基本セット 
 
 

 今回は基本セットのお話です。私は一応日本語版の第4版が発売された少し後辺りから日本のマジックの様子を見ているのですが、この基本セットのお話は基本セットが改定される度に話が難しくなっているというか、先行きが見えなくなっている感じです。という事で、ここではまずマジックの基本セットの歴史を、特に第4版以降について振り返ってみましょうか。

 第4版の頃のマジックは、間違いなくデッキを作るときに基本セットが最も重要な役割を果たしていました。確かに色々なエキスパンションが既に発売されてはいたのですが、でもその内容はおおむね基本セットで遊ぶマジックを補佐する物になっていたと思います。デュエリストは基本セットを買うことに何の疑問も迷いもありませんでしたし、後進がマジックを始めようとしたときにも、何はさておき基本セットを勧められたのです。ただ第4版はどうも基本セットとしてはオーバーパワーだったみたいで、途中で何枚かの禁止カードが出てしまいました。「この事が結果的にその後の基本セットの悲劇を生むことになったのかも知れない。」というのはあいせん君からの受け売りです。

 この様子に変化が現れたのは第5版からです。第5版は収録カードが肥大化してしまい、しかしその割にカードセットの目玉となる人気カードに乏しかったようです。ウィザーズ社としては特定のカードにデッキが依存することを避け、同時に基本セットのパワーダウンを狙ったのだろうと思われます。確かに当時のデュエリストは第4版の頃の名残で第5版も買い続けたのですが、でも途中で「なんか変だぞ?」と思い始めました。それは第5版には第4版のような買うことに対する安心感がなかったからです。そしてここにエキスパンションのオーバーパワー化が拍車をかけることになります。第5版の発売を挟むように発売されたミラージュサイクルと、それに続くラースサイクルのカードが、結果的にマジックでの基本セットの重要性というか地位を下げてしまったのです。

 そしてこの状況が決定的になるのが第6版(Classic)のときです。第6版は第5版から収録カードを大幅に(434種類から335種類に)絞り込んだのですが、しかし収録カードのパワーダウンが更に進みます。しかも第6版を挟んで発売されたウルザサイクルがご存知の通りのオーバーパワー振りで、この時点で基本セットとエキスパンションのパワーバランスは完全に崩れてしまいました。この時期に初心者には基本セットの代わりに最新の独立型エキスパンションを勧めるという今のマジックの遊ばれ方が一般的になった気がします。

 そして今の第7版です。この頃は既に中級者以上のデュエリストは基本セットを買わないという文化がすっかり定着してしまっている印象が強いです。これをウィザーズ社はトーナメント・プレイヤーが買っていないであろうポータルからのカード再録カードイラストの差し替えで解決しようとしたのでしょうか。でも第7版って第6版から見ても更にパワーダウンされていませんか。使えるカードとそうでないカードとの差が激しすぎて、しかも使える物がかなり限られる気がします。また差し替えたカードイラストもどうも受けが今一つ思わしくない印象があります。これは人によってご意見が分かれるところだとは思うのですが、でも最近シングルカードの相場を見ていても、昔みたいに明らかにカードイラストが価格を押し上げている物は見当たりません。極楽鳥なんかは第7版の物の方が値段が高い店があるようですが、でもその理由は珍しいからという事みたいです。という事で、以上が振り返りということになります。

 こういうお話を書くと、まず聞かれるのは「じゃあ君は基本セットとしてどれが理想的だと思うの?」というご質問だろうと思います。ということで、まず私の答えを書いてしまうと禁止カードを別の物に交換するサポートをした第4版になります。(もちろん当時そんなサービスは実施されていませんけどね。)だって第5版以降の基本セットって、結果的にマジックという遊びを盛り上げるための戦力になっていないんですもん。特に第6版以降は初心者が買うにしてもアンダーパワー過ぎて、結局エキスパンションの追加購入を勧めざるを得ない有様です。それだったら最初から初心者には最新の独立型エキスパンションを勧めた方が親切ですよね。一時期あいせん君も「もっと基本セットを買おう」みたいなキャンペーンをしていた時期があるのですが、でもさすがに第6版の収録内容を見て「これは無理!」と言って匙を投げた経緯があります。ただあいせん君の場合、そういう話の裏に「これで高潔の証(5E限定)の出回りが増えれば…」という邪念がなかったとは言いきれないんですよね。だって最近でも「今度から僕が開く公認トーナメントの参加費は牛姉1枚にしてみよう。」とか言ってますから。そんな大会誰も出られませんよ。自分で福井中の牛姉を刈り尽くしておいて、まだ足りないんですかね。

 あ、話を戻しますね。特に最近つくづく思うのですが、今の基本セットって一体何のためにあるんでしょうね。

 少なくとも第4版の頃まで、基本セットはマジックの中で大きな役割を果たしていました。そしてそれは間違いなくマジックの基本となるカードの集合体だったのです。基本セットのカードをマスターすれば、その他のカードを使われてもちゃんと対処できるし自分でも使いこなせる。そういう物だったのです。でも今は違いますよね。クリーチャーにしても基本セットの物で最近のスタンダードでも通用しそうなのって極楽鳥とマナ出しエルフくらいでしょうか。(でもそれって攻撃用じゃないんですけど。)確かに最近のデッキにも一部のカードが使われていますが、でもそれってそのカードが主力だということではなくて、別の本当に使いたいカードをサポートしているだけです。あ、そういう意味では対立はがんばってるかな。

 最近の基本セットとマジック全体の関係を、あいせん君がこんな例え話にしてくれました。

「最近の基本セットは将棋で言うと挟み将棋みたいな物だ。ある将棋の初心者が本で勧められて挟み将棋を遊んでいたら、ある日突然『やあ、君は将棋をやりたいのか。じゃあ今から本将棋のルールを覚えてくれ。え!?、挟み将棋ならできるって。そんなルールを覚えても本将棋では役に立たないよ。』と言われる。最近のマジックはそんな感じだ。」
 確かにこういう状況であったとしたら、基本セットは買えないし勧められませんね。以前あいせん君も基本セット限定構築を自分が開くマジックイベントの中に盛り込んだことがあります。でもこれが参加者が全然集まらなくてうまく行かなかったんですよ。この時のことが結構あいせん君にはトラウマになっちゃっているみたいで、それもあって少し前に「そんなにスタンダードがいいならもうスタンダードのイベントしかやらん!」とかすねちゃったんですよね。他のフォーマットのイベントでは10名集まるかどうかというマジックイベントが、スタンダードを銘打った途端に参加者が20名を軽く越え、DCI公認トーナメントになったら会場に人が入り切らなくなる。これでは大抵の人はやる気をなくしますよ。

 こういう機会に「ぜひ基本セットだけのフォーマットを立ち上げて初心者育成を…」みたいな提案が書ければ格好いいだろうし、またエッセイとして体裁も整うのです。でも私もあいせん君とか福井でマジックイベントを開いた何人かの方々が累々と積み重なった屍の山を見ていますから、そういう提案には実効性というか現実味がないとしか思えないです。(あ、横で「勝手に殺すな!」とか騒いでますが。)でもこのまま放っておくとますます基本セットは売れなくなりそうで、それこそあの悪名高き構築済みデッキの二の舞を踏みそうです。

 という事で、次回のテーマは構築済みデッキにしたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

     

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