第9集 今が一番




第2章 花祭り

   はなまつり

山間ののどかな地域の「はなまつり」話題といえば過疎に尽きたり

来賓の支所長代理の挨拶は地元二人の議員の後に

高齢の村人総出の夏まつりフォークソングが山間響く

歌声の響くテントの後ろには入道雲と深い山並み

ひまわりの種を飛ばして競い合う七十以上が出場資格

   家壊し

息子からにわかに出たる家壊し老いた父親準備が出来ぬ

重機にてたちまち消える家屋敷親から見れば夢まぼろしか

   連休の白馬

水音と小鳥の声に囲まれて白馬三山ながめ居る朝

新緑と白馬の山を借り切って妻と二人で朝食を摂る

極上の喫茶店にも勝りたり三山眺めてコーヒー飲めば

連休と桜が同居の白馬村行き交う人のひとみ輝き

遠方のナンバー並ぶ洋食屋開店前の時間なりしも

窓越しに人影みえる連休日別荘ならぶ小道歩けば

陽春の木々に囲まる美術館白きキャンパー玄関に映え

連休で白馬登りし老医師ら天候荒れて小屋まで着けず

  夕食前のひと仕事

恵まれぬ天気が続く週末に石取りできず気だけが焦る

日が伸びて帰宅したあとひと仕事ツルハシもって石取りをする

ツルハシに手ごたえあれど石見えず暗闇迫った泥中のなか

長靴の泥を落として家入ればみんな揃って夕食最中

   春盛り

昼休みホームセンターのぞき込み夏採り野菜の苗買い求む

石拾い整地したあと堆肥入れひと月待てずに苗植え付ける

春盛りひとつ二つと品種増えわが家の畑賑やかなりし

   わが畑

朝夕に一目見なけりゃ落ち着かぬ彼女ではなく我が家の畑

接木した優良苗のナストマトわが畑には過剰品質

トマト苗浅くて薄い元肥にいつまで経っても葉の色薄し

ビニールで覆いしスイカぬくぬくと中で唯一優良児なり

別々の父と母とのカボチャ苗並べて植えて出来を比べる

こっそりと自分で買ったミニトマトどの苗よりも愛着がある

支柱せず二本並べたキュウリ苗前線通れど無傷がうれし

うららかな連日続く五月晴れ今年は気になる畑地の乾き

   今春の独楽吟

楽しみは毎朝毎夕畑行き伸びゆく野菜の姿見るとき

楽しみは園を終えたる孫連れて畑に水をやりにいくとき

楽しみは試しに蒔いた小松菜がわれや先にと芽を出したとき

楽しみは祖父が使いしヨキ見つけ試しに薪を割ってみるとき

楽しみは狙ったやつの真ん中に刃先当たって薪飛び散るとき

楽しみは彼岸に植えたジャガイモがひとつ二つと若葉出すとき

楽しみは昼にぶらりとコメリ行き野菜の苗を見比べるとき

楽しみはトマトの苗を植栽し袋かぶせて収穫想うとき

楽しみは石取り作業を終えたあと腰を下ろして跡を眺めるとき

楽しみは選った小松菜持ち帰り青じそかけてちょっと食するとき

   畑の歌

肥やし入れ芽出たジャガイモ植え付ける誰がやっても収穫見込め

アンデスが原産なりしトマト達雨を嫌って屋根取り付ける

花が付き見よう見まねで芽欠きする指にうれしいトマトの匂い

湿潤な環境好むナスの苗 日照り続きで畝に水遣る

砂漠並み高温好むスイカにはビニールかけてミニ温室よ

あちこちに気軽に植えたカボチャ苗 元肥え合わず次々萎れ

漬物も生も美味しいマクワ瓜 店を廻ってやっと手に入れ

   区民体育祭

慎重に時間合わせた到着も二〇分遅れの開会式よ

来賓と週末ごとに顔合わす主催の行事それぞれ違えど

新緑の山に囲まる体育祭あいさつの声山にこだまし

壇上のエアロビクスの体操は身体と気持ち和やかにする

遅植えの田植えの時期と重なりて競技参加も調整がいる

若者の流出進む山の地区六十、七十現役選手

プログラム最初の種目に1時間人も時間もゆったり進む

   金環日食

天井に照らし出したる日食を朝食とりつつ家族で眺め

テレビから流れる各地の中継に天井眺めて会話が弾む

朝焼けのごとく天空暗くなり卑弥呼も驚く肌寒き風

天空の欠ける太陽知識なく平安人の驚き如何に

画面ではスカイツリーと日食で世紀のショーを演出したり

日本中黒メガネかけ空眺むそのこと自体が映像になる

   美山の同僚

大宮に七郎丸の俳句あり四季折々を文字に託して

野津又にたけし自慢の城がある味見ささえる農機具収め

市波にちょっと小粋な修行僧元気の素は缶入りの水

   未来

一株で1万以上の実をつける命の不思議水耕トマト

農業が古臭いなんて誰が言うデジタルよりも未来が見える

