藤沢周平さんの俳句は,鶴岡市の大山酒造でみた「軒を出て犬寒月に照らされる」を知っているくらいだが,結核療養時代に,静岡県の俳誌「海坂」に投句していたのは知っていた。
実際に俳句を読んでみて,俳句を通して,藤沢周平という人の息づかいまで聞こえるような,情景が目の前に現れてくるような句がある。やっぱり非凡な読み手だと言える。
眞夜を熱に覚むれば梅雨の音すなり
百合の香に嘔吐す熱のゆえならめ
冬雨を聴きおり静臥位を解かず
3句とも結核療養中の句で,熱っぽい体温から寝ている様子,梅雨の雨の降る音まで聞こえてくるようだ。17文字に凝縮された俳句という形式の持つとぎすまされた,無駄を省いた形の魅力を感じる。