(毎週金曜日/朝日新聞地方版に連載)

映画は楽しければ良いか -第9話-

2000年8月4日掲載

 IT(情報技術)革命はすごいもので、時間と距離をアッと言う間に短縮してしまう事実を実感させられました。

 昔は映画一本撮ると言うと資料や関係者を捜し出すのに時間と労力を掛けたのでしょうが、今は撮影の進行と並列して調べるのでしょうかネ? 突然Eメールで東映の助監督から現在撮影中の「長崎ぶらぶら節」に付いてお問い合わせが入り、少し質問に答えたら「是非助言と撮影協力にお越し願えませんか?」と来ましたヨ。

 好奇心一杯の太鼓持ちですから、そりゃ〜勇んで東映京都撮影所に行き、映画や落語に出て来る太鼓持ちはダメで、本来はこ〜だあ〜だと監督やスタッフを前に文化・歴史・お座敷遊びまでお喋りして、撮影に立ち会い助言と協力をする事になりました。

 ところが、最初一通り案内された後はほったらかし、何時誰から質問されるか判ら無いので、常にスタジオの中を勝手に邪魔しない様に動き回わり、自分で考えて仕事を見つけて処理して行かなくてはなりません。

 しかも幇間(ほうかん)役の芦屋小雁さんや花ケ前(はながさき)さんの衣裳たるや、派手な衣裳に尻端折り、私の助言はどこ行ったの? お座敷の造り、芸妓舞妓さん役、お座敷遊び、旦那役の渡哲也様の動きなどどれを採っても、おかしい点が沢山有り、指摘してもほとんど却下されてしまいます。

 でも、考えてみれば、なにも記録映画を撮っている訳じゃ〜無く、娯楽映画を撮っているのですから「マッ楽しければ良いか」てな訳で納得して、所作や座る位置や言葉遣い等こまごまとした事の助言をして参りました。

 完成して映画をご覧になられたお客様から、間違いを指摘され「それでも助言したお前はプロか?」なんて言われるのを楽しみに致しておりますです、ハイ。


法要の後に楽しみの席も -第10話-

2000年8月11日掲載

 暑い夏には生姜醤油で食べる冷や奴が大好きでして、学生の時には二丁づつ食べていましたが、子供の頃はやっと食料事情が好転した頃、一丁のお豆腐を親子三人で分けて食べておりました。

 賽の目に切って一つづつ頂いたり、三分の一の真ん中にスプーンで穴を開けてお醤油を入れ、回りから少しづつ崩しながら頂いて、縁だけになると全部崩しご飯に掛けて食べるのは「みっともない(お凝議が悪い)」と母親から注意されましたが好きでしたネ。

 お盆やご法事で親戚が集ると、お揚げさん一丁を三角の半分に切ったのに、コンニャクや大根の輪切りと共に大鍋でじっくり煮込んだものは、自宅で作ったものよりも味が良く染み込んで大変美味しかったし、白和えなどお豆腐を使った精進料理は好きでしたネ。

 この頃は太鼓持ちも色んな所に呼ばれたりご要望を言われたりで...又それに応えて「ハイ、解りました行かせて頂きます」なんて返事してしまってから、「どないしょ〜?」と悩んでいる自分を、楽しんで見ている根性悪い自分をも楽しんでおりますが、法事の席にも来て欲しいとのご要望がボチボチ有って行かせて頂いております。

 「何しに行くの?」なんて言われそうですが、亡きご先祖様は生前、よく親戚友人皆が集って楽しんでくれるのが大好きな人だったので、今日はご法要の後の直会(なおらい)は皆で大いに楽しむ事にしたんですヨ、とおっしゃって呼んで頂けます。

 正面にご位牌や御影にもご膳をご用意され、皆様で艶っぽく大いに楽しんでおられ、良いのかな〜と思いつつも、「太鼓持ちさん、大いにやってくれ」なんて言われますと、こっちもつい調子に乗ってトコトンやってしまいます。

 現在は、自分の好きな法句経(ほっくぎょう)の中の言葉や仏様の絵を書いた、ご法事専用のパンフレットや敷紙まで作って対応している自分に、何が本業だか迷っております。


大切な気持ちを読む作法 -第11話-

2000年8月18日掲載

 私は一人っ子の甘えん坊で母親べったりでしたので、二十歳の時に亡くしてからは、時折言われた事を今でも思い出します。

 母は貧乏はしておりましたが、みっともない(お凝議が悪い)事は嫌いで、体が弱かったせいか私を小さい時から色々と躾けられましたネ。

 食事には特に気を使い、お箸の持ち方使い方をお魚の食べ方やラッキョウやお豆さんの掴み方など遊び感覚で教えられましたし、新しいお茶わんも使う前にお水から茹でて「粗末に使うと割れるから大事に使ってネ」とその工程を見せながら色々と教えてくれ、子供心にも「大事にしょう」と思いましたヨ。

 一番安いお肉を買って来て上手に重ね、小さいステーキに焼いたり、洋食屋さんから一人前を取って家族三人で分けてフォークとナイフで頂く練習をしました、今考えると可笑しい話ですが、その当時はフォークの背にご飯を乗せて食べる練習をずいぶん致しましたヨ。

 小さい頃は好き嫌いも有りましたが、細かく刻んで料理の中に入れたり、フキなどはストローの様に遊びながら食べさせ、兎に角嫌いな物が無い状態までして頂きました。

 戸の開け閉めから歩き方まで、日常の中でそれとなく教えて頂いたお陰で、今太鼓持ちとしてお座敷に揚げて頂いても、それ程窮屈とも面倒とも感じないのは有り難い事です。

 芸妓さんもお若い時には後ろでご先輩を見て勉強し、ご年輩になられると知識も経験も豊富にてお客様の前でお話相手をされ、全体のバランスを取っております。

 お若い時には若いだけでチヤホヤされますが、ある程度のお年になるとマナーも心得て居ないと、いくら着飾っていてもご本人のお値打ちが下がり、レベルの高いクラスには呼んで頂けません、な〜んて躾けられてもダメで下品な太鼓持ちが言っても説得力は有りませんがネ。

 

 


 


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