あぜみちの会ミニコミ紙

みち30号

(2001年夏号)


絵と文 笹原和代


シグナル30

福井市 中川 清

 六月二日、京都生協に招かれて「高齢者が生きがいをもって…」のシンポジウムに参加する機会があった
 高齢化社会が確実にくる見通しの中、この階層の人達が元気に長生きをしていくことは、大きな社会的意義がある。
 全国では、約半数の都道府県で、高齢者の協同組合が出来ている。福井県でも三年前に「ハイコープ」という愛称で設立され、今度京都にも出来そうである。その会場で初対面の人だが、多くの人と知りあえた。
 私の作ったおコメを数年前から買い続けて、有機農業を支えていてくださる浅川さん、元福井に住んでましたと紹介された、たまたま同姓の中川さんという女性、また昨年機会があって福井にこられた尾松さん、みやこ福祉会の横間さん、などなどである。
 高齢者が元気でいられるのは、人と人との連なりのなかから、励ましあい、感謝しあう、声の掛けあいが一番だと思っている。
 今、都市より農村の高齢化が進んでいるという。外国農産物の価格攻勢と相俟って、高齢化の農村の将来を危惧する人が多いが、日本の環境と農業は、農家だけが守るものではないと思うのだ。
 外国の安い農産物で良いということを消費者が判断するなら、日本の農業は確実に潰れる。
 かつて、山村に点在した炭焼きが消費の減退で壊滅した如くである。
 行政が多額の補助金で生産を鼓舞すると現場は甘えの構造が進んでしまう。
 それより消費者からの励ましのメッセージがより効果があると思うのだ。一声、農家の人に声をかけてくれる消費者が一人でも増えることが高齢の農村をも活気づけるのである。
 今夏開店の消費者と農家が作る地産地消の店「さんさん」が、こうした拠点になれればと願っている。


アジサイと梅そしてIT

福井市細川嘉徳


 梅雨に入って庭先のアジサイが一段と美しさを増してきた。多くの品種の中で素朴な青紫のガクアジサイが好きだ。落ち着いた色合いは何となく心を癒してくれる。
 アジサイは日本原産で、名前の由来は集(あっ)真(さ)藍(あい)、つまり藍色の小さな花の集まった姿からつけられたと聞けばなるほどと思う。アジサイを西洋に紹介したのはシーボルトだと聞いたので調べてみたら、それ以前に中国経由でイギリスに伝わり、それが長い間に欧米で園芸品となり西洋アジサイとなったこと、また紫陽花の漢字は白楽天の詩からとられ万葉集にも歌われ、花の色が変化するので七変化、中国では八仙花と呼ばれていること等がわかった。アジサイは雨に濡れた風情が最も美しいといわれる。何れにしても梅雨を彩る主役には間違いない。
 さて人の話を立ち聞きするのは良くない、良くないと解っていても聞こえてくる場合もある。先日知り合いの家に庭木の勢定に行った時のことである。先ず生い繁った梅の木からと言うことで実を採りながら仕事を始めた。梅は小粒ながらニs余り採れた。
 そのうち奥様が友人と電話しているのが聞こえてきた。話の内容はどうやら梅干しの作り方についての様だ。色々と話をしていたが、結局イン夕−ネットを利用したらということで話が終わったようだ。梅干しや漬け物の作り方は、代々親からそれとなく教わって身につけてきたと思いきや、今ではパソコンが教えてくれる時代になっている。便利だなあと思う反面、なんか物足りなさを感じた。そんなことを思いながら枝に残っていた黄ばんだ梅を失敬し口の中へ。噛めばたちまち体中に酸っぱい味が走る。この味が不思議に少年時代の風景を蘇らせる。子供の頃おやつ代わりに時々近所の梅を失敬しては食べたものだ。梅の木に向かって石を投げれば四個や五個梅が落ちてくる。それを拾って食べたあの時の味だ。ふとこんな詩を思い出して探してみたら、次のような南宗の詩人楊万里の「閑居の初夏午睡して起く」という詩が出てきた。
 梅干留酸軟歯牙
  梅干酸を留めて歯牙を軟らかくす。
 芭蕉分級与窓紗
  芭蕉は緑を分かちて窓の紗に与う。
 日長睡起無情思
  日長く睡より起きて情思無し。
 閑看児童捉柳花
  閑に看る児童の柳花を捉うるを。
 梅の実を食べたら酸っぱい味が残り、歯がうずく。芭蕉は葉の緑を分けて、窓の薄い絹を緑に染めている。初夏の日長、昼寝から覚めてぼんやりしたまま、ただよう柳の花をつかみ取る子たちの姿を、ただ見ているだけ。
 この詩を読んでいると中国と日本の差はあっても農村の原風景が見えてくる。アジサイと梅、共に六月の風物には欠かせないものだが、アジサイの雨は人々に安らぎを与え、黄海の雨は人々の愁いを深くする。それにしても梅干しにITが絡んでくるとは予想もしないことてあった。



