創作猫物語
どうも猫になったようだ。こういう物語は何度か読んだことはあるが、大概はしばらくして夢の中の出来事だったということで結末を迎えてしまう。猫好きにとって猫になりたいというのは一つのあこがれではあるのだが、本当になってしまうと実に考えることがたくさんありすぎてパニックになってしまう。前に読んだ井上ひさしさんの「百年戦争」もそのような話だったと思う。
実際、猫に生まれ変わるということはよくあることなのかもしれないが、普通はそのとき人間の意識なんか持ち合せてなんかいないだろう。といっても、これまで猫になったことはないのだからよくわからないのだが。そして、今猫になってしまった。ということは私は死んだのか。よく妻と冗談で言っていたものだ。ぼくは化け猫だから、次は本物の猫になるんだと。
おかあさんは黒猫らしい。兄弟は三人、いや三匹。自分とよく似た色だけど毛の短いのが一匹、そしてまた良く似た色だが、しっぽが鍵尻尾になっているのが、一匹、それからきじ猫タイプが一匹。一緒に乳を飲んでいるのだから、おそらくこの三匹が兄弟なのだろう。生まれてすぐお母さんに引きずられて歩いていたような記憶もかすかに残っている。
ここはどこなのか。今はいつなのか。とりあえずなぜ猫になったのかは考えないとして。
それには、新聞を読むのが一番である。よく猫が新聞を読んでいると乗ってくるのは、飼い主の興味を惹きたいとか、飼い主がリラックスしているときであるとか(常々そうは限らないと思っていたのだが。)実は情報収集のためであったりする。
残念ながら、そこへ行くだけの体力はまだない。ただ、漏れ聞こえてくるテレビの声を聞いていると、どうも日本であることは確かなようだ。
しばらくして、飼い主らしき夫婦が覗きにきた。
「もぜ、もぜ。」
「わぁかわいい。特に右端の、毛がやわらかいね。」
右端・・・・自分のことだ。おっとなでられた。なでられると気持ちがいいものだと思っていたが、必ずしもそうではないことがわかった。
「こいつオスかな?メスかな?」
とりあえず、人間でも猫でも最初の興味はそんなところである。
「あっ、メスだな!これは。」
えっ?そうなの??ただでさえ、くるくる回っている頭の中が急回転を始めた。