人を育てるために 
 
 

 エッセイ第三部は「マジックで人を育てるには?」というテーマで進めていきます。そこでまずはマジックの世界からちょっと離れて、そもそも人を育てるとはどういうことなのか、というお話を書いてみます。

 日本というか世界中に存在するスポーツや趣味といった遊びの世界、中でも特に競技化された遊びでは、その世界の人達がプレイヤーを育成するために様々な工夫をしているようです。その工夫はまず何よりもいかにしてその遊びを多くの人達に親しんでもらうのかから始まります。イベントをマスコミに取り上げてもらったり、色々な場所に遠征してイベントを開いたり、あるいは宣伝をしたり初心者向けの教室などを開いたり。やり方はいろいろあるみたいですが、まずはその遊びに興味と親しみを持ってもらい、できれば自ら手を出してもらう。すべてはここからのスタートになります。

 そしてめでたくある人がその遊びの世界に入り込んでくれた場合、次にその人をいかにしてその遊びに定着させるのかが大事になります。当然そういうときに最も大切なのがその遊びが本来持っている面白さや魅力であることは言うまでもありません。でもそれに加えて地域ごとにプレイヤーのコミュニティを作るとか、地方単位や全国規模の大会などを企画して、とにかくその遊びへの関心や話題性が途切れることのないように工夫します。そしてここで同時にプレイヤーのレベルアップも図ります。普通はプレイヤーのレベルに応じたランクを設けて大会を開いたり、段位認定制度などを設けてプレイヤーの取り組みをバックアップしていきます。こうすることでマンネリ化を防ぎ、個々のプレイヤーに目的意識を持ってもらうのです。

 そういった努力が実を結び、一部のプレイヤーがいよいよプロの世界に入っていきます。でもここまでにプレイヤーが多くの経験を積んでいれば、その経験は間違いなくプロになってからも役に立つはずです。それはなにもプレイヤーの強さという単純なお話ではありません。対戦で自分が勝ったときや負けたときにどうすればいいのか。自分よりも経験が浅い初心者をどう育てればいいのか。そして何よりも自分がプロのプレイヤーとしてどう立ち振る舞えばいいのか。そういったプロに必要な素養って、普通はその多くをアマチュア時代に体験し、それこそ体に染みつくくらい修得してからプロになるはずです。ですからアマチュア時代にプレイヤーにいかに有意義な経験を積ませるのか、これがプロ組織を運営する方々の責任になるのだろうとも思います。そしてプロにもアマチュアにはない大きな役割が求められます。何よりもプロには自分はその遊びの世界を背負って立つ看板であるという自覚が求められるのです。自分の一挙手一投足が注目されていて、自分の立ち振る舞いがその遊びの世界の将来を左右する。その位の自覚や覚悟を持っていないと、普通プロにはなれないはずなのです。というか、そういう気構えがない人はプロになるべきではないし、またプロにすべきではないと思います。

 こうしてプロがアマチュアとは比較にならないくらい高いレベルでその遊びを極め、そしてそれに見合うだけの報酬を得て活動する。しかも彼らは人間的な魅力にも富んでいて、個人としても尊敬しうる対象になる。そうなるとそのプロの後を追って後進がどんどん現れてその遊びの世界が活性化し、プロ競技としてのレベルもどんどん上がっていきます。さらにそこに至るまでに地方ごとのコミュニティとかプレイヤーのクラス分けといった環境が整備されていれば、アマチュアも気持ちよくその遊びに没頭できるはずです。

 最近マジックの世界を見ていてつくづく感じるのですが、やはりプレイヤーにとってアマチュア時代の経験ってもの凄く大事なんじゃないかと思います。アマチュア時代にどれだけ自分でデッキを作ってきたか。どれだけ有意義なデュエルやトレードを積み重ねてきたか。もっと言っちゃうとマジックでどれだけ汗をかいてきたのか。簡単に言うとそういうことです。でも最近のデュエリストってマジックで汗をかいているんでしょうか。だってデッキは情報を見てそれを真似るだけ。それで負けたら「デッキが悪かった。」「情報が間違っていてメタを外した。」で済ませて、勝ったら「やっぱり俺って最強!」と天狗状態。そうやって適当にマジックを続けてきて、そのまま何かの弾みでプロポイントを獲得しちゃってプロ気取り、そんな人もいそうですよね。しかもそういうマジックへの取り組み方を、今や競技を推進しているホビージャパンまでが強く推奨しています。これでプロという人達がちゃんと育って、なおかつ後進を育てられるんでしょうか。というか、実際育てられていないから日本のマジックはこういう状態になっちゃっているんでしょうけど。

 という事で、次からはマジックの世界でデュエリストがどう育ってきているのか、その現実と課題をデュエリストが成長する過程を追って見ていきたいと思っています。そこで次回のテーマは初心者から見たマジックの第一印象(仮題)にしたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

     

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