(毎週金曜日/朝日新聞地方版に連載)

秋のお茶屋に人生を見る -第19話-

2000年11月3日掲載

 冬の寒さに耐えた小枝から硬い蕾が芽生え、春に若葉となって成長し、夏の暑さの中で栄養を実に与えつづけて後、黄昏の秋に紅葉しながら次世代の実に全てを託し、優雅に舞い散るさまは、人生と重なり、その見事さは優雅な中にも一抹の寂しさを感じるのは私だけでしょうか。

 秋、京のお茶屋の奥座敷にお仲間数人で、優雅に綺麗なお遊びをされる御年配の旦那様方の中には、ゆったりとした時間の流れの中に身を置き、娑婆の忙しさを一時忘れる様な会話をされて楽しまれます。

 ある時は、横に介添の御婦人を置いて、ご自身は酸素吸入をしながら、目の前に沢山のお料理を並べて眺めるだけで手は付けず、にこやかにお座敷遊びや幇間芸を楽しまれるだけで、過分なるご祝儀を皆様に配られる旦那様もおられましたネ。

 裸で生まれ皆に育てられ、勉学に励み人の中で揉まれ、社会の中に適応して仕事に励み家族を養いて後、お座敷で舞芸妓のあでやかなる舞いを見ながら、秋の豊富な実りの御馳走を前にご年輩の旦那様方は、フトご自身の生きざまやこれからの在り方を思い巡っておられるのかも知れませんネ〜。

 人生の大半を、お金を稼ぐ事・溜める事・増やす事に血のにじむ様な努力をされ、今の地位と財産を築かれた旦那様方にとっては、老いてゆくご自身の事をも考えると、お金を使う事は中々難しいのかも知れませんが、それらを全て理解した上でお遊びをなされます。

 たっぷりと果肉の詰まった果物を見ると誰でも食べたくなります、所詮自分で努力しないで親から頂いた栄養は他人様が勝手に食べてしまうもの、子供には生きる力とお金儲けの知恵を与えるだけで、ご自分で稼いだ財産は綺麗に使って、わずかしか残さずに後は子供の力で努力して人生を歩ませた方が社会に適応して生き延びるのかも知れませんナ〜。


残しておきたい地方の芸 -第20話-

2000年11月10日掲載

 皆様や御贔屓のお客様のお陰様にて、太鼓持ちとして北陸・関西を中心に全国から呼ばれ、色んな所に行かせて頂いております。

 たいがいはその町の花街(かがい)や料亭・ホテルが主ですが、たまには人里遠く離れた山の上や陸の孤島だったり船で行かないとダメな処へ呼ばれる事もございます。

 どちらに行かせて頂きましても、迎える女将様や仲居さん芸妓さん達も、全国で五人程しか生息してない太鼓持ちなんて〜動物?は、歴史有る花街(かがい)や料亭ならいざ知らず、始めて見る人がほとんどで最初は鵜の目鷹の目で品定めされますし、何もかも知っている太鼓持ちが見ているのかと思うと、相手もお仕事がやり難いと思われますネ。

 こちらも所詮助平でいい加減な太鼓持ちでは有りますが、それでもなるべく礼儀正しく心得やしきたりを守って、安っぽく見られない様に頑張りますし、相手の領分は犯さない様に芸妓さんの踊りや唄には入り込みませんが、皆様とのお遊びになりますとどうしても絡みが有ります。

 私を呼ばれる旦那様はその土地の名士の方が多いせいか、地元の芸妓さんやお姐さん達にとっては上客、花代の他にご祝儀も出ている席で他所者の太鼓持ちなんぞに引けを取っては立場がございませんし、私に触発されて昔の永く行なってない芸思い出されたりで、積極的に色んな芸やお遊びが出て参ります。

 「金毘羅船々」「トラトラ」「籐八拳」「箸拳」「蒸気ドンドン」「どんたくさん」など全国に広まっているお遊びはもちろん、その土地ならでわの秘芸やお遊びも久し振りの感じでご披露頂けます、芸妓さんと共に伝承されなくなっている、その土地ならではのお遊びは、何らかの形で是非とも掘り起こし残して置きたいものと思います。

 皆様も珍しいお遊びや昔からのお遊びご存知でしたら是非お教え下さいネ。

  


 


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