昨年から今年にかけて,「藤沢周平論」中島誠著,「藤沢周平を読む」常磐新平・佐高信他著,「海坂藩の侍たち」向井敏著の三冊を読み,さらに藤沢周平さんの「漆の実のみのる国」を読んだ。
藤沢周平さんという作家は,その小説やエッセイを読んだあと,自分なりの藤沢周平観を語りたくなる作家であるらしい。
「漆の実のみのる国」(上下2巻)は,遺作となった作品。米沢藩10代藩主上杉鷹山の12才から藩政改革の見通しがつくまでのおよそ30年間を描いている。米沢藩上杉氏は,会津120万石から,関ヶ原の戦の翌年に封入された。その時家臣五千人を全て引き連れて移封したことから,全ての苦悩が始まる。
加賀藩100万石に対して家臣は六千人,米沢藩30万石後,鷹山の時代には15万石で五千人はいかにも多すぎる。時代は,農業経済から貨幣経済への移行期。農業生産をあげることだけでは対処できない時代になり,さらに飢饉の連続。そんな時代に上杉家の養子となり,借金に喘ぐ米沢藩財政を色んな政策で立て直して行くのだが,鷹山は自ら木綿の衣服を着用し一菜一汁を身をもって実践されたという。
20年あまりの年月をかけて,借金財政から抜け出す訳だが,さすがに名君と呼ばれるだけのことを成し遂げた人だと納得がいく。
ご病気で,最後の部分は改革の先行きの明るさが見えたあたりで,終わってしまったのが残念だ。お元気で,最後まで米沢藩の行く末を書いて欲しかった。しかし,相変わらず端正な品格のある文章にふれることができて満足だ。