   老いた父

無断にてトマトの脇枝欠き取りし老いた父親子の意を知らず

年老いて配慮や自制が利かぬ父 情はあれども形にならず 

   朝の畑作業

朝早く畑へ出かける我が姿 昨年まではありえぬ話

ウリスイカ脇芽の整理が面白い野菜作りはこれが醍醐味

ナストマト支柱を立てて脇芽取り手間と愛情無心に注ぐ

いつまでも大きくならぬカボチャ達願いを込めてワラだけは敷く

親ほどの歳の離れた畑仲間 朝の畑で言葉がかかる

爽やかな時間の中の畑作業 心も身体も生き返らせる

   薪割りの日曜日

ご近所の風で倒れた屋敷杉始末困って吾が手に入る

別宅に輪切りの杉が並びたりうれしさよりも段取り巡る

満身の力をこめて打ち込めど素知らぬ顔の太き丸太よ

周りから剥ぎ取るように割っていくやっと覚えたプロの薪割り

生木でも幹に巣食いしシロアリは早めに割って焼却処分

1時間割って休憩1時間吾が体力はこれが限界

二十束積み上げたりし軒の下1日掛けた満足の品

心地良い疲れの中の缶ビール風呂入る前に至福のひと時

   夏野菜

暑くなり勢いづいたマクワウリ枝葉茂れど実の気配なく

意気込んで五株も植えたカボチャ苗いつまで経っても新芽が伸びず

実を付けど下葉の巻いたトマト株水遣り要るか頭悩ます

雄花剥き開いた雌花にくっつけるスイカとはいえちょっと神妙

作物の保険のような第一果何があっても子孫をつなぐ

初採りのキュウリとナスの泥落とし玄関前で記念撮影

   トウガラシ苗

老父が草と間違え引き抜きし隣でもらいしトウガラシ苗

いい加減やめてほしいよお節介いくら伝えど耳に残らず

   畑仕事

今年から見よう見まねの野菜畑金も掛からず面白き趣味

土作り肥やし苗植え水遣りと要素多くて頭を使う

長生きの条件満たす畑仕事身体動かし頭も使う

畑仕事時間も作業も自由にて気ままな俺にぴったりの趣味

老いた父息子に生活見守られ父は息子の畑見守る

   6月の野菜ら

三個ある珠玉のようなスイカ玉カラスにやれぬと網をめぐらす

雨よけの屋根まで伸びるその背丈青きトマトを山ほどつけて

苦労して一本立てしたキュウリ苗親ヅル先の新芽が出ない

梅雨入りて息吹き返した家のナス朝の収穫今が採れ時 

六月に勢い付けたカボチャ株雄花咲けども雌花少なし

枯れるまで待ってやろうかジャガイモら土が悪いか木勢が弱い

   永代経

幕張りが金曜朝の八時では八十過ぎの年番ばかり

お布施額一萬円も千円も分け隔てなく順に張り出す

始まりの鐘叩く音鋭くて筆運ぶ手が一瞬止まる

寺行事報恩講も永代もやること同じ経と説教

年番がザルを差し出し集めおり休憩ごとのお賽銭かな

説法を聞けばその人見えてくる仏法知るか知らざる人か

行事終えご苦労さんの昼飯は近所同士の貴重な時間

仏法に触れ合う機会もおかげさま八年ごとの年番の役

   ジャガイモ掘り

初畑初作物のジャガイモはみな愛おしく手で掘り探す

枯れ果てた茎引き抜けば白肌が所狭しと並びて居たり

梅雨晴れ間いも掘り起こす息子の手椅子に座りし母が見守る

   7月の野菜歌

待ちきれず蔓切り外す初カボチャ軟らかき実は覚悟の上で

そのままに食卓置かれし初カボチャ本日ばかりは話題の主役

放任が良いとは限らぬミニトマト草勢ばかりで実の数増えず

弁当の色付けに良しミニトマト毎日三個でひと夏いける

雨降りて2,3日見ずのトマト達頭の先が暴れ出したり

吾が畑の主役演じるトマト畝息を抜かずに採り切る覚悟

いつの日も表情変えずのナスの株毎日変わらずその実をつける

ナスの腹トンネル堀りしナメクジも生る実多くて工事追いつかず

どっしりと収穫近いスイカ達そっと網よけカメラに収む

養分を三つのスイカ独占し雌花付けども実に成り難し

朝晩の菜園往復欠かせぬものは再生させたる緑のチャリよ

   野菜それぞれ

それぞれに実り迎えた野菜たち背丈草勢まちまちなれど

毎朝に次々採れたキュウリ株ツル割れが出て勢い止まる

次々とうどん粉病のカボチャ達収穫するまで逃げ切れるのか

網ありて手入れ届かぬトマト達赤い実付けれど枝先暴れ

三個だけ巨大に育った吾がスイカ収穫間近で期待高まる

肥料切れカラス襲来見舞われどトウモロコシの収穫間近か

放任で草勢ばかりのウリの株じっと探せば実が二つ三つ

芽を取らず枝ばかりなるミニトマト花は多くも実の数少なし

