ニューカマー 
 
 

 今回はマジックのニューカマーさん、特に「競技指向が強くなったマジックとニューカマーさんの関係」について書いてみます。

 …と、いつもの通り書き始めたのですが、今回は最初のごあいさつを書いてからぱったり筆が止まってしまいました。素直に言っちゃうと「自分ではどうしていいのか見当もつきません」という感じなんです。それでこのテーマをまとめるために、あいせん君にお願いしていつもお世話になっている大学サークルの皆様にご意見を聞いてきてもらいました。その場で出た意見をまとめてみると、マジック未経験者がマジック(を始めとする遊びの世界)に入るために必要ないくつかの要素が浮かび上がりました。そしてその中でもっとも大事だと思われる要素として、今回同時にマジックを始める仲間の存在という意見が出ました。

 たとえば日本のデュエリストが10万人いて、その人達が全員そろって競技指向だったとしましょう。街のデュエルルームに集まっている人達全員が、それこそ日本選手権を目指して日々デッキ構築やデュエルに勤しんでいる。そういう中に1人飛び込んで、数千円のカード資産でデッキを作って「誰かデュエルしてください!」なんて言える初心者はいないだろうと思うのです。そしてこういう初心者お断りな状況が長く続けば、マジックにはニューカマーさんの供給が完全に止まり、そう遠くないうちに窒息状態になるだろうと思います…という意見は、過去に何度かあいせん君も書いていますね。これに関して異議を唱える方っていらっしゃるのでしょうか。

 でもそんな中に自分とほぼ同じ時期にマジックを始めて、同じような知識や経験そしてカード資産でマジックに取り組んでいる仲間がいる。これほど力強いことはないです。それはみなさんもご自身の経験から多分ご理解いただけるのではないでしょうか。たとえ周囲がどれだけ競技指向が強かろうが、どれだけカードを買っていようが、そういう仲間がいればマジックは続けられるのです。ですから見方を変えると、実はマジックにニューカマーさんを招き入れるのに最も必要な物、それって実はニューカマーさんなんですよね。これは私の想像なんですが、ある一定数以上のニューカマーさんが常にやってくる遊びは、多分ニューカマーさんの供給に困ることはないはずなのです。でもそのニューカマーさんの数がある限界値を下回ると、とたんにパッタリとニューカマーさんが来なくなる。そういう感じなのではないでしょうか。そしてマジックは今や、その限界値をやや下回る状態になりつつある。そんな気もしています。あいせん君によると「だから本来はある程度“マジックのブーム化”は必要なんだ。」なんだそうです。

 ではそういう状況を打破するにはどうすればいいのでしょうか。そこでまずはマジックの現状をひとまず忘れて、理想論としてニューカマーさんがマジックに来る課程を追ってみようと思います。

 ある人(マジック未経験者の方)がマジックというTCGの存在を知ります。それは友達からの紹介だったかもしれませんし、いつも通っているおもちゃ屋に置いてある物を見かけたのかもしれません。最近ですと何かのコマーシャルかインターネット上の話題を見ての事なのかもしれませんね。

 そしてこの人はマジックのことをもっと知ろうと、意を決してお店に行きます。マジックに興味がある旨をお店の人に告げると、お店の人はマジックの内容や遊び方を分かりやすく説明してくれます。また日本語版があるから英語が分からなくてもある程度は大丈夫であること、そしてやはり同時期にマジックを始めた仲間がデュエルルームに通っていることを知ります。

 「それなら買ってみようかな。」とトーナメントデッキとブースターパック数個を買ってデュエルルームに行くと、そこには確かに数人のデュエリストがいます。彼らの一部はもう何年もマジックを遊んでいる人だったのですが、でも中に何人か始めてそんなに間がない人もいます。さっそくそこで買ったカードを広げると、周りの人達が集まってきてルールの説明やデッキの作り方を教えてくれます。その人達からもらったカードも加えて、ひとまず始めてのデッキが完成しました。早速対戦してみたのですが、まだプレーには慣れていないしカードがちょっと足りないのもあってなかなか勝てません。でもマジックを始めて間がない人とは何とか戦えて、その日のうちに初勝利を手にすることができました。

 それ以降はちょっとお小遣いが入ればお店に行き、夕方や週末はデュエルルームで知り合った仲間と盛り上がるためにお店に通う日々となりました。マジックを始めて数ヶ月。今ではカード資産もちょっとした感じになって、仲間内のデュエルでは何とか互角に戦えるようになりました。来年はお小遣いも増額してもらえるようになったので、今までよりも少しカード購入量を増やして公認トーナメントも目指してみようかなと思い始めています。

