素晴らしき出会いのために 
 
 

 今回は人がマジックと出会うきっかけとなるマジックの広報活動について書いてみます。

 私がテレビを見るときはニュース番組を最優先に見ます。ニュースがある時間帯は大抵チャンネルはそこに合わせられていて、ニュースがないときは何か面白そうな番組を見ているという感じです。(これはそもそもあいせん君のテレビの見方に影響されてそうなっちゃったんですが。)それで私があいせん君の家に住み着いた1995年から今までをずっと振り返ってみると、私がテレビでマジックについての話題を見聞きしたことは1度もなかったと思います。ただし福井は民放ローカル局が2つしかない田舎ですから、実際には他の局では取り上げられているのかもしれません。かつてあの佐竹雅昭さんが Black Lotus を目指してバラエティ番組に出演されたというお話は伺っていますが、あの番組は福井では放映されなかったはずですので。

 それで「新聞はどうなんだろう」ということであいせん君に聞いてみると、過去に1度福井新聞でマジックを取り上げた記事が掲載されたのだそうです。しかしこの記事の内容がちょっとマジックに対する偏見をあおる物になっていたそうで、そのおかげで福井の多くの小学校で“マジック禁止令”が出てしまったそうです。あいせん君は「取材に来た記者は好意的な取材をしていたらしいのだけど、その後の編集でよりネタとして目に付きやすいように(=PTA辺りが騒いで話題にしそうな方向に)改竄された可能性が高い。僕が取材に立ち会えていれば、もうちょっと違った内容にしたのになあ。」と言っています。ちなみに言うと、ですからあいせん君が主催あるいは協賛しているマジックイベントは、基本的にマスコミの取材が来たらすべてお断りすることにしているそうです。

 といった感じで、どうも私はマジックがマスコミに対する露出が乏しい印象を禁じ得ません。ホビージャパンの発表では、マジックのプレイヤー人口は今や130万人なんだそうです。(あいせん君は「この数字はかなり眉唾物だな。」とか言っていますが。詳しい話は Postscript 辺りで聞いてみたいと思っています。)それだけの人達がリアルタイムかつ同時にマジックに取り組んでいるとすれば、その動きは間違いなくマスコミも無視できない大きな物になっていると思います。でも現実はそうなっていないんですよね。だとすると一体何がいけないんでしょうか。

 日本でマジックに関わっている方々の中には、マジックという遊びの知名度を相当高く評価されている方がかなりいらっしゃる印象を受けます。GAMEぎゃざという専門(!?)雑誌も出ていますし、雑誌への広告もあれば最近はTV番組も放映されています。でもよく見てみると、実はそういう情報の大部分が自分から見に行かないと目にとまらない物という印象が私にはあります。見方を変えると一般の人達が目にしているメディアから受動的に飛び込んでくるマジックの情報ってほとんどないと言えるかと思います。確かにマジックの話題って求めればいくらでも入ってきます。しかしそういう情報は新聞やテレビといったメディアが一般情報として取り上げているわけではないので、マジックを知らない人とか知っていても興味がない人の目にはとまらないんです。あと雑誌などに載っている広告はインパクトに欠けるというか、何よりもマジックのどこがどう面白いのかに全く触れていないんです。ひょっとしてまさか「(昔ほどマジックが面白くなくなってるから)触れたくても触れられない」なんて事はないですよね。

 しかも最近マジックの世界では「マジック関連のWebサイトには『大きな大会で勝ったデッキの情報』『新エキスパンションの内容といったスクープ記事』『安いシングルカード販売』『デッキ診断とトレード用の掲示板』の機能さえあればいい。」ということが言われているそうです。確かにそういうコンテンツは競技マジックを進める上では必要不可欠でしょうし、現状はそれさえあれば事足りてしまいそうな気がします。しかし本当にそうでしょうか。例えばニューカマーさんに対するサポートといったお話はこの際忘れてもいいです。ではこういう状況で、一体いつになったらコピーデッキを使って大会に出ている競技プレイヤーが自分でオリジナルのデッキを作ることを志し、そしてそれが実践できるようになるんでしょうか。トーナメントに投入するデッキを完全に欧米のトッププレイヤーに依存し、しかも買うカードも米国の並行輸入業者に依存している。そんな状態で日本のマジックが世界を獲れるんでしょうか。あ、もちろん日本の競技プレイヤーの皆さんが全員揃って「世界なんか獲れなくていいよ。俺達は欧米プレイヤーのお下がりデッキで十分マジックをエンジョイできてるもん。」とおっしゃるならそれでいいと思います。でもそうじゃないんでしょう?

 ある競技のレベルを高めるのに必要な物、それは何と言ってもプレイヤーなんです。1万人の中から決めた日本一よりも、10万人の中から決めた日本一の方が間違いなくレベルは高いんです。ただ日本のマジックはすそ野を広げるといった宣伝活動や創意工夫を全くせずに、しかもそれで競技プレイヤーのレベルだけを世界水準にしようという手抜き工事で競技の世界を構築してきました。そしてそのために取った施策が現在マジックに関わっているデュエリストを1人残らず競技の世界にたたき込むことだった、その結果が今になっていろいろな形で現れていると思います。確かにそのおかげで日本の競技マジックはそれなりのレベルにはなったようです。でもそれじゃあ競技以外の目的でマジックに関わっていた人達は全員マジックから逃げ出すでしょうし、何かの勢いで競技に入った人も一部はいずれ嫌気がさしちゃうでしょう。だってそんな競技推進だけでマジックという遊びが面白くなるはずがないんですから。

 1度考えてみて欲しいんです。例えば今、目の前にいる高校生や社会人がマジックを知らなかったとして、あなたならどういう言葉でその方にマジックを勧めますか。そう聞かれてその口説き文句がすんなり口をついて出てきて、しかもそれで「それは面白そうだ、ぜひやってみたい。」と言わせることができるとしたら、ひょっとするとあなたは世界屈指の詐欺師になれるかもしれません。確かにある程度カードを買い、どっぷりスタンダードを遊んでいるデュエリストにとって、今のマジックはそれなりに楽園なのかもしれません。でもこれからマジックを始める方がそういうレベルに達するかどうかは、その前段階でどれだけマジックを面白い物だと思わせることができるかにかかっているんです。それがちゃんとできていれば、多分日本のマジックは今よりずっとにぎやかな世界になっていて、それこそマスコミにも再三取り上げてもらえるようになってるんではないでしょうか。

 あ、今回のエッセイはお話の導入部分でお時間が来てしまいました。という事で、次回に改めて人とマジックとの出会いについて書きたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

     

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