初心者に遊んで欲しいマジック 
 
 

 今回は初心者に遊んで欲しいマジックについて書いてみます。

 前回のエッセイにも書きましたが、そもそも遊びって面白いから遊ばれるものだと思います。しかしマジックでは最近特に競技指向が強まっていますから、その影響もあって「自分が楽しむために始めたマジックで、なんでこんな嫌な目に遭わなきゃいけないんだ。もうこんな遊びやめちゃおうか。」と思いたくなるような場面が増えてると思うんです。でもそういうときにデュエリストをマジックに引き留めてくれるもの、それがマジックの面白さなんです。ですからデュエリストのみなさんにはできるだけ面白いマジックに数多く接してもらって、マジックで笑ったとか喜んだという記憶や経験をいっぱい積み重ねて欲しいんです。

 では具体的にはどうすればそういう経験ができるんでしょうか。最近日本のマジックって、どうも見ていると基本的にスタンダードしか注目されていませんよね。確かに何か大きなイベントが近づくと「エクステンデッドだ!」「ブロック構築だ!」という気運も盛り上がるんですが、でもそれ以外の日常でスタンダード以外のフォーマットが盛り上がっている様子はあまり感じられない気がします。ましてやDCI公認ではない自由なフォーマットで遊ぶマジックとか、カードコレクションなんて世界は、それこそ遠い次元の彼方に消え去ってしまった印象さえ受けます。ですからこれは多分みなさんも感じられていらっしゃるだろうと思うんですが、私たちはマジックという遊びに存在するであろう面白さの要素のうち、実際にはもの凄く狭い範囲しか楽しめていないんです。例えばオデッセイサイクルには198種類のレアが存在するそうです。ではみなさんにお聞きしたいんですが、みなさんはそのうち何種類のレアをデッキで使われたことがあるでしょうか。またアンコモンやコモンはどうでしょう。ひょっとすると「某所に載ったデッキ情報に名前が載らなかったカードなんて1度も使ったことがない。」という方すらいらっしゃるかもしれませんね。勘違いしないでほしいんですが、私はそういうマジックの遊び方を「間違ってるよ」なんて言う気は全くありません。だって今やそういう遊び方をマジックの日本総代理店であるホビージャパンが強く推奨し、そしてその情報にウィザーズ社が“公式”という称号を与えているんですから。しかもそういうマジックの遊び方で多くのデュエリストが「マジックって面白いよね」と言ってくれているんです。だったら何も問題はない…そう考えても不思議じゃないですよね。ただ間違っても私の近くにいるある人みたいに「このカードはイラストがお姉ちゃんじゃないから使いません。」とかいうのはお勧めできませんけど。

 ただ、そういういわば限られた範囲でのマジックの面白さって、私たちはこの先何年感じ続けることができるんでしょうか。最近では決して少なくないデュエリストが「新しいエキスパンションの発売後、あるいはブロック入れ替え後は欧米のデッキ情報が出るまでデッキ構築をしない。」という遊び方をされているようです。そして欧米の大きな大会で特定のデッキが暴れると、途端に多くのデュエリストがその情報を元にバタバタとデッキ構築を始め、そのデッキのキーカードやアンチカードとなったレアの値段が上がる。そういうマジックが日本ではもう何年も遊ばれ続けています。ここでみなさんに「このままでいいんですか?」とお聞きすると、多分多くのデュエリストが「いいえ」と答えると思うんです。いずれは日本人デュエリストも自分でデッキが作れるようになるべきだ。いや、むしろ欧米のデュエリストに日本のデッキを真似されるようなレベルにしたい。そうおっしゃるはずです。では日本の競技マジックではそうなるように何か具体的に行動が起こされているんでしょうか。この質問に堂々と「はい」と答えられるデュエリストって、日本にはそんなにいない気がします。もしそういう方が日本に少なからずいらっしゃるとしたら、そういう状況は既に改善されていると思われるからです。

 そもそも根本的な話になるんですが、なぜ日本ではマジック初心者に何の疑問も持たずにスタンダードを勧めちゃうんでしょうか。「スタンダードは日本で最も盛んに遊ばれているフォーマットだ。しかもウィザーズ社やホビージャパンはそういう方針でマジックを売っている。だから我々デュエリストはメーカーサイドの方針に従っているだけだ。」それで答えとしては十分でしょうし、多分その答えはデュエリストして及第点が与えられるものだと思います。しかし初心者にスタンダードを勧めるということは、結果として初心者の可能性とか楽しみを最初から相当部分奪っていることにもなるんです。確かに今はスタンダードに禁止カードはありません。でも実際には「こんなの絶対デッキには使わないよ!」と言われるカード、要するに使えるけど使わないカードがスタンダードには数多くあるはずなんです。ひょっとするとそういう使わないカードの方が、使っているカードよりも多いくらいかもしれません。また言うまでもないですが、こういう遊び方ではデュエリストが絶版カードに接する機会がありません。そういうカードを1度も使わないままデュエリストが育ってきている。自分で「他の人が使わないカードの用途を編み出してみよう。」という発想になる人が少ない。だから自分でデッキが作れなくなっている。私はそんな気がするんです。

 ただ同時に「現在ウィザーズ社やホビージャパンが、すべてのマジックカードをデュエリストに使ってもらえるような工夫をしているのか?」と考えると、残念なことに多分答えは「いいえ」なんですよね。最近のマジックは遊ぶ際のフォーマットをカッチリ決めすぎていて、しかも弱いカードや使い方が難しいカードに脚光を浴びせるための工夫もされていない。しかもそこに輪をかけて日本のマジックはスタンダードに偏重しちゃっている。だから使われないカードの比率が増えちゃうんだと私は思います。ですから日本のマジックがもっとエクステンデッドやヴィンテージを遊ぶようになるだけでも、状況は随分と改善されそうな気がします。また「このイラスト格好いいからデッキで使いたいなあ。」と思わせるようなカードをどんどん収録して、そういうカードを楽しむファンデッキを気軽に作れるような自由度の高い遊び方を広める。さらにはコレクションといったデュエル以外の楽しみ方を推奨するような魅力的なカードを作り込む。マジックはそういう工夫を発売から今まで一貫してすべきだったんです。そうすれば競技マジックでは使われないカードが競技以外の世界でマジックを楽しむデュエリスト達に引き取られ、マジック全体の市場規模とかトレードが活性化したはずなんです。そういう意味で言うと、最近のウィザーズ社やホビージャパンのやり方って木を見て森を見ずなんですよね。確かに一部の木は十分な水や養分をもらってすくすく育っています。でも森全体をよく見渡してみて下さい。随分と枯れてしまった木が見られると思いませんか。

 私が考える初心者に遊んで欲しいマジックというのは、簡単に言うと自分が買ったりもらったりしたすべてのカードを一通り遊んでみるマジックということになるかと思います。特に初心者の方にはDCI公認のフォーマットに縛られない自由な発想でデッキを組んでみてほしいですし、周囲の中・上級者もそういうデッキとのデュエルを大いに楽しむような発想になってほしいと思います。日本のマジックがそういう選択肢の多い自由な世界になれば、ひょっとするとマジックから離れていったファンデッキ使いやコレクターもマジックに戻ってくるかもしれません。デュエリストやコレクターがマジックを面白いと感じる場面を増やす。そんな遊びとしてはごくごく基本的なことをちゃんと見据えて考えていかないと、結局は競技マジックの世界も立ち行かなくなるんです。だってこのままマジックの世界が縮小傾向に陥れば、さすがのウィザーズ社だって日本選手権に5万ドルなんて賞金を出し続けるのはムリなんですから。

 という事で、次回のテーマは競技プレイヤーへのステップアップにしたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

     

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