日本語版ユーザー 
 
 

 今回は日本語版ユーザーについて書いてみます。

 ちょうどこのエッセイを考えている間に、マジックの話題を扱ういくつかのホームページでジュニアトーナメント開催者報酬プログラムに関する話題が出ました。その企画書みたいな物の内容が一部紹介されていたのですが、それによるとホビージャパンは現在日本語版の主たる購入者は小中学生であると考えているそうです。確かに現実はそうなのかも知れません。でもこういう事を販売店に公言してしまうのは、正直私にはあまりよい事だとは思えなかったりします。

 「日本語版マジックは高い。」これは日本のマジック事情をご存知の方なら間違いなく全員の方にご理解いただける話だろうと思います。そういう商品を小中学生が買っている。それはなぜなのでしょうか。「英語はできないけどマジックは遊びたい。マジックはその位面白そうなゲームだから。」そう考えて日本語版を買っているデュエリストが日本語版購入者のどの位の割合を占めるのか、私にはちょっと分かりません。ただ最近思うのですが、ひょっとして日本語版を買っているデュエリストの決して少なくない割合の方々が、実はマジックに関する情報をあまり得ていないのではないかという気がするのです。そういう人達はプレミアイベントで猛威を振るっているデッキの情報は知らないでしょう。それはある意味で歓迎されるべき偶然を生むかも知れない、そういう気もします。でもそれゆえDCI公認トーナメントのこともよく知らないし、ましてや世の中に1パック400円を切る英語版が売られているなんて話も知らない。そういうことです。だとしたら、もしこの人達が何らかのきっかけでその事を知ったらどうなるでしょうか。ひょっとすると彼らはもの凄い勢いで並行輸入の英語版を買い始めるかも知れません。それこそ近所のマジック販売店が潰れようがどうなろうが知ったこっちゃないという感じでね。

 少なくとも現在の日本語版は、デュエリストに安い英語版と厳しい目で比べられて、それでも選ばれたという商品ではないのです。以前あいせん君に聞いたのですが、GAMEぎゃざに掲載されるマジック販売店の広告では、特に現行スタンダードで使える基本セットやエキスパンションの値引きに関する記述が規制されていたそうです。今ですと「ジャッジメントが400円!」「いや、うちなんか350円だぞ!」なんて記載は御法度だったらしいのです。(少なくともGAMEぎゃざ創刊時にマジック販売店に送られてきた案内文にはそう明記されていたそうです。)あいせん君も最近それがどうなったのかは分からないそうですが、でも現在でもGAMEぎゃざの広告に踊っているのは、ポストホビーとP&Hの広告にある「ジャッジメントは500円」「ジャッジメントは500円」「ジャッジメントは500円」という、なんか同じ文章をコピー&ペーストしたような大合唱ですよね。ですからGAMEぎゃざを読んでいる読者の中にも「この店は『フレッシュパックが格安』とか言ってるけど、しょせん税別500円が税込み500円になる程度だろう。」と思っている方が少なからずいらっしゃるかも知れません。本来なら販売店同士の競争を促進するのが目的のはずの広告が、実はマジックの世界では逆に価格統制のために利用されているのですから。

 ではもしも、そういう情報しか持っていなかったデュエリスト達が何らかの機会に正しい情報を得たら、一体どういう状況になってしまうのでしょうか。私は考えただけで背筋が寒くなってしまいます。しかもそういういわば無垢なデュエリストによって日本語版がかろうじて買われて、それで日本のマジックが支えられている。それって私は言い様のない寂しさすら感じてしまいます。でも例えばある日そういうデュエリストから「通販で1パック300円近い英語版が売っているのを見つけたんですが、僕は引き続き日本語版でマジックを続けた方がいいんでしょうか。」と相談を持ちかけられたとして、あなたならどう答えますか。多分今は誰一人として胸を張って「やっぱり日本語版がいいよ。」とは言えないと思うのです。だってそう言うあなただって並行輸入の英語版を買ってるか、あるいは1円でも安いマジック販売店を選んで利用しているんじゃないですか。あ、なんかこういう話を以前、あいせん君が基本セットに関して書いていたのを思い出しました。「自分が買う気のない基本セットなら人にも勧めるな。」これはかなり極論だとは思うのですが、でもこうやって考えてみると一理ありますよね。

 あと並行輸入の英語版が日本のマジックの主流になったのには、間違いなく競技マジックの推進が大きな役割を果たしています。そういう視点から今回の報償プログラムを見てみると、実はその二の舞を踏む可能性がかなりありそうなのです。小中学生限定の大きな大会がある。優勝者にはBOXが授与されるらしい。ぜひとも勝ちたい。でもやっぱり安い英語版を大量に買っている人には対抗できない。だったら自分も…そういう感じです。あとそういうイベントには「僕が利用してる通販ではマジックは1パック○○○円だよ。なんならその値段で少し譲ってあげようか。」などと持ちかける余計なお世話君が間違いなく現れます。(あ、この部分は実話です。あいせん君は自分が勤めていたマジック販売店で開いたイベントで、自分の目の前でこれをやられたそうです。)その時「いや、僕は現在の日本語版に満足してるからいいよ。」と言ってもらえるのでしょうか。多分現状では難しいというか無理なんじゃないでしょうか。

 日本人デュエリストを競技指向に仕向ければ仕向けるほど、間違いなく日本人デュエリストは現在の日本語版からは離れていくのです。遊戯王と比べて1パック当たりの値段が3倍以上もして、並行輸入の英語版と比べても倍近くする日本語版マジックを小中学生に買ってもらって、それで日本のマジックは何とか維持されている。しかもそういう売り上げで日本の競技イベントが支えられているとしたら、見方によっては大人が無知な子供達からお小遣いを巻き上げて別の場所で分配してるなんて事にもなりかねません。そんなマジックには少なくともニューカマーさんは寄り付きもしないでしょうし、そうやって非競技プレイヤーに犠牲を強いて成り立っている競技マジックなんかに魅力がないと私は思います。

 という事で、次回のテーマは競技指向のマジックにニューカマーさんを招き入れるためには(仮題)にしたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

     

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