用心棒日月抄

 やっぱりこの本から書き始めなければならないのだろう。
 昭和51年9月号から小説新潮に隔月で連載され,昭和53年6月号で完結した作品。この作品から藤沢周平さんのファンが飛躍的に増えたようで,新潮文庫は,第1刷が昭和56年3月25日に発行されているが,手許にあるのは昭和61年11月15日付の14刷。今では何刷になっているのだろうか?藤沢周平を読んだ記念すべき1冊目の作品である。
 

 「犬を飼う女」では,綱吉の生類憐れみの令の時代が背景となる。北国の某藩を脱藩した青江又八郎が,口入れ屋相模屋吉蔵に紹介された初仕事が,妾宅の飼い犬が殺されそうになったその犬の番である。
 妾宅の主と又八郎の会話から,松の廊下の刃傷事件が語られる。

 縦糸に赤穂浪士の一連の事件と,又八郎が藩主暗殺の陰謀に巻き込まれ脱藩したいきさつを配し,横糸に用心棒稼業の日々を織り込んでいる。

 「娘が消えた」では,口入れ屋相模屋に出入りする細谷源太夫の口から,浅野家の事件が詳しく語られ,「梶川の姪」では,松の廊下で浅野内匠頭を止めた梶川与惣兵衛を浅野家浪人が狙っているという噂があり,その警護の仕事が舞い込む。「最後の用心棒」では,吉良邸に用心棒として雇われる又八郎と細谷が,討ち入りの数日前に辛くも脱出し,影ながら討ち入りを見守るというエピソードも配される。又八郎も藩の情勢が変わり藩に戻るのだが,帰藩後に届いた細谷からの手紙で,赤穂浪士の切腹の様子が知らされる。

 生死を一緒にくぐり抜けてきた細谷との友情(腐れ縁というべきか?),相模屋吉蔵との軽妙なやりとり,国元の刺客との死闘,赤穂事件の顛末,用心棒稼業の私立探偵っぽいストーリーと飽きさせない作品構成の印象は,改めて読み返しても変わらなかった。

 H12.3.26

 書店にて,文庫本の増刷状況を調査してきた。
 「用心棒日月抄」は平成9年3月15日で45刷でした。この本がベストワンかと思い,他の本の増刷状況もチェックしてみると,

 「孤剣」 平成10年10月10日 41刷
 「刺客」 平成 9年 6月25日 37刷

で,立花登手控えより売れているのだろう思ったら

 「春秋の檻」 平成11年9月1日 45刷
 「風雪の檻」   〃   4月1日 38刷
 「愛憎の檻」 平成10年1月3日 36刷
 「人間の檻」   〃   1月5日 35刷

と「用心棒日月抄」と人気を二分していることがわかった。それでは,
皆さんが大好きな「蝉しぐれ」はどうかと見てみると,

 「蝉しぐれ」 平成10年6月5日 20刷
 「よろずや平四郎活人剣」 平成10年1月25日 25刷
 「霧の果て」 平成12年1月15日 27刷
 「隠し剣弧影抄」 平成9年12月5日 26刷

と,捕物帖的な作品が売れているようだ。「市塵」や「白き瓶」などは,上記の作品と比較してあまり増刷されていないで,評伝物は資料が駆使してあり読みにくい(取っつきにくい)ようだ。

H12.3.31

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