最近巷のWebサイトとか、私が直接伺ったお話などで「どうも最近の Magic では、いわゆる“カジュアルなデッキ”という物が出ない(あるいは使えない)」というご意見が少なからず見られます。ただこれに関して私個人の意見は、実を言うと「それについては諦めて下さい」だったりします。 (^^; 昔の Magic は、それこそ Serra Angel や Erhnam Djinn がガチンコ上等なデッキにも入っていたようなゲームでした。しかしこれらのカードは、いわゆるファン系のデッキにもかなり多用されていました。クリーチャーが Serra Angel だけしか入っていないとか、 Erhnam Djinn が高速召還される4ターンキルとか。この手のデッキはコンセプトを見破られて手を打たれる、あるいは対戦相手とのデッキの相性が悪くて勝ち手段を葬り去られると、あっと言う間にお手上げ状態になります。ですからやはり“ファンデッキ”の域を出なかった訳です。
ところが最近の Magic は、競技指向の強い方々に買ってもらうために、明確な“強いカード”があって“強いデッキ”が作れるようになっています。現在第8版には Serra Angel が再録されている訳ですが、しかし現状の Standard において Serra Angel の出番はどこにもないでしょう。つまり「 Serra Angel で殴っていたのでは到底間に合わない」のです。しかもある特定のデッキ・タイプが来ることが分かっていて、でも他のタイプのデッキでどう対策しても有利にならない。もう随分長くそういう状況が続いていますよね。
例えるとこういう事です。ある格闘技の大会に、ある日突然右手に短剣を持った選手が参加してきました。当然周囲の選手達はそんなの禁止に・・・と思ったのですが、どういう訳か主催者はそれをリーガルであると認めてしまったのです。そうなると例え自分は胴着&素手による殴り合いを希望していても、最低限短剣を防げる防護服なり盾なりは持たざるを得ません。さもないと試合にならなくなったからです。そしてある日、個人の事情でしばらく大会に顔を出していなかった人が久しぶりに胴着持参で会場に来てみたら、なぜか参加者は全員宇宙刑事張りの装甲服に身を固め、手にはライトセーバーや電磁シールドを持って戦っているのです。まあ普通なら「あ、会場間違えました。さようなら。」になるだろうと思います。
例えばフォーマットとして Standard を採用したフリー対戦会を開いたとして、そこに例え1人でもサイカトグなり親和を持ち込む可能性があるとしましょう。(言うまでもなく今の Standard でサイカは使えませんが。)誰だってそういう対戦の場では一定の戦績を残したい訳で、そうなると自動的にそういう最強と言われるデッキへの対策は取らざるを得ません。しかし他のデッキではそういうデッキと満足に戦えない。そうなると「じゃあ自分もサイカか親和持参で・・・」になってしまうのです。また「自分はそういう最強デッキは死んでも使いたくない」と思って別のデッキを準備するとして、じゃあどうするのかという話になります。さすがに多くの競技プレイヤーが研究を重ねて最強と化したデッキに対抗するには、やはり“競技プレイヤーの知恵を借りる”しかないのです。そして実際にイベントの蓋を開けてみたら、まあものの見事にどこかのプレミアイベントで上位入賞を果たしたデッキのオンパレードになる。これはゲームバランスが崩壊した、もっと正確に言うと“制作者が意図的にゲームバランスを崩壊させている(としか思えない)”現状の Magic では仕方ないのです。
じゃあ我々はどうすればいいのか、という事です。こういうご時世にイベントで「ガチンコ勝負用のデッキは持ってくるな」なんて告知を出すのはあまりにも説得力がありません。しかもそもそもの話、ガチンコ勝負というのは昨今のWoCが推奨している Magic の基本的な遊び方な訳です。自分(=イベント主催者)はデュエリストにガチンコ勝負をさせるべく作られたフォーマットを採用しておいて、それで参加者には「うちのイベントはガチンコ勝負ではありません」って言われたって説得力なんてありゃしないのです。(それは「 Standard のデッキはそのまま参加できます」と唱ったフォーマットにしても事情は変わらないでしょう。)ただしそんなゲームを「楽しもう」と言うのにはさすがに無理がある訳で、実際問題としてその無理がたたって Magic はこういう惨状になってしまった訳です。
私の周囲のデュエリスト達が Magic に求めているのは、少なくとも不毛なガチンコ勝負ではありません。だから福井では Standard というフォーマットは選択肢から外されたし、最近では Type-I ですらその存続が度々議論されるに至っています。ただ前から言っているように「そんなゲームで勝っても自慢にも何にもならない」事に気が付くだけで、随分とデッキやイベントに対する取り組み方は変わってくるのですがねえ。