難あれど手立てを持たぬ今の時期反省持ちつつ収穫を待つ

   八月の野菜達

ジャングルの様相なりしミニトマト赤き実求めて探検をする

高温で夏疲れするナスの株堆肥埋め込み水遣りをする

雨降らずせっかくやった畦水も赤きトマトのひび割れ誘う

肝入りのカボチャ次つぎ実をつけて最終結果は四十を超す

待望の金冠ウリが生り出した四方広がりその腹見せて

キュウリ採れ日に日に溜まるポリバケツ食傷気味で食卓上がらず

これだけの巨大なスイカ初めてよ10キロ前後が4個も採れて

   初採り

初孫の三歳祝いのプレゼント見事に育ちし初採りスイカ

初採りのカボチャ二つに切り分けて妹宅へお裾分けする

初採りのトマトとナスは泥落とし仲良く並べて記念撮影

早朝の畑で見つけし初生りをその場で試食のミニトマトかな

採れたての小ジャガばかりを寄せ集め煮っ転がしにて舌鼓うつ

   猛暑の俳句

エアコンもフル稼働するエコの夏

寝転がるスイカもゆだる猛暑かな

この猛暑おとなも欲しい夏休み

この暑さ句が作れぬと言い訳し

手に負えぬ八方伸びるカボチャ蔓

初スイカ二人がかりで持ち帰り

園終えし孫に引かれてトマト狩り

   アップルのアイポッド

掌に納まる小さな液晶で世界に広がる情報を得る

映像に画像自在に撮り放題デジタルカメラの出番が来ない

小遣いで買える小さな端末機未来を見せる夢のパソコン

ひと時も手元離せぬアップルはウインドウズを古物に見せる

   夏の出来事

蔓茂り足の踏み場もない畑に聡を抱えて中入り込む

7月に心労重なり心不調身のほど知ってゆるゆる過ごせ

甘噛みで甘えて来たる家の猫牙鋭くて甘えにならぬ

葉を枯らし終焉間近かの夏野菜カゴ一杯の果実採れども

マクワウリ黄色き腹を横たえて珍客用にと収穫を待つ

盛り過ぎ生き永らえしキュウリ株今朝眺めれば命途絶えし

この夏の実を採り終えしトマト株肩の荷下ろし新芽を伸ばす 

久方の恵みの雨もトマトには余分なこととその実を割らす

窓際に積み上げられしカボチャ達二つ三つと貰われて行く

日を置かず採れ続けたる夏キュウリ食卓上らずバケツに溜まる

野菜室貯まりしナスの後始末老いたる母が焼きナスにする

大仕事終えしスイカの枝先に3つ4つと実が付き出した

いっ時のトウモロコシの収穫期茹でて食えども始末に終えず

膨大な数の実付けるミニトマト赤く熟れども意欲がわかず

夏盛り大きく茂るモロヘイヤ鞘取り除き茹で上げたりし

夏ばてをぬるぬる感で吹き飛ばせ小まめに採れるオクラ食して

   美山の農業

清らかな水と心で作る米 作り少なくも味では負けぬ

大規模田機械化したる稲作も担い手不足は解決できず

イノシシに猿にカラスにハクビシン 我が家の畑は動物園か

朝夕に手により掛けた夏野菜息子夫婦に食べさせたくて

週末に戻りし息子の運転で収穫終えるコシヒカリかな

周り中アミで囲った野菜畑イノシシ野郎と真剣勝負よ

イノシシも実りの秋を心待ち気持ち分かるが分け前やれぬ

温暖化やがて美山でマンゴ採れ米を作れぬ時代が来るか

   豊作の夏野菜達

五株にて採れも採れたり40個今年のカボチャは大豊作よ

自慢げに積み上げられしカボチャ山二つ三つと他所へ貰われ

10キロが4個も採れたスイカ株家族みんなののどを潤す

収穫後5個も付けたり二番生りお盆を過ぎてもスイカが食える

マクワウリ天候恵まれ数付ける30以上は採れたはずだが

好評であちらこちらと差し上げる黄色きウリが外交役よ

ジャングルになって無数の実を付ける放任当たったミニトマト達

採れすぎて食欲わかぬミニトマト袋に入れられ知り合いへ行く

支柱立て屋根取り付けたトマト畝手間はかかれどやっぱり主役

200個は採れたはずだよトマト達サラダにカレーに夏を満喫

   石搬出の歌

午後休で石の搬出精を出す35度の灼熱の中

先週の土日に詰めし土砂袋月日空けずに搬出をする

軽トラの荷台に載せた土砂袋余りの重さにタイヤを潰す

錆浮いた10年選手の軽トラもここぞとばかり仕事をこなす

窓越しの受付係のお姉さん顔は見えねど胸だけ見える

大型のパワーショベルのすぐ横で肩を狭めて石降したり

これほどの重さ引き取り数百円不燃に比べりゃ何と安価よ

持ち出しのごとに取りたる休憩は冷えたスイカと全開扇風機


第3章 楽しみはへ

短歌の世界へ戻る