真言諸宗違目
| 真言諸宗違目の概要 【文永九年五月五日、富木常忍、聖寿、真筆完存】 土木殿等の人人御中、日蓮。 空に読み覚えよ。老人等は具に聞き奉れ。早早に御免を蒙らざる事は之を歎くべからず。定めて天之を抑ふるか。 藤河入道を以て之を知れ。去年流罪有らば、今年横死に値ふべからざるか。彼を以て之を惟ふに愚者は用ひざる事なり。 日蓮が御免を蒙らんと欲するの事を色に出す弟子は不孝の者なり。敢て聊も後生を扶くべからず。各各此の旨を知れ。 真言宗は天竺よりは之無し。開元の始に善無畏三蔵･金剛智三蔵･不空三蔵等、天台大師己証の一念三千の法門を盗て大日経に入れて、之を立て真言宗と号す。 華厳宗は則天皇后の御宇に之を始む。澄観等天台の十乗の観法を盗て華厳経に入れて、之を立て華厳宗と号す。法相･三論は言ふに足らず。 禅宗は梁の世に達磨大師楞伽経等を以てす、大乗の空の一分なり。其の学者等大慢を成して 浄土宗は善導等観経等を見て一分の慈悲を起し、摂地二論の人師に向て一向専修の義を立て畢ぬ。 日本の法然之を誤り、天台･真言等を以て雑行に入れ、末代不相応の思ひを為して国中を誑惑して長夜に迷はしむ。之を明めし導師は但日蓮一人なるのみ。 涅槃経に云く「若し善比丘法を壊る者を見て、置て呵嘖し駈遣し挙処せずんば、当に知るべし是の人は仏法の中の怨なり」等云云。 灌頂章安大師云く「仏法を壊乱するは仏法の中の怨なり。慈無くして詐り親しむは即ち是れ彼が怨なり。彼が為に悪を除くは即ち是れ彼が親なり」等云云。 法然が捨閉閣抛、禅家等が 之を言はざれば一切衆生の為に「無慈詐親 即是彼怨」の重禍脱れ難し。日蓮既に日本国の王臣等の為には「為彼除悪 即是彼親」に当れり。此の国既に三逆罪を犯す。天豈之を罰せざらんや。 涅槃経に云く「爾の時に世尊、地の少しの土を取て之を抓の上に置て、迦葉に告げて言く、是の土多きや、十方世界の地土多きや。 ○四重禁を犯し五逆罪を作て○一闡提と作て諸の善根を断じ是の経を信ぜざるものは十方界所有の地土の如し。○五逆罪を作らず○一闡提と作らず。善根を断ぜず、是くの如き等の涅槃経典を信ずるは抓の上の土の如し」等云云。 経文の如くんば、当世日本国は十方の地土の如く、日蓮は抓の上の土の如し。 法華経に云く「諸の無智の人有て悪口罵詈」等云云。法滅尽経に云く「吾般泥洹の後、五逆濁世に魔道興盛なり。魔沙門と作て吾が道を壊乱す、○悪人転た多くして、海中の沙の如し、劫尽きんとする時日月転た短く、善者甚だ少くして若しは一若しは二人」等云云。 又云く「衆魔の比丘命終の後、精神当に無択地獄に堕つべし」等云云。 今道隆が一党･良観が一党･聖一が一党･日本国の一切の四衆等は是の経文に当るなり。 法華経に云く「仮使ひ劫焼に乾れたる草を担い負て中に入て焼けざらんも、亦未だ難しとせず。我が滅度の後に若し此の経を持て一人の為にも説かん、是れ則ち為れ難し」等云云。日蓮は此の経文に当れり。 「諸の無智の人有て悪口罵詈等し、及び刀杖を加ふる者あらん」等云云。 仏陀記して云く、後の五百歳に法華経の行者有て諸の無智の者の為に必ず悪口罵詈･刀杖瓦礫･流罪死罪せられん等云云。 日蓮無くば釈迦･多宝･十方の諸仏の未来記は当に大妄語なるべきなり。 疑て云く、汝当世の諸人に勝るることは一分爾るべし。真言･華厳･三論･法相等の元祖に勝るとは豈に慢過慢の者に非ずや。過人法とは是なり。汝必ず無間大城に堕つべし。 故に首楞厳経に説て云く「譬へば窮人妄りに帝王と号して自ら誅滅を取るが如し。況や復法王如何ぞ妄りに竊まん。因地直からざれば果紆曲を招かん」等云云。 涅槃経に云く「云何なる比丘か過人法に堕する○未だ四沙門果を得ず、云何んぞ当に諸の世間の人をして我は已に得たりと謂はしむべき」等云云。 答て云く、法華経に云く「又大梵天王の一切衆生の父の如く」。 又云く「此の経は○諸経の中の王なり。最も為れ第一なり。能く是の経典を受持すること有らん者は亦復是くの如し。一切衆生の中に於て亦為れ第一なり」等云云。 伝教大師の秀句に云く「天台法華宗の諸宗に勝れたるは所宗の経に拠る。故に自讃毀他ならず。庶くは有智の君子経を尋ねて宗を定めよ」等云云。 星の中に勝れたるは月、星月の中に勝れたるは日輪なり。小国の大臣は大国の無官より下る傍例なり。 外道の五通を得るより、仏弟子の小乗の三賢の者の未だ一通を得ざるは天地猶勝る。法華経の外の諸経の大菩薩は法華の名字即の凡夫より下れり。 何ぞ汝始めて之を驚かんや。教に依て人の勝劣を定む。先ず経の勝劣を知らずんば、何ぞ人の高下を論ぜんや。 問て云く、汝法華経の行者為らば何ぞ天汝を守護せざるや。答て云く、法華経に云く「悪鬼其の身に入る」等云云。 首楞厳経に云く「修羅王有り世界を執持して、能く梵王及び天の帝釈四天と権を諍ふ。此の阿修羅は変化に因て有り、天趣の所摂なり」等云云。 能く大梵天王･帝釈四天と戦ふ大阿修羅王有り。禅宗･念仏宗･律宗等の棟梁の心中に付け入て、次第に国主国中に遷り入て賢人を失ふ。 是くの如き大悪は梵釈も猶防ぎ難きか。何に況や日本守護の小神をや。 但地涌千界の大菩薩･釈迦･多宝･諸仏の御加護に非ざれば叶ひ難きか。 日月は四天の明鏡なり。諸天定めて日蓮を知りたまうか。日月は十方世界の明鏡なり。諸仏も定めて日蓮を知りたまうか。一分も之を疑ふべからず。 但し先業未だ尽きざるなり。日蓮流罪に当れば、教主釈尊衣を以て之を覆ひたまわんか。 去年九月十二日の夜中には虎口を脱れたるか。「必ず心の固きに仮て神の守り即ち強し」等とは是なり。 汝等努努疑ふこと勿れ決定して疑ひ有るべからざる者なり。恐恐謹言。 五月五日 日蓮花押 此の書を以て諸人に触れ示して恨を残すこと勿れ。 土木殿 |