さんさんは何を目指すか

んさん事務局長 屋敷 紘美


 最近の農業をめぐる動きの中で、特徴的なものをひとつ、ふたつ拾ってみるとアジア諸国からの洪水のような農産物の輸入と、あたかもそれに対抗するように、農業者による農産物の直売をあげることができる。
 前者に関して言えば、二つの傾向がみられるが、そのひとつはいわゆる開発輸入である。日本の大手商社がたとえば中国の安い賃金と、広い農地、優秀な労働の質を利用して、日本人の食感に合うような野菜づくりをして、それを大量に日本に持ち込んでいる。今度のネギなど三品目の暫定セーフガードの発動に関して、中国では日本が仕組んだ生産なのにという不満・批判があると聞く。こうした無計画な農産物貿易は輸入する側、輸出する側双方の農家にとって不幸なことである。もうひとつは、まだ顕著には表面化していないが、アメリカの巨大アグリビジネスの日本上陸であろう。彼らのこれまでの方法によれば、日本農業のネオプランテーション化は避けられない。
 こうした外的要因と共に、農業者の高齢化や担い手不足は産業としての農業の長期にわたる衰退傾向に拍車をかけている。しかし一方で、消費者の意向調査はどれをとっても、国産農産物に対する、高い支持を示している。この農業と消費のギャップを埋める仕組み作りが生産・消費の双方の努力で試みられているというのが、最近の農業をめぐる情勢の市民的な特徴である。二つ目の特徴である農業者の直売はこの流れの中にある。
 社会的には、産業的農業に対して、市民運動的農業という対抗軸が形成されつつあるといえるだろう。昨年来、「地産地消」というスローガンで取り組まれている運動は、この市民運動的農業の本質をよく表している。農業や、農産物が地域の生活の中にキチンと位置付けられて、それが地域住民の生活の豊かさと健康、コミュニケーションに必要な役割を果たすこと、「身上不二」や「医食同源」と言われるように、人間の生存にとって足元の土地と自然が大切なこと、人間が自然の一部であることを、この新しい世紀のはじめに再確認する、そういう役割をも地産地消運動は担っている。したがってこの運動の意味するところは、単に物流の問題ではなく、人間の生存と共生の問題である。さんさんの目指すものは、まさにこの他産地消を実践することであって、長い流通経路を遮断し、外食や惣菜の隆盛によって遠くなってしまった「農」と「食」を直接対面させることを目的とする。イタリアを中心としたヨーロッパで市民生活に浸透しつつあるスローフードの取り組みでもある。
 私たちの起業は必ず、農業者、消費者のよりよい関係豊かで健康な生活に寄与することを確信している。


あぜみち中川賞

原稿募集のお知らせ


 今年のあぜみち中川賞の受付を五月一日から開始します。夢をつづった作文(四○○○字程度)での応募に加えて、今回から所定の項目について記述した応募用紙(注)での応募が加わり、応募しやすくなりました。ぜひ賞金の三○万円をねらってください。最優秀賞でなくてもこの人は応援しようと審査委員が判断した方にも、特別賞として着手の賞金がもらえることもあります。とにかく応募してみることをおすすめします。
 この賞の審査は、その人の思いや人柄、環境などを総合的に判断して受賞者を決定します。そのため応募者本人と実際に会って直接話を聞く現地調査を、特に重視しています。作文や応募用紙は、賞の応募の意思表示としてとらえていますので、記述内容の上手下手はそれほど重要ではありません。
 応募ができるのは、「福井県在住の農業者(個人)で五○歳未満の方となっており、男性・女性、専業・兼業の区別はありません。農家の女性で将来こんなことをしてみたいと思っている方が、賞金で視察旅行をしたり、ちょっとした機械を買ってみたり、事業資金の一部に当てたりといったことのために、応募してみるというのもいいと思います。また週末農業をしている方が、いろんな人との交流のために賞金をねらってみるというのもいいでしょう。当然、農業経営の次の展開のため、また今やっていることの継続のため賞金をねらうという方もどしどし応募してください。
 応募原稿または応募用紙は、住所、氏名、年齢、連絡先電話番号を明記して、あぜみちの会事務局の安実正嗣まで、郵送かFAXでお送りください。(〒910-0803 福井市高柳町三−八 FAX0776-54-8075)
 応募受付期間は八月三十一日までです。
 お問い合わせは、安実正嗣(電話○七七六−五四−七五六五)か前川英範(電話○九○−四三二七−一三五四)まで。


