其の壱:空の巻
空の序
何事も欲をかいては、事をし損じる。まず最初に臨むべき道を「空の巻」として書き表す。
空という意味は、何物も無いこと、知れないことを、空と見立てたからである。
もちろん空は無である。有る所を知って無い所を知る、これがすなわち空である。
世の中において間違って見れば、物事のはっきりしない所を空と見るようだが、実の空ではなく、みな迷う心である。
競馬においても、競馬を行なうに、競馬の法を知らないことは、空ではない。
いろいろ迷いがあって仕方ないことを「空」と言うのだろうが、これは実の空ではないのである。
競馬は、競馬の道を確かに覚え、その他の賭事もよく務め、競馬の行なう道に少しも暗くなく心の迷う所があってはならない。
朝々時々に怠らず、「心もち」と「心ざし」の二つの心を磨き、「観ぬく」「見とる」の二つの眼を研ぎ、
少しも曇りなく迷いの雲の晴れていることこそ、実の空と知らないといけないだろう。
実の道を知らない間は、必勝法にも偶然にも頼らない。自分は確かな道と思い、良い事と思っても、
中心のまっすぐな道から世の大定規に合せて見る時は、その身その身の心のひいき、その目その目のひずみによって、
実の道には外れるものである。その核心を知って、まっすぐな所を手本とし、実の心を道として、競馬を広く行ない、
正しく明らかに大きな所を思いとって、空を道とし、道を空と見る所となる。
空は善あって悪なく、知は有となり、優は有となり、道は有となり、心は空となる。