56.6 |
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14.2 |
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売上高対支払利息比率 |
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1.6 |
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2.3 |
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1.1 |
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4.1 |
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従業員1人当たり年間生産高 |
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30684.2 |
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14809 |
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25386.7 |
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16361.3 |
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生産高対人件費比率 |
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13.2 |
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29.4 |
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0 |
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0 |
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従業員1人当たり機械装備額 |
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1179.8 |
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2400.7 |
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0 |
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0 |
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従業員1人当たり有形固定資産額 |
6916.5 |
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4424.7 |
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9655.3 |
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13491.9 |
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売上高対総利益率 |
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17.5 |
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21.3 |
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34.4 |
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11.7 |
[安全性の観点から]
企業が投下する資本は、運転資本と設備資本にわけられる。資本の調達の分類からは他人資本と自己資本にわけられる。
<運転資本>
投下される資本のうち、原材料の購入,商品仕入れ、人件費の支払等に振り向けられる部分が運転資本である。運転資本が十分に確保できないと仕入代金などを迅速に支払うことができない。
流動資産から流動負債を差し引いた残りの部分を正味運転資本という。
流動資産(運転資本)−流動負債=正味運転資本
これを比率に置き換えたものが流動比率である。したがって、流動比率は短期的支払能力をみるために有力な指標である。流動比率が100以下であるということは正味運転資本がマイナスということであるから、資金がショートする畏れがあり、企業経営にとって望ましい状態ではない。今回指標取りをした編レース企業平均・173.6%、繊維その他企業平均・195.8%、優良中堅企業平均・291.4%、織物製造中堅企業平均120.5%と、いずれも、比率は100%以上であり、正味運転資本の上からは問題点はみられない。
<当座比率>
当座比率は現金預金・受取手形・売掛金といった、現金あるいは近々に現金化可能なものを流動負債で割ったもので、資金繰りの余裕度を示している。編レース企業では95%となっており100%を割っている。繊維その他企業・112%、優良中堅企業・163.9%となっており健全さを維持している。『中小企業の経営指標』では繊維工業平均(健全企業平均)で119.4%であり、繊維その他企業はほぼ同水準にある。優良中堅企業の水準は同指標と比較するとかなり高い。一方、織物製造中堅企業は52.9%と100を大きく割り込んでおり、短期の資金繰りが極めて苦しいことを示している。
<固定長期適合率>
固定長期適合率[固定資本/(自己資本+長期借入金)]は長期資本の固定化の程度をみるもので、設備投資にあたっての大原則は、まず自己資本を第一に考えること。第二に自己資本で不足する部分については長期的な借入金で安定的にまかなうことである。しかし、中小企業では一般的に自己資本の占める割合は小さく、設備資本に向ける資本の大部分は借入金に依存することになる。固定長期適合率が100%以上ならば、固定資本を自己資本と長期借入金でまかないきれておらず、短期借入金等に依存する異常な投資を行なっていることを意味する。
