インターネット上の鏡花情報 近代文学研究とインターネット
藤堂尚夫
はじめに
インターネットが大いにブームとなっている。インターネットに接続すれば、世界中の情報が、すぐに入手できるような錯覚を覚えるくらい、喧伝されている。もちろん、インターネット上の情報は非常に多く、インターネット上に公開されている情報は 、簡単に手に入れることができるのは確かだ。しかしながら、インターネット上の情報は、必ずしもすべてが有用なものとは言い難いし、情報の発信について規制がないために、時に誤った情報も流されさえする。 インターネット上の近代文学の研究情報は、今のところ書籍・雑誌等の情報とは比較にならないほど少ない。一部の研究者が、ホームページ(以下HPと略す)を作成し、研究論文の一部を公開したり、参考文献リストを作成していたりするのだが、それとて、多くの場合、個人的な興味の範囲内であり、今のところも情報は、決して研究の現状を優れて映し出すものはないといってよいだろう。しかしながら、近代文学関係のHP作成者の営為によって、将来的には研究の現状を克明に反映した近代文学研究についての情報が、インターネットから得ることができるようになるに違いない。本稿では、インターネット上の鏡花情報を紹介し、多少なりともインターネット上の近代文学研究の紹介をしたい。但し、稿者自身がインターネットに接続して二ヶ月に満たないため、情報の疎漏があろうし、情報収集の方法にも、充分でないところがあると思われる。その点については、読者諸氏の御指摘を是非ともいただきたい。
検索
今のところ、鏡花研究を専門的に扱うHPは存在しないようである。(H9.9.29現在 以下同じ)鏡花研究者は、決して少なくないと思われるので、HP作成に関心のある鏡花研究者は是非鏡花の情報を発信していただきたい。 鏡花研究に関するHPがないため、情報の所在を探すためには、インターネット上の情報を検索し、その所在を確かめることとなる。 検索をするためには、検索エンジンを使用する。インターネット上には、いくつかの検索エンジンが存在するので、代表的な検索エンジンで「鏡花」「泉鏡花」を検索してみた。 まず、最近話題になっている検索エンジン「goo(http://www.goo.ne.jp/)」では、 「鏡花」659.件「泉鏡花」532.件が検索された。.「 ODIN(http://kichijiro.c.u-tokyo.ac.jp/odin/)」「鏡花」59件「泉鏡花」2件「Infoseek (http://japan.infoseek.com/)」「鏡花」559件「泉鏡花」448件「エキサイトサーチ(http://www.excite.co.jp/)」「鏡花」57345件 「泉鏡花」52020 件 「千里眼(http://senrigan.ascii.co.jp/)」「鏡花」4件「泉鏡花」3件などであった。 「goo」「Infoseek 」「エキサイトサーチ」は、件数は多いものの、重複が非常に多く、有益な情報といえるものは、その件数に比して非常に少ない。(自己紹介の愛読書として挙げてあるものなど、近代文学研究の資料となり得ないものがほとんどであるといってもよい。)その中で、有益と思われるものを、いくつか紹介していきたい。(但し、鏡花の場合、演劇や映画の原作となっているものが多いが、そういう情報については除くものとする。また単なる書籍の紹介も除くものとする。)
テキストデータ
作品分析にコンピュータを使用する場合、第一に考えられるのが、語彙分析ではないだろうか。その際、作品のテキストデータが必要になる。鏡花の場合は、著作権が切れているために、インターネット上で公開されているテキストデータ(註1) が存在する。京都府立大学女子短期大学部学生の作成した「外科室」テキストデータである。(http://kuzan.f-edu.fukui-u.ac.jp/gekasitu.htm)ちなみに岡島昭浩氏(福井大学教育学部)による「日本文学等テキストファイル」(http://kuzan.f-edu.fukui-u.ac.jp/bungaku.htm)は、テキストデータの網羅的な紹介ページであり、ほとんどがリンクされている。テキストデータの入手には、非常に役立つページである。但し、テキストデータに関する著作権(註2)には、充分に留意することが必要であることはいうまでもない。 鏡花に限らず、近代作家に関しては、著作権が切れている作家であっても、テキストデータは少ない。岡島氏の紹介を見る限りでは、代表作の多くがテキストデータ化されているのは、樋口一葉くらいであろうか。たとえば、夏目漱石などは、短編はいくつかテキストデータ化されているが、「こころ」以外の長編小説は、完全な形のテキストデータは見られない。古典作品の主要なものは、テキストデータの存在が岡島氏によって紹介されているが、それと比べれば、もっと近代文学関係のテキストデータ化が図られるべきだろう。もちろん、著作権を侵してはならないが。
註1 ここでは、無料で入手可能な者の紹介にとどめた。有料の鏡花作品のテキストデータには、「パピレス」( http://www.papy.co.jp/)に「高野聖」 がある。またCD−ROM版では、『歌行燈・高野聖』『婦系図』(新潮文庫版による)が、『明治の文豪』(新潮社)に納められている。 註2 著作権は、作者の死後五十年継続する。また、テキストデータ作成者が著作権を主張する場合もあるようだ。また、当該の書籍を出版した出 版社には、版権及び編集権の存在が考えられる。 以上のことも、テキストデータの使用の際には 留意されるべきである。
観光案内
鏡花ゆかりの地の観光案内において、鏡花の紹介がなされているものが多い。その多くは、単に鏡花が訪れたことを述べたものにすぎないが、その中のいくつかは、鏡花に関心を持つものにとって、ある程度の情報を与えてくれる。 金沢市の公式ウェッブサイトである「いいねっと金沢」の中にある「泉鏡花」のページは情報としてまとまっている。 (http://www.iia.or.jp/kanazawa/bunka/lit/writers/izumi/izumiJ.htm) このページからは、「泉鏡花散策コース」に行くことができる。ショックウェーブを使っているため、プラグインが必要であるが、散策コースを、地図と写真でビジュアルに表現していて、出色の出来であろう。鏡花関係では、他に句碑の写真等も 観光情報として載せられている。(http://www.iia.or.jp/kanazawa/bunka/lit/writers/course/izumi_cJ.htm ) 尚、ここでは、金沢の三代文豪といわれる徳田秋声・室生犀星の紹介ページもあるので、そちらもごらんいただきたい。 「尾張町商店街」のページには、「泉鏡花の生家跡」として、写真と簡単な説明が掲げられている。(http://www.owaricho.or.jp/places/izumi.html) 「金沢旅情」の「浅野川」紹介では、浅野川周辺の鏡花作品の舞台を紹介している。(http://www.ohba.co.jp/boomer/asano.html) 「天生峠(あもうとうげ)」は、「高野聖」の舞台となった天生峠を紹介し「高野聖」作成に関するエピソードを紹介。 (http://www.st.rim.or.jp/~yoro/amou_touge.html)
講演
スーザン・J・ネイピア (テキサス大学助教授)が、国際日本文化研究センターの招きで講演した「近代日本小説における女性像 −現実と幻想− Images of Women in Modern Japanese Fiction: Reality and Fantasy」 が掲載されている。(http://www.nichibun.ac.jp/text/fn07.html) この中で、鏡花の女性の描き方に触れ、漱石・谷崎と比較検討している。「鏡花の女は魔力によって現代に復讐しますが、その復讐も女自身もかなり肯定的に描かれています。しかしそうした女性においてもやはり、漱石や谷崎の作品中のもっとリアリスティックで伝統的な女主人公と同じように、日本の古い伝統を守るという象徴的な役割が非常に重要なものなのです。」と述べている。
おわりに
インターネット上の鏡花情報は、決してこれだけではない。鏡花作品を原作とした映画・演劇の評は、インターネット上でいくつか公開されているし、その中には、鏡花受容に関する見るべき指摘もあるであろう。また、鏡花研究にとって有益な情報とは、人によって見解が違って当然である。インターネットが双方向性を持つコミュニケーションを構築するのであれば、稿者の紹介に対しても、意見や情報を寄せられることは、大いにインターネット的だと喜ぶべきことであろう。(意見・情報は、E-mailで。<takalin@mitene.or.jp>) 簡単な紹介のみにとどめるが、インターネット上の近代文学関係のHPを探すときには、根岸泰子氏のHPのリンク集の情報が、よく更新されていて、かつ網羅的である。(http://www.gifu-u.ac.jp/~kameoka/link.html#top)他にそれぞれの近代文学研究者のHPにリンク集があるので、そのうちのいくつかを併用することで、近代文学関係のHPの現状がつかめることと思う。 この稿をなすに当たって、インターネットの情報収集に関しては、木村功氏のHPの掲示板にて、木村・深谷の両氏に検索についての情報を提供していただいた。(http://www.ube-c.ac.jp/users/kimura/bbs/free.htm) また新国語科教育メーリングリストのメンバーからも検索に関する情報を提供していただいた。特に岡島氏からは、有料テキストデータ・著作権について、多くのご教示をいただいた。 ここに記して、謝意を表したい。
(「イミタチオ」第30号 平成9年12月10日 に掲載)
補遺 このページ作成後いくつかの情報が寄せられました。また、原稿には使わなかったものの、役に立ちそうなものもあります。そういうものを追加しますので、こちらもご覧ください。