「大豆」たくさん穫ろう
く転作への技術提案〉を読んで
庚子の虎


 みち編集委員から表題の冊子を読んで、その書評を書いて欲しいとの依頼があった。
 大先輩である島津一郎氏の著作を評すということは、浅学非才の自分には荷が重いと辞退したのであるが、「どうしても」との要望で、自分の力不足を省みずに引き受けてしまい、後悔しているところである。
 福井県のみならず、全国的に大豆生産は、気象災害等の影響で生産量が不安定となっており、輸入大豆に押され、作付面積や生産量が停滞している。本県でも近年大豆生産への意欲低下がみられ、かつての麦+大豆の集団周年作体系による生産体制が減少している。こういった現状を打破するためには、大豆生産の実践的な技術体系再構築が必要であり、本技術冊子の刊行はタイムリーなものである。
 さて、本冊子の著者(提案者)である島津氏は、福井県職員として作業技術を中心に農業の研究・指導に携わってこられた。県を退職後も農業機械関係の仕事に従事し、また地元の農業生産の中心としてご活躍されておられる。その氏が大豆生産の現状を憂い、多くの生産者、指導者の役に立てて欲しい、との思いから作成されたのが四十五ページの本冊子である。
 構成は、栽培基本編、基本技術編、経済指標と参考情報の三編からなる。本冊子の中心はその七割強を占める基本技術編である。そこでは、実際に栽培に携わっている生産者としての視点、そして機械作業の技術者としての視点で記述されており、多くの生産者や指導者に有益な情報が盛り込まれている。特に、実際の作業(機械作業を含む)をどのようにすればよいのかといった記述は、生産に携わった実体験に裏打ちされ、「実践的な作業技術とは何か」という氏の持論をわかりやすく、かみくだかれており、興味深い点が多い。たとえば粘質な土壌を細かく耕すといっても、そのため必要な耕転ピッチのことまで認識される方は少ないのではないだろうか。また、「青立ち株発生と防止への見解」では、平成十二年度の大豆生産で体験された事例をもとに解析され、その発生防止対策をまとめられている。この点も、大いに参考となるところであろう。本冊子は、大豆生産者はもとより、技術者、指導者と呼ばれる人たちに読んでもらいたい、実践的な技術書であると同時に技術指導とは、といったことを考えさせられる。
 本冊子は著者もいっておられるように「技術提案」であり、この冊子が、生産者たちによって、それぞれ自分の地域に適した実践的作業技術確立が図られるための基礎となることを願い、拙い本稿の結びとしたい。

〈事務局より〉
本書を希望される方は、著者(提案者)の島津一郎さんまで、郵送または電話・FAXでご連絡してください。郵送の場合には、二○○円分の切手(二冊なら二七○円)を貼った返信用封筒を同封してください。なお、島津さんはこの本を無償で配布しているとのことですが、印刷製本費をご自身が負担されております。島津さんへのカンパという意味で、一○○○円程度を添えて申し込まれることをお願いします。〒910‐3641福井県丹生郡清水町平尾12‐36 電話・FAX 0776 98‐3403


会員紹介


 「みち」は、現在配布部数約千二百、これを支えていて下さる方は大勢いる。その会員の方々をこれから少し紹介して行きたいと思う。
  (自薦他薦歓迎です)


☆笹原和代さん

 毎回「みち」に俳画を寄稿願っています。
 寄稿願っているというよりは、いつも私を励ましていて下さるのだと感謝しているのです。
『花の季節が来て、描きたい描きたいと思っているうちに…
 時を見い出し、時をとらえなければ、美しい花はみんな姿を消してしまいます…。
 やはり「今が大事」なのですね』とにっこりされた印象が強烈に残る。
 公民館の水墨画教室の優等生主婦です。
 住所福井市江尻ケ丘


☆藤本清子さん

「特定米穀」=屑米など=地の大豆、小豆、米糠、からしなどの集荷業、園芸肥科など取り扱いをしておられますが、そのかたわら、今日までに農家の後継ぎを対象に三○組以上の縁組をまとめられています。話し好きで、話し込むと時間を忘れるほどです。
住所 福井市花堂南2−1 電話0776−36−1452(不在の場合は携帯接続)

 


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