第22回ちょっといって講座
人と回虫とウイルスの深い仲
講師:藤田紘一郎東京医科歯科大学教授
2004年4月18日
福井県職員会館101号室
司会 山崎一之
今日の話をきっかけにして、いろんな世界広がるような刺激的で、人生観が変わるようなお話をして頂けると思います。
藤田
私とカイチュウの出会い
私はおなかの中にサナダムシを飼っています。「キヨミちゃん」といいます。
アトピー、ぜんそく、花粉症は40年前にはなかった病気ですが、なぜ今日こんなに増えてきたかです。
三重県多気郡明星村(現:明和町)というところに高校まで住んでいました。農村のど真ん中です。成績は下の方でしたが、父親が結核療養所の所長をしていましたので、医者になろうということで、ものすごくガリ勉をしました。丸暗記という方法です。そして東大を受験しましたが、その時の問題が「ホルモンについて書け」というものでした。「男性ホルモンは睾丸を大きくし、女性ホルモンは子宮を大きくする」ということは丸暗記していました。しかし、当時私は松阪市のそばに住んでいましたが、駅前に「ホルモン焼き」というのがありました。そこで、「男性ホルモンを食べると睾丸が大きくなり、女性ホルモンを食べると子宮が大きくなる」と書いてしまいました。それで、零点でした。2年目に東大と医科歯科大学に合格しましたが、医科歯科大学に入りました。入学したとたんすごいカルチャーショックでした。カフカがどうの、ドストエフスキーが・・・と話題になるのですが、ついて行けず、私は落ちこぼれでした。そこで、落ちこぼれ組の柔道部に入りました。柔道部員はほとんどが整形外科に入局していました。ある時、熱帯病の調査団の団長とトイレで会いました。柔道部から調査団の荷物持ちに人を出せということになり、荷物持ちをすることになりました。整形外科の医者をしていましたが行きたいという部員が誰もいなかったので、私が熱帯病の調査のために奄美大島に行くことになりました。35年前のことです。そこで、陰嚢が大きくなるフィラリア病という病気を診ました。蚊が移す病気です。感染した人は周りの人に移すからと言うことで、山奥に追いやられていました。その時、団長が、おまえは整形外科医には向かない、回虫をやれということになり、東大・伝染病研究所の大学院に入り、感染症(細菌学、寄生虫学)を研究しました。35年前には奄美大島の住民の5%〜10%がフィラリア病にかかっていましたが、われわれの研究で1978年フィラリア病は日本から完全になくなってしまいました。回虫などの寄生虫も同じように減ってきました。
日本には寄生虫がいないということで、その後インドネシア・カリマンタン島に調査に行きました。カリマンタン島の子供たちは、うんこが流れている川で元気に水遊びをしているわけです。私が、こんな汚いところで遊んでいると病気になるよというと、子供たちはうんこ・おしっこがなぜ汚いのかと聞き返すのです。
ところが、この子供たちの肌はつるつるしておりアトピーがない、ぜんそくがない、花粉症がないのです。なぜアレルギー病がないのかというのが私の生涯の研究テーマになりました。当時、順天堂大学の助教授をしており、毎年調査に行きました。住民は全員が回虫などの寄生虫にかかっていました。しかし、血圧も、コレステロールも正常値なのです。
50年前、私が小学生の頃はほとんど全員が回虫を持っていました。駆虫のために、用務員室で海人草をグツグツと煮たものを飲まされました。ものすごく苦いのです。夜になると、肛門から回虫が出てくるのですがそれを引っ張り出して、洗って学校へ持って行くのです。一番長いのは1等賞、数が多いのは最多賞です。翌日は先生の机の上には回虫が山盛りになっていました。しかし、誰も変には思っていませんでした。寄生虫は全員いるものだと思っていました。そのころ杉鉄砲という遊びをしていました。竹筒に杉の実を入れてパチンと打つわけです。その実を取るときには全身花粉まみれになっていましたが、誰も花粉症になっていませんでした。私は子供の頃の経験とインドネシアの調査から回虫がアレルギーを抑えている!と思いました。
犬のフィラリアは心臓に寄生しています。蚊が移します。犬は外科の研究用に使いますが、フィラリアはいりませんから、その虫をもらってきてアレルギーを抑える物質を分離・精製する研究をしました。教授からはそんなところにアレルギーを抑える物質はないから研究をやめろといわれましたが、毎日研究を続けました。その結果、寄生虫の分泌排泄管にアレルギーを抑える物質があり、どうやって人のアレルギーを抑えるかが分かり、アメリカとヨーロッパの学会で発表しました。アメリカのサイエンスという雑誌やライフという雑誌にも載りました。ところが日本のアレルギー学会では無視されました。アレルギーが多くなったのは公害が原因だ、農薬だ、食品添加物だという先生だけがマスコミに取り上げられました。医学部の教授は頭がいいが、人の話をあまり聞かない!
そこで、「笑うカイチュウ」という本を書きました。医学界では馬鹿にされましたが、この本によって私の作戦は当たりました。寄生虫は気持ちが悪いがアレルギーを抑えるらしい、ダイエットにもなるらしいと噂になりました。そうするとNHKでも「よここそ先輩」に出てほしい、「人間講座」にも出て下さい、といってきました。朝日新聞も1年間の連載を書いて下さいとなってきました。しかし、我々医者の世界ではテレビに出たりすると大学にいられないことが多々あります。「バカの壁」を書いた養老先生は東大にいられなくなりました。東京医科歯科大学の教授会は私を首にすることはできなかったのです。首にすると大勢のフアンが怒るだろうと思っているからです。
寄生虫体からアレルギー反応を抑える物質を分離
ところで、一旦アトピーやぜんそくになると、なかなか治りません。アレルギーを完全に治す薬がないのです。簡単に言うと、肥満細胞が破れた状態がアレルギーです。肥満細胞はいろいろな部位の粘膜にあります。鼻の粘膜の肥満細胞が破れヒスタミン、セロトニンが出ると、くしゃみ、鼻水、鼻づまりになります。気管支の肥満細胞が破れると、気管支喘息に、皮膚の粘膜の肥満細胞が破れると皮膚が赤くなりアトピーになります。アレルギーを治す薬というのはこれまでは抗ヒスタミン剤が主です。肥満細胞が破れて出てきたヒスタミンを中和する働きをします。アトピーになると肥満細胞が破れ続けているわけです。その出てきたヒスタミンを中和するわけですから、根本的な薬ではないわけです。ところが、寄生虫から取り出したアレルギーを抑える薬は肥満細胞を覆い、肥満細胞を破れなくする根本的な治療薬になるわけです。この寄生虫由来の薬の遺伝子を決めて、これを大腸菌の遺伝子の中に入れて増やせば大量の薬を手に入れることができるわけです。
これはネズミの皮膚でアレルギー反応が起こるとブルーのスポットが出るという反応です。皮膚でアレルギー反応が起こると、ヒスタミンが出て血管の透過性が増えます。あらかじめブルーの色素を投与しておくとアレルギー反応が起きればブルーの色素がにじみ出て、アレルギー反応が起きている証拠になります。そこで、ネズミをアトピーにして実験しました。どのようにしてアトピーにするかというと、ご飯を食べるときに尾に電流を流すわけです。いやなことをすると免疫が落ちアトピーになります。ご飯を食べるときにいやなことを言うと免疫力が落ちますからやってはいけないわけです。その、ネズミに遺伝子組み換えで作った薬をたった1回注射しただけで、アレルギーが起こらