転重軽受法門
| 転重軽受法門の概要 【文永八年十月五日、大田乗明･曽谷教信･金原法橋、聖寿、真筆−完存】 修利槃特と申すは兄弟二人なり。一人もありしかば、すりはんどくと申すなり。 各々三人は又かくのごとし。一人も来たらせ給へば三人と存じ候なり。 涅槃経に転重軽受と申す法門あり。先業の重き、今生につきずして、未来に地獄の苦を受くべきが、今生にかゝる重苦に値ひ候へば、地獄の苦ぱっときへて、死に候へば、人･天･三乗･一乗の益をうる事の候。 不軽菩薩の悪口罵詈せられ、杖木瓦礫をかほるも、ゆへなきにはあらず。 過去の 又付法蔵の二十五人は、仏をのぞきたてまつりては、皆仏のかねて記しをき給へる権者なり。又付法蔵ﾉ二十五人は仏をのぞきたてまつりては、皆仏のかねて記ｼをき給ﾍる権者なり。 其の中に、第十四の提婆菩薩は外道にころされ、第二十五の師子尊者は檀弥栗王に頚を刎られ、其の外仏陀蜜多･ 又難なくして、王法に御帰依いみじくて、法をひろめたる人も候。 これは世に悪国･善国有り、法に摂受･折伏あるゆへかと、みへはんべる。これは世に悪国善国有ﾘ、法に摂受折伏あるゆへかとみへはんべる。 正像猶かくのごとし。中国又しかなり。これは辺土なり。末法の始なり。 かゝる事あるべしとは先にをもひさだめぬ。期をこそまち候ひつれ〈是二〉。 この上の法門は、いにしえ申しをき候ひき、めづらしからず。この上ﾐの法門はいにしえ申ｼをき候ﾋき。めづらしからず。 円教の六即の位に観行即と申すは「行ずる所言ふ所の如く、言ふ所行ずる所の如し」云云。 理即･名字の人は、円人なれども、言のみありて真なる事かたし。 例せば外典の三墳五典等は読む人かずをしらず。かれがごとくに世ををさめふれまう事、千万が一もかたし。されば世のをさまる事も又かたし。 法華経は紙付に音をあげてよめども、彼の経文のごとくふれまう事わ、かたく候か。 譬喩品に云く「経を読誦し書持すること有らん者を見て、軽賎憎嫉して結恨を懐かん」。 法師品に云く「如来の現在すら猶怨嫉多し、況や滅度の後をや」。 勧持品に云く「刀杖を加へ乃至数々擯出せられん」。 安楽行品に云く「一切世間、怨多くして信じ難し」。 此等は経文には候へども、何の世にかゝるべしともしられず。 過去の不軽菩薩･覚徳比丘なんどこそ、身にあたりてよ(読)みまいらせて候けるとみへはんべれ。 現在には正像二千年はさてをきぬ。末法に入ては、此の日本国には、当時は日蓮一人みへ候か。 昔の悪王の御時、多くの聖僧の難に値ひ候けるには、又所従眷属等、弟子檀那等、いくそばくかなげき候けんと、今をもちてをしはかり候。 今日蓮、法華経一部よみて候。一句一偈に猶受記をかほれり。何に況や一部をやと、いよいよたのもし。 但をほけなく国土までとこそ、をもひて候へども、我と用ひられぬ世なれば力及ばず。しげきゆへにとゞめ候。恐々謹言。 文永八年〈辛未〉十月五日 日蓮花押 大田左衛門尉殿 蘇谷入道殿 金原法橋御房 御返事 |