 …とまあ、おおよそこんな感じになるのだろうと思います。ここまで書いたところで、横であいせん君が「俺にダメ出しさせろ〜!」と騒いでます。そりゃあ上に書いたお話はあくまで理想論を元にした作り話ですから、現実と照らし合わせれば突っ込み所はいくらでもあるでしょう。でもさすがに横であいせん君が何気なくエディタに打ち込んだ「そこで買ったカードを広げると、周りの人達が集まってきてルールの説明やデッキの作り方を教えてくれますたちまち金色のエキスパンションシンボルが付いたカードを『このカードは君には使いこなせないだろう。こっちのカードの方が絶対に使えるはずだ!』と言って、半ば一方的に黒いエキスパンションシンボルのカードに変えてしまいました。」というのは、私には全然笑えないお話なんですが。

 しかしここで改めて現実を見ると、こういったお話が日本では実現がかなり難しくなっていることを直視せざるを得ないでしょう。確かにマジックの知名度を上げるための販促は行われていますが、今はその活動の大部分が主に関東地方の人達しか見ていませんよね。またそれが目に留まって興味を持った初心者がマジック販売店に来ても、未だに満足にマジックの説明ができない販売店が決して少なくはないのです。さらにデュエルルームにいるのは軍人さん予備軍とも呼べそうな競技指向の強い方ばかり。しかもデュエリストの低年齢化がさらに進んでいることで初心者に余剰カードを差し上げることも難しくなっています。こういう状況でそれでもマジックに残ってくれる初心者って本当にいるのでしょうか。

 ウィザーズ社やホビージャパンは、様々なチャンネルを駆使してマジックにニューカマーさんを招き入れるべく色々とやっています。その活動は一定の評価を受けるべきでしょう。でも実を言うと日本のマジックにはその後をフォローする仕組みがないのです。まず何よりもニューカマーさんは今、どういうわけか競技指向の強いデュエリストが買っているカードよりも高いカードを買っています。また日本のマジックはニューカマーさんが自分なりのカード購入量/自分なりの工夫や知恵でマジックを遊ぶ事をあまり好ましいと思っていません。競技化の名の下に、マジックの世界に入ってきたすべてのデュエリストに箱買いとDCI公認トーナメントへの参加、そしてデッキ情報の検索を半ば強制している。見方によっては日本のマジックはそういう世界になっているのです。そして今、ほぼすべてのデュエリストが結果的にそういうマジックを受け入れています。これでこの後待っている結果がどうなるか…改めて書く必要はないでしょう。それでみなさんにお聞きしたいのですが、みなさんはそれでいいんですよね?

 競技化という流れを加速することと、初心者が入り込みやすい遊びの世界を構築することは、ある遊びの世界を完全に180゜逆方向に進める動きになります。ですからはっきり言っちゃいますが競技化を進めながら同時にニューカマーさんにも来てもらおうなんて虫がよすぎるのです。そして日本のマジックがこれだけはっきりと競技化への方向性を打ち出しているのであれば、いっそのこともうニューカマーさんの獲得に関しては一切あきらめる位の事を考えるべきなのかもしれない。これが私の今回の結論だったりします。もし日本のマジックがそれでもニューカマーさん達の来訪を熱望するのであれば、彼らがマジックを訪れやすく、あるいは定着しやすくするための工夫を考えて実行すべきです。そういうことを一切せずに、ただ単にマンガやCMで煽って小中学生にマジックを遊ばせようとする。だから結局は誰も来ないし、来てもすぐに逃げ出しちゃう。こんなの当たり前の話なのです。

 こうやって活字にしてみると、私の意見は随分と奇抜な意見のように思われるかもしれません。でも今回私が書いた意見を日本のマジックで今実際に起こっている出来事と比べると、実はそれほど突拍子もないお話ではないですよね。ひょっとすると現状を追認した物にしかなっていないかも。そんな気さえします。ですから私はみなさんがそれでいいと思うなら今後もそうすればいいそう言っているのです。現在競技マジックに取り組んでいらっしゃる方が誰1人としてドロップアウトせずに競技マジックについて来る。すべての競技マジック関係者にそういう自信がある。そこまで競技マジックが魅力のある物になるという確信があるのであれば、今後ニューカマーさんが誰1人マジックに来なくなったって何ら問題はないはずなのですから。

 という事で、次回のテーマですが…今の時点では思いつかないので、この後 Postscript の中で決めたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

     

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