去りゆく人々 
 
 

 今回は引退デュエリストのお話について書いてみます。

 私が知ってるデュエリストというのは、ほぼイコールあいせん君のお知り合いということになるんですが、その決して広くはない範囲からですら数え切れない人達がマジックから離れていきました。そしてその方々がマジックをやめた理由も様々でした。1人のデュエリストがこれだけ多くのマジックからの引退劇を目撃してるんですから、日本中でマジックを離れていったデュエリストの数って、今マジックを遊んでるデュエリストの数と同じか、ひょっとするとそれよりずっと多いくらいかもしれませんね。この「なぜデュエリストがマジックをやめてしまうのか?」というお話そのものは、過去に何度もあいせん君が書いてたと思います。でもこれについて、最近私はちょっと疑問に思ってることがあります。それは「そもそもマジックを離れる(引退する)ってどういうことなんだろう?」ということです。もっと正確に言うと「あるデュエリストが『マジックから距離を置こう』という選択をしたときに、なぜその人は休止や縮小ではなく引退という選択をしてしまうんだろう?」ということなんです。

 例えば今、あいせん君は牛姉コレクターの片手間でデュエリストをやってますが、その前は福井で少し派手に暴れ回った対戦格闘ゲーマーだったそうです。あいせん君はマジックを始めてからしばらくして、対戦格闘ゲームの第一線から退きました。それは予算や時間が2つの趣味には回らなかったことと、ちょうど時を同じくして対戦格闘ゲームに愛想を尽かしたからだそうです。しかしあいせん君はそれで対戦格闘ゲームを完全にやめてしまったわけではありません。今でもネオジオというゲーム機とゲームソフトは大事に持ってますし、時々取り出して遊んだりお友達と対戦もしています。ですからあいせん君は対戦格闘ゲームについてお金や時間の投資を縮小して続けることを選んだ。そういうことになるでしょう。でもあいせん君は「マジックは多分こうはいかないだろう。」と言います。それは日本のマジックの遊ばれ方が、そういう片手間で遊ぶというマジックとの付き合い方を認めてないからです。あいせん君自身は結構そういうマジックの遊び方を実践してるように見えるんですが、ただそれはあいせん君に言わせると「住んでた場所がたまたま福井だったから可能だったに過ぎないよ。」なんだそうです。

 このことは手持ちのカードをどうするのかというお話1つ取ってもいろいろと考えさせられます。全部持ったままやめても宝の持ち腐れですし、できれば後進に(自分がしたのと同じ)カード購入の苦労はさせたくない。そうなると自分が特にお気に入りなカード以外の物を他の人に(無償あるいは格安に)譲ってやめることになります。しかしそうすると今度は、その方が後々マジックを再開したいと思っても「ああ、でもカード全部なくなっちゃったからやめよう。」になっちゃうんです。「マジックをやめるからカードを手放します!」という申し出には、多分それこそ山のように希望者が殺到するはずです。でも「マジックを始めたいのでカードを下さい!」という申し出には、普通は誰も見向きもしませんからね。(実際にはそういうサポートを個人やショップで行って下さってる方もいらっしゃるそうです。実はあいせん君もマジックショップに勤めてた頃はそういうサポートをしてましたし。)

 あいせん君のお知り合いでデュエリストをやめたみなさんも、ほぼ全員がご自分のカードを他の方に託されてマジックをやめられたそうです。一部コレクションとしてカードを手元に残された方もいらっしゃいますが、でもその量は全体のカード資産から見ればほんの微々たる物だったようです。これについて私たちはいろいろな見方や考え方ができると思います。確かにそこまで思い切らないとやめられない位マジックは中毒性の高い遊びだという見方はできるんですが、でも本当にそうなんでしょうか。確かに以前はそうだった気がします。でもなんか私は少しでもカードがお金になるならそうしたいという発想、あるいはやめる以上マジックのカードなんか金輪際手元に残したくないという心情もあったんじゃないかと思うんです。だって今のマジックの遊ばれ方では、たとえカードを手元に残しておいて数年後に復帰しようと思っても、そんなの単なる紙屑扱いしかされないんですから。ましてや自分がマジックという遊びにあまり良い思い出がない、あるいは何ヶ月あるいは何年も遊んでもついに愛着が持てるカードやデッキに巡り会えなかった。そうなれば多分手持ちのカードを1枚残らず処分することを考えるだろうと思うんです。捨てるよりはましですからね。

 マジックをやめていくデュエリストのみなさんの様子を見てると、どうしても私には「その方々はマジックを遊んだことで良い思い出が作れなかった。それどころかひどい目にあった機会の方が多くて、マジックに対して非常に悪いイメージを持ってやめられた。」という印象しか持てないんです。そもそもマジックが面白ければマジックをやめる必要そのものがないわけですけど、でも同じやめるにしても良い印象でやめるのとそうでないのとでは雲泥の差がありますよね。競技プレイヤーを引退されたとしても、デュエリストやコレクターとしてマジックにとどまって下されば、その方々にマジックは売れ続けるし私たちとの縁もつながり続けるんです。でも最近のマジックにはそれは期待できないでしょう。最近のマジックはファンデッキも作らせてくれなければ、コレクションの対象にもなりにくいですから。

 このお話は、例えばマジックにニューカマーさんが入りにくいこと。ごく一部の人気カードがシングルカード市場で高値になり、そして人気筋になれなかったカードには全くと言っていいほど行き場がないこと。そしてマジックが今まで日本で今ひとつパッとしないまま6年間という時を過ごしてきたこと。そのすべてに関連してる気がします。デュエリストがマジックをやめていく様子1つを見ても、私には今のマジックが遊びとしてノーマルな状態だとは到底思えないです。先日開かれた焼肉定食には、タイプワンとスタンダードを合わせて実に10名ものニューカマーさんが参加されています。しかしそれ以前に参加された方々が定着してないみたいで、実は参加者の総数が増えてません。あいせん君に言わせると「2〜3年前だったら、10名ものニューカマーが来ると間違いなく参加者総数は50名の大台に乗って60名に迫る勢いになる。でも今回は43名にとどまってる。日本で6年も遊ばれ続けてる遊びで、こういう状態は異常だとしか思えないよ。」だそうです。

 私自身、正直言うと今回のお話をどうまとめていいのか分からなかったりします。ただ最近更に大手のマジック販売店がマジックから撤退あるいは規模を縮小してる。そういうお話が私にも聞こえてきます。このまま競技一辺倒なマジック推進だけを続けて本当にいいんでしょうか。それこそ日本選手権で支払われる5万ドルの賞金のうちの、4万ドル位をマジックという遊びそのものを面白く盛り上げるための工夫に使うくらいの発想転換をしないと、ひょっとすると日本のマジックは日本語版発売10周年記念を迎えられないかもしれません。マジックの競技イベントに5万ドルなんて賞金をかけるのは、もう少し日本のマジックが盛り上がってからでもいいんじゃないでしょうかね。

 という事で、これにて第3部を終了にしたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

     

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