デッキ情報と料理番組 
 
 

 今回から2回にわたってマジックのデッキ情報について書いてみます。まずはマジックを楽しむ上でのデッキ情報の功罪というお話です。

 マジックに競技的な取り組みをするデュエリストにとって、デッキ情報は間違いなく必要不可欠な物になるでしょう。1人のプレイヤーが考えつくコンボやデッキには間違いなく限界があります。ですから自分がいくら考えても考えつかない、自分の考慮の範囲外にあるコンボやデッキを情報によって知る。あるいは対戦相手が持ち込むデッキを情報から想定して対策を練る。それは大会を勝利するためには間違いなく必要なプロセスのはずなんです。

 ところで話は全然変わるんですが、あいせん君は最近のTVによく見られる芸能人が料理を食べる番組が嫌いなんだそうです。普通の料理番組のように、一般に手に入る食材を使って作り方まで紹介してる料理番組は好きなんですが、滅多に手に入らない食材を探し出してきてそれを芸能人に食べさせるだけの番組は大嫌いらしいです。それはなぜなのかと聞くと、あいせん君は「だってそんな番組を見ても、視聴者としては何1つ得しないじゃない。」と言います。どんなにその目の前の料理がおいしそうだと思っても、どこかのレストランに行けば食べられるというものじゃないし、またどう考えても自分達の手では再現できそうにもない。そんな料理を見せられても視聴者側はフラストレーションが溜まるだけだし時間の無駄だ。そういうことのようです。でも実際はこの手の番組ってそれなりに視聴率を稼いでるみたいなんですよね。ちなみに私は元々バーチャルな存在なので、そういう番組を見ても十分にその料理を満喫できてたりするんですが。

 情報は何通りもの分類が可能だと思いますが、その分類の仕方の中には間違いなく有益か無益かという分け方もあります。自分が多分一生味わうことがないであろう料理を映像で映され、目の前でおいしそうに食べる光景を見てるだけ。そういう情報そのもの、あるいはその情報を得るのに費やした時間が果たして有益か無益かと言われると、多分それは両論あるだろうと思います。でも少なくとも、一般の人達が絶対に手に入れられない食材を使った料理を見せて、それをどんなに絶賛しても、それは見る側にとってはメリットがない。そういう意見はある意味で正しいんだろうと思います。よくよく考えてみるとそれによって見る側が実際に何か得られるわけではないですし、何よりもそこで得た知識が後になって役に立つ場面がほとんど無さそうです。せいぜい翌日辺りに学校や職場でちょっと話題になって終わり。その程度でしょうか。

 このお話をあいせん君と話してるときに思ったんですが、実は最近のマジックのデッキ情報ってこの料理番組と基本的には同じものになってしまってるという気がするんです。

 こういう計算は前にもあいせん君がやってたと思うんですが、例えばレアが50種類ある拡張エキスパンションをフレッシュパックで買って、収録されてるレアカードをすべて4枚ずつ揃えようとします。すると単純に計算すると最低でも200パック買わないといけないことになります。これは1パックが500円とすると10万円、1パックを300円と考えても6万円かかります。例えば使うレアを吟味して購入量を半分に節約したとしても、やっぱり数万円の支出になります。こんな量のパックを月々のお小遣いが数千円の子供が買おうと思うと、いったい何ヶ月かかるんでしょうね。しかもマジックは年に最低でも3つも新製品が出ますし、年に1度発売される独立型エキスパンションはこの倍くらいの種類のカードがあります。そうなると年に12万円から20万円もの負担になります。そもそもそれだけの予算を持ってない、あるいは持ってはいてもマジックに使えないデュエリストは少なくないでしょう。というか、むしろそういう人の方が多数派なんじゃないでしょうか。

 どうも私たちはそういう感覚に麻痺してしまってる気がするんですが、でもそういう人達にとって実は人気のデッキに入ってる人気カードは料理番組で取り上げられた入手不可能な食材と大差ない存在ではないかと思うんです。確かにそういうカードを使えばデッキは強くなる。それは間違いないと思います。そしてインターネット上で公開されてるデッキレシピやデッキ診断では、そういうカードを持ってることを前提にお話をします。でも私は素直に思うんですが、本当にそれでいいんでしょうか。そうやって私達は知らない間に、マジック初心者や少ない予算をやりくりしてマジックを遊ぼうとしてるデュエリストに向かって「この料理をおいしくしたければ、沖縄の無人島に生えてるキノコを取ってきなさい。」位の無理難題を押し付けてるんじゃないでしょうか。しかも最近のマジックって、そのレアなキノコの代用品になるようなコモンな食材(カード)を用意しようという配慮すら無さそうです。楽しみを求めてマジックを始めて、でも始めてみたら「強くなければマジックは楽しめない。」とあちこちで言われる。しかし自分には強いと言われるカードを手に入れるすべがないからデッキが強くならず、実際に強いカードを持ってる人にはどう頑張っても勝てない。そういうときに個人が取る行動ってかなり限られると思います。そして結果的に決して少なくない人達が、そういうフラストレーションの蓄積をがまんできずにマジックをやめちゃった。そういうことなんじゃないでしょうか。

 私は昔、あいせん君がマジック販売店に勤めてた頃にやってたデッキ診断を何度か見てます。あいせん君はデッキ診断を受ける人に「君が持ってるカードを全部持ってきてね。」と言って診断を始めます。診断の結果、持っていないカード名を挙げて「これ強いからデッキに入れて。」と言っても意味がないからです。そしてその方の持ってるカードの範囲で診断をし、時には「このカードが必要だと思うけど持ってないんだよね。」ということで、そのカードを差し上げたりしていました。(お店のコモンカードを差し上げることは店長も了承してたんですが、アンコモンはあいせん君が自分の所有カードから差し上げていました。レアは一応トレードをしてましたが。)あいせん君に言わせると「ここまでやって始めて“デッキ診断”と言えると思うよ。」なんだそうです。ただここまでやってあげると、さすがにその方はそれ以降もお店によく通ってくれるようになるそうです。

 例えばホビージャパンが毎年出版してる日本選手権の上位入賞デッキの情報ですが、あの情報を有効に利用してるデュエリストって日本にどの位いらっしゃるんでしょうか。本当の軍人さんやその予備軍の方々は、多分そんな情報はとうの昔にインターネットなどで集めていらっしゃいますよね。そしてマジック初心者にとっては自分が持ってもいない高嶺の花なカード名の羅列を見せられて、自分のカード資産がいかに貧弱かを思い知らされる。あの情報ってそういう効果しか持ってない気がするんです。日本にマジックを広めてデュエリストを増やし、なおかつ競技マジックをも成功させたい。本気でそう思うのでしたら、まず私達がやるべきは初心者がマジックを楽しめるようになる有意義な情報を数多く発信することなんじゃないでしょうか。でも日本のマジック情報の主流は、今やデュエリストに「マジックは競技プレイヤー並にカードを買わないと絶対に楽しめないものだ。」と思わせるものばかりです。これじゃあ多くの人がマジックから逃げ出すでしょう。そしてその初心者や中級者をマジックから遠ざける悪しき情報の最たる物としてデッキ情報を考えざるを得ない。私はそんな気がしてます。

 という事で、次回も引き続きマジックのデッキ情報、特に日本のマジックが情報不足になる理由について書いてみます。最後までお読みいただきありがとうございました。

     

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