インターネット上の中野重治情報 近代文学研究とインターネット
                                                        藤堂尚夫
 
はじめに
  インターネットが大いにブームとなっている。インターネットは、すでに生活の中に入り込み、接続すれば世界中の情報が手軽に入手できるような錯覚を覚えさえする。しかしながら、「インターネットは空っぽの洞窟」とする評者も多く、無益な情報、有害な情報ばかりであるといった印象も拭えないのが現状であろう。たしかにインターネット上に公開されている情報は 、必ずしもすべてが有用なものとは言い難いし、情報の発信について規制がないために、時に誤った情報も流されさえする。
  インターネット上の近代文学の研究情報は、今のところ書籍・雑誌等の情報とは比較にならないほど少ない。一部の研究者が、ウェブページ(一般にはホームページとも呼ばれているが、本来ホームページは表紙に当たるページのみを指す。本稿では、以下WPと略す。)を作成し、研究論文の一部を公開したり、参考文献リストを作成していたりするのだが、今のところインターネット上の情報は、研究の現状を優れて映し出すものであるとは言い難い。しかしながら、近代文学関係のWP作成者の数は増えつつあり、将来的には研究の現状を克明に反映した近代文学研究に関する情報が、インターネットから得ることができるようになるに違いない。本稿では、インターネット上の中野重治情報を紹介し、多少なりともインターネット上の近代文学研究の紹介をしたい。但し、WPは新しいものが作成されたり、削除されたり、あるいは更新されたり、URL(WPの住所のようなもの)の変更があったりと変化が激しい。そのため、ここに紹介する情報が、必ずしも正確でないことがあると思われるので、最初に断っておきたいと思う。
検索
  今のところ、中野重治研究を専門的に扱うWPは存在しないようである。(H10.3.30現在 以下同じ)中野重治に関する情報を集めたWPが作成されることを望みたい。
  インターネット上の情報の所在を探すためには、情報を検索し、その所在を確かめることとなる。 検索をするためには、検索エンジンを使用する。インターネット上には、いくつかの検索エンジンが存在するので、代表的な検索エンジンで「中野重治」をキーワードにして検索をかけてみる。
  まず、最近話題になっている検索エンジン「goo(http://www.goo.ne.jp/)」では、253件、「ODIN(http://kichijiro.c.u-tokyo.ac.jp/odin/)」では13件「Infoseek (http://japan.infoseek.com/)」では、11,857件「エキサイトサーチ(http://www.excite.co.jp/)」では13,346 件、「千里眼(http://senrigan.ascii.co.jp/)」1件「Info Navigator」(http://infonavi.infoweb.ne.jp/)185件などであった。
 「goo」「Infoseek 」「エキサイトサーチ」「Info Navigator」は、件数は多いものの、重複が非常に多く、有益な情報といえるものは、その件数に比して非常に少ない。(自己紹介の愛読書として挙げてあるものなど、近代文学研究の資料となり得ないものがほとんどであるといってもよい。)実際には、それぞれの検索エンジンで絞り込み検索ができるため、キーワードを複数にするなどして、必要な情報を絞り込むべきであろう。(その方法は、それぞれの検索エンジンのページに解説がある。)また、検索エンジンを使って情報を選択するソフトも発売されているようであるし、「メタ検索エンジン」と呼ばれるいくつかの検索エンジンを一つのページから検索できるものもある。ちなみに、稿者は今のところ二十以上の検索エンジンを連続検索できる「EasySEARCH」(http://www.aist.go.jp/NIBH/~honda/EasySEARCH/)および九の検索エンジンの結果をまとめて表示することができる「メタ検索エンジン(MetaSearch_JP)」(http://www.shiratori.riec.tohoku.ac.jp/~kihara/metasearch.html)を使用することが多い。
  このように検索した結果から、有益と思われるものを、いくつか紹介していきたい。(単なる書籍の紹介などは除くものとする。)
論文・エッセイ
  中野重治に関する論文・エッセイを公開しているWPがいくつか存在する。
  「栗原幸夫のホームページ」*1内の「未刊のアルヒーフ」(http://www.shonan.ne.jp/~kuri/mikan.html)*2では、栗原氏の中野重治に関する文章を紹介しているが、そのうち「五勺の酒」問題」(http://www.shonan.ne.jp/~kuri/goshaku.html*3「中野重治の『わが国』『わが国びと』」(http://www.shonan.ne.jp/~kuri/nakano.html)*4が公開されている。前者は、「五勺の酒」に関連して、天皇制と批判のあり方についてふれたエッセイであり、後者は中野重治のエッセイ「わが国 わが国びと」に関連して中野重治にとっての柳田国男について考察する論である。
  手前味噌になるが、稿者もWPを作成しており、ホームページ(http://www.mitene.or.jp/~takalin/)より、四編の論文・エッセイをリンクし公開している。漱石研究史上の中野について述べた「重治と漱石のこと」(http://www.mitene.or.jp/~takalin/sigeharu.htm)「『歌のわかれ』をめぐって」(http://www.mitene.or.jp/~takalin/utano.htm)「『街あるき』論」(http://www.mitene.or.jp/~takalin/matiaruki.htm)「中野重治短篇集』を読む」(http://www.mitene.or.jp/~takalin/tannpenn.htm)である。いずれも「中野重治研究会会報」に掲載されたものである。
  近代文学研究においては、資料収集にかなりの労力が割かれているのが現状であろう。資料収集に奔走する手間を少しでも解消できないかと考えるのは、自然なことであると思われる。著作権等、公開する上での問題は存在するが、できるだけ多くの論文・エッセイが手軽に収集できる形になることが、研究の発展に及ぼす利益は、かなり大きいと思われる。中野重治のについて論ずる人は、決して少なくないのであるから、できるだけ多くの方のインターネット上での公開を望みたい。
新聞記事
 地元の「福井新聞」には、たびたび中野重治関連の記事が掲載されているが、そのいくつかがインターネット上で公開されている。
 平成9年8月24日「越山若水」(http://www.vcnet.fukui.fukui.jp/~fprs/jp/j828.html)は、中野重治の命日にちなんで行われた「くちなし忌」についてのコラムである。
 「福井の週間トピックス」というコーナーにも三つの記事が公開されている。日付順に紹介していくことにする。一つ目は「中野重治が友人にあてた私信の目録を発行 平成9年3月12日」(http://www.vcnet.fukui.fukui.jp/~fprs/jp/tp313.html)「黒田道宅寄贈資料目録」の紹介記事。二つ目は「重治の生きざまビデオで克明に 平成9年5月28日」(http://www.vcnet.fukui.fukui.jp/~fprs/jp/tp529.html )丸岡町民図書館が作成したビデオ「抵抗の作家―野の人・中野重治」の紹介記事。三つ目は、「中野重治しのび丸岡で「くちなし忌」 平成9年8月24日」(http://www.vcnet.fukui.fukui.jp/~fprs/jp/tp828.html)は、「くちなし忌」の模様を紹介している。
その他
いつ行われたのかは不詳であるが、「大阪支部創立記念文芸大講演会,全無産者芸術連盟大阪支部準備会」に中野重治が講師として紹介されているポスターが見える。(http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/poster/img0014.htm)中野の活動の一端を伺うことができる資料として興味深い。当時の状況などもわかるとおもしろい。
  中野は旧制四高に在学し、高校時代を金沢に過ごしたが、金沢時代についての簡略な説明が、金沢市のページ「いいねっと金沢」(http://www.city.kanazawa.ishikawa.jp/index.html)には「文学のまち『金沢』」(http://www.iia.or.jp/kanazawa/bunka/lit/litJ.htm)*5の中に「中野重治」(http://www.iia.or.jp/kanazawa/bunka/lit/writers/nakano/nakanoJ.htm)*6がある。
また、中野重治記念文庫(丸岡町民図書館内)と生家跡が丸岡町にあるが、その紹介をしているものに、丸岡町のページにある「中野重治記念文庫と生家跡」(http://www2.interbroad.or.jp/furusato/maruokaH.htm )(H11.4.25確認できず)「みずといで湯の文化連邦」の中にある「中野重治記念文庫と生家跡」(http://www.iia.or.jp/mizu/zone/maru/maru_4.htm)などがある。
おわりに
 インターネット上の中野重治情報は、決してこれだけではない。ここに取り上げなかったものの中には、中野重治に関する見るべき指摘もあるであろう。また、中野重治研究にとって有益な情報とは、人によって見解が違って当然である。インターネットが双方向性を持つコミュニケーションを構築するのであれば、稿者の紹介に対しても、意見や情報を寄せられることは、大いにインターネット的だと喜ぶべきことであろう。(意見・情報は、E-mailで。<takalin@mitene.or.jp>
また、文中で紹介したように稿者もWPを作成しており、近代文学関係の情報を集めている。近代文学に関する情報収集の一助になるかと思われるので、ご参照いただきたい。

                                               (「中野重治・丸岡の会 会報’98 第3号」に掲載)
 

増補
立命館大学のゼミで作成した論集 雪の下
 ・はじめに …………………………… 立命館大学文学部教授 中川成美
  ・「雪の下」の行程について ……………………………………    倉長有里
  ・「風習の考え方」に見る中野重治の考え方 …………………  岡嶋靖宏
  ・「『文学者について』について」村の家からみる転向 ……    川口奈央子
  ・「警察官について」を考える …………………………………    川島典子
  ・「警察官について」を読む ……………………………………    中谷広寿
  ・「冬に入る」を検証する。 …………………………………… 上野友紀子
  ・「ある側面」を読む ……………………………………………  志賀英男
  ・「甘い生活」論 ………………………………………………… 植田隆之
  ・プロレタリア美術運動とその周辺 ……………………………   松浦靖子
  ・朝鮮人の問題について …………………………………………   佐野幹
  ・戦後文学への《消えた》警告「批評の人間性 」から考える      瀬尾陽子
  ・「なまりの氏素性」に在る懐疑性 ………………………………  秦 功一
  ・中野重治「言葉」をテーマにした論文 …………………………… 秦 功一
  ・中野重治から見るアラヒトガミ事件 ……………………………  村瀬潤子
  ・中野重治研究文献目録一九九〇 一九九八 …………………  瀬尾陽子
  ・編集後記

 渡部芳紀氏『中野重治詩集』論

訂正
追加
栗原幸夫氏 中野重治「再発見」のいかがわしさ (http://www.shonan.ne.jp/~kuri/index.html/archives/nakano/saihakken.html
 


 
What's new  プロフィール インターネット上の鏡花情報 インターネット上の鏡花情報−補遺および訂正 漱石の一断面
夏目漱石/「野分」論−冒頭をめぐって− 中野重治/「街あるき」論 中野重治/「中野重治短編集」 重治と漱石のこと 資料 中野重治書簡
中野重治/「歌のわかれ」をめぐって インターネット上の中野重治情報 インターネット上の中野重治情報2  芥川龍之介/「芋粥」小論 掲示板
書籍検索 ウェブ上の夏目漱石(暫定版) 検索エンジン 一滴の水 近代文学情報(暫定版)
リンク集 テクストデータの部屋 書評 夏目漱石/「野分」論−周作をめぐって1−