(毎週金曜日/朝日新聞地方版に連載) |
花街の移動もいい気分 -第16話- 2000年10月6日掲載 昔し、子供の頃は祇園に行きますと、まず舞子さんが居るか探します、居られると近くに寄ってはしげしげと眺めたり一緒に並んで歩いたり、相手のご迷惑も何も考えず自分の事ばかり考えては、一緒に写真を撮りたくてウズウズして居りましたネ。 今は、太鼓持ちをさせて頂いて居りますので、お着物姿で舞妓さん芸妓さん達とご一緒にお茶屋さんからお茶屋さんに移動する事もしばしばあります。 そんな時に出会った観光客や素人さんにしてみれば、こんなチャンスは滅多に有りませんから、ジロジロ眺められます、舞妓さんから親し気に「お兄さんお兄さん」と話し掛けられている着物姿のこのこ汚い男は誰なの? なんて思って見て居られるのでしょうネ。 祇園の街は特に芸妓・舞妓さん達で持っている所がございますから、客引きの兄さん達もタクシーも他の住人さん達も道を空けて譲ってくれますし、通り易い様に気配りをして頂けますから、お素人さん達から見れば、芸妓・舞妓さん達に囲まれて歩いている太鼓持ちは特殊な人間に見えちゃうのも仕方有りません。 特に祇園祭り(節分・葵祭り・時代祭り)等の行事の時には、お茶屋界隈も観光客やアマチュアカメラマン達など人出も多く、お遊びの旦那様方は人に見られるのが困る立場なので、お近くでも一足先にお車で次のお茶屋に行かれてしまわれ、残された太鼓持ちは、舞妓・芸妓さん達に囲まれてお話なんぞしながら、ご一緒に花見小路をゾロゾロ歩くものですから、何時の間にやら取り囲まれて写真は勝手にバシャバシャ撮られるは、厚かましい人になるとポーズの注文まで出して来ますヨ。 すごい時には身動き取れない程になる事も有りましたネ、だからと言ってお客様になるかも知れない人達に「どいて下さい、撮らないで下さい」なんて〜一方的な言い方も出来ずで困りますが、しかし一方では何だか有名人や芸能人になった気分に慕って酔い知れている自分も可愛いものです。 綺麗なものに飽くなき欲 -第17話- 2000年10月20日掲載 今はそれ程でも無いですが、子供の頃は秋風が吹く頃になると、何処からともなく赤トンボが舞い始めます。 近所の公園には沢山の赤トンボが乱舞し、柵の上には数珠つなぎに止まって居るのを尻尾の方からそ〜っと手を細めてパッと捕まえ様としますが、赤トンボも中々はしこく(すばしっこい)子供では簡単には捕まえられませんでしたネ。 特に赤が鮮明で綺麗な赤トンボ程捕まえるのは困難でしたが、それでもやっと捕まえると糸で結んでは飛ばして遊んでおりました。 青空を真っ赤なトンボが舞い遊ぶ姿は、舞子さんに似てとっても綺麗ですが中々手に触れる事は出来ません、赤襟の舞妓さんも見るだけなので花柳界では「金魚さん(真っ赤なおべべを着てゆらゆらと綺麗に舞い、見るだけで食べてはいけないお魚と同じなので)」とも申します。 でも、太鼓持ちも一応男ですから、何時かこんな綺麗な人を何とかしてみたいと思いますが、お商売ものに決して手を付けてはいけない決まり、そんな事をした日にゃ〜二度と花柳界ではお仕事が出来なくなってしまいます。 逆に御婦人のお客様の中にも、遊ぶだけで無く綺麗な?太鼓持ちを何とかしてみたいとお考えになられるお方がおいででして、大胆なお人になりますて〜と、お座敷が済んで着替えている控えの間に来られて「幾らなの?」と言ってヴィトンのバックを開いて札束を見せて迫って参ります。 いくら売り物買い物の玩具の男芸者とは言っても、初めてのお客様にはチョットて〜所がございますので、丁重にお断りを致しますが、人間綺麗なものには眺めるだけで無く、手に入れたい触って見たいと思うのでしょうか?それとも珍しいものは食べてみたい食欲が湧くのでしょうかネ〜。 一緒の食事で親しみわく -第18話- 2000年10月27日掲載 私が生まれた頃は戦後間もなくで、どこの家庭も食べるのに必死でした、でも町内の子供達はどこか皆で見守って育てようとの気構えみたいなものを感じましたし、子供心にも近所のお家で御馳走になるのは別にど〜って〜事でも無かったです。 家は床屋さんだったので夕食時にはまだ両親とも仕事中にて、とても食事の準備する時間がなかったのですが、前の家に遊びに行ってはそのまま夕食をたびたび御馳走になっていましたヨ。 いつも母は、「アラ〜又ご飯よばれたの?ありがとうってお礼言ったか?」と言っておりまし、我が家の仕事が休みの時には前の家の子を呼んで料理して皆で食べたりして、それなりに助け合ってどちらの家にも自由に出入りして楽しかったですネ。 今はも〜ご近所で夕食を御馳走になるなんて〜事は無くなりましたが、お座敷遊びの前や後に旦那様が舞芸妓さんや太鼓持ちを引き連れて、お料理屋さんにてスッポンやフグ鍋を皆で囲んで頂く事がございます。 太鼓持ちはお座敷では、噛まなくても良いもののみ頂きまして、噛む物は頂か無いのが原則ですが、旦那様・舞芸妓様も全員で頂く時は例外になっておりまして、舞妓さんに「お兄さんど〜ぞ、お熱つ〜おすエ〜」なんて言われながら、お鍋からお皿に取って頂き綺麗所と御一緒のお食事はとっても楽しいものです。 そんな豪勢なお食事で無くても、名の知れた旦那様は普段食べに行かれても、カウンター等で大衆料理一品を頼んで一般の人達とご一緒と言う訳にもいかない立場ですから、仕方なくお茶屋さんに出前を頼まれ、珍しく無いものを「これも中々旨いもんだナ〜」と嬉しそうに食べられるのを太鼓持ちも御相伴になったり、お遊びの最後に皆さんでおうどん食べると、何だか皆様と心一つになった様な近親感が生じますネ〜。 |
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