編レース企業・36%、繊維その他企業・61.9%、優良中堅企業・45%となっており、投資前においては、いずれも『指標』繊維健全の84.8%よりも低く、健全性を維持しているといえる。編レースについては、従業員1人当たり機械装備額が1,179.8千円であることから、『指標』繊維健全の2,711千円と比較してもかなり低く、設備の減価償却がかなり進んでいたと思われ、今回の設備投資により、固定長期適合率が大幅に上昇することが考えられる。織物製造中堅企業については、91.4%と繊維健全をかなり上回っており、100に近づいている。織物製造業では、近年大規模な設備投資がおこなわれていないことから、過去の構造改善事業時代の設備投資の重圧から抜けきれていないようである。
<総資本対自己資本比率>
総資本対自己資本比率[自己資本/総資本]も企業の安全性を見るうえでは重要な指標である。『指標』繊維健全では35.3%であり、比率は高いほうが良いが、自己資本の弱小な中小企業ではなかなか『指標』の水準を達成することは困難である。編レース企業では31.5%とほぼ『指標』の水準に近いが、繊維その他企業ではわずか9.3%でしかなく、経営基盤がきわめて弱体であることを示している。優良中堅企業では56.6%となっており、『指標』の水準を大幅に上回っており、非常に安定した経営を行なっているといえる。一方、織物製造中堅企業では14.2%となっており、この間、かなり経営体力を消耗してきていることが伺える。
[資本の運用効率の観点から]
<経営資本回転率>
資本の運用効率の総合指標である経営資本回転率は、『指標』繊維健全では1.1回となっている。編レース企業、繊維その他企業ではともに1.1回となっており、『指標』とほぼ同水準にある。優良中堅企業では0.7回、織物製造中堅企業でも0.7回となっており、『指標』水準にまでは達していない。経営資本回転率は、業種によって特徴があるので、必ずしも低い回転率が悪いとはいえないが、回転率が低いことは固定資産への過大投資を注意する必要がある。
固定資産への過大投資は
@投下資本が長時間にわたり企業内に固定し、円滑な回収が困難である。
A減価償却費、支払利息割引料などの固定費が利益を圧迫する。
B固定資産の投資に見合ったより高い経営効率を実現しないと支払不能に陥る。
こととなる。
ちなみに、優良中堅企業の売上高対支払利息比率は1.1%であるが、織物製造業中堅企業については4.1%となっており、過去の過大な設備投資による借入金の支払利息割引料が経営を圧迫していることが見て取れる。
[収益性の観点から]
企業の目的は、利益追求にあることから、まず、投下した資本とその運用の結果得られた利益を結びつけて考えることが必要である。
<経営資本対営業利益率>
収益性は、企業の投下資本と実現した利益との関係で見るものであり、一般的には経営資本対営業利益率(営業利益/経営資本)を中心指標として採用している。『中小企業の経営指標』では当指標を事業活動成果の総体を示す「総合」指標として最も重要視した扱いをしている。
経営資本対営業利益率は編レース企業では1.1%、繊維その他企業で2.1%、となっており、『指標』繊維健全の3.5%と比較するとかなり見劣りをする数字となっている。
優良中堅企業は7.7%であり、『指標』の2倍以上の水準にある。『指標』の製造業平均では4.6%、一般機械器具製造業や輸送用機械器具製造業でも5.0%を確保しており、精密機械器具製造業では5.8%となっており、優良中堅企業の水準が必ずしも高いものではない。一方、織物製造業中堅企業では−0.2%と営業利益が赤になっており、累積損失が膨らんでいる。
<売上高対対営業利益率>
資本利益率は次のように分解される。
利益 利益 売上高
――――=――――×――――
資本 売上高 資本
したがって、売上高対対営業利益率(営業利益/売上高)も収益性を示す指標である。
『指標』繊維健全では3.3%であるが、編レース企業では1.0%、繊維その他企業では1.9%となっており、かなり低くなっている。優良中堅企業では10.8%と3倍以上の水準にある。織物製造業中堅企業では−0.2%で赤である。売上高対営業利益率は当然ながら景気の動向、業界一般の動向に左右されるので、どの程度が適性水準かは一概にいえないが、『指標』製造業健全では4.0%となっている。
<売上高対総利益率>
売上高対総利益率(総利益/売上高)も収益性を示す指標である。総利益(アラ利)がどれだけあれば正常かは個々の業界の特殊性があり一概にはいえないが、『指標』繊維健全では21.6%ととなっている。『指標』製造業健全でも24.9%であり、20%以上は欲しいところである。編レース企業では17.5%と若干下回っている。繊維その他企業では21.3%とほぼ『指標』繊維健全の水準を確保している。優良中堅企業では34.4%と『指標』製造業健全を10%程度上回っている。織物製造業中堅企業ではわずか11.7%しか確保しておらず瀕死の状況にあることがうかがえる。
[生産性の観点から]
<従業員1人当たり年間生産高>
生産性とは、どれだけの生産手段を投じて、どれだけの生産をあげることができるかということであり、通常は分子には達成された生産としては付加価値(生産額には、その企業が直接に創造した価値部分と、他の企業でつくりだされた価値移転したにすぎない価値部分がある。売上高−外注費等=加工高)を用いているが、今回は中堅企業については製造原価が明らかではないので、生産高を用いることとする。従業員1人当たりの売上高(生産高)をもとめ、これが高いほど生産性も高いのが普通である。
編レース企業では30,684千円、繊維その他企業では14,809千円、優良中堅企業は25,386千円、織物製造業中堅企業では16,361千円となっている。参考に加工高を計算できる編レース企業の従業員1人当たり加工高は21,792千円、繊維その他企業は13,602千円であり、編レース業界では外注費が1/3弱を占めており、生産高と付加価値とではかなりの背離がある。
<従業員1人当たり機械装備額>
生産性は投下資本のいかんによって大きく異なっている。編レース企業の機械装備額は1,179千円と極めて低いものである。繊維その他企業は2,400.7千円となっており、『指標』繊維健全の2,711千円にほぼ近い数字である。中堅企業の製造原価は明らかでないので、近似値として<従業員1人当たり有形固定資産額>を使うこととする。優良中堅企業の従業員1人当たり有形固定資産額は9,655.3千円であり、織物製造業中堅企業では13,491.9千円となっている。有形固定資産には建物・土地等が含まれているので設備資産とはかなりの背離がある場合もあるが、優良中堅企業と比較すると織物製造業中堅企業の有形固定資産額は異常である。従業員1人当たり生産高がかなり低いこととあわせて考えると、不良設備資産の重圧に喘いでいる実態が浮かんでくる。
参考文献 中小企業の経営指標 平成11年版 中小企業庁
福井県の経済 平成11年版
財務診断の着眼点 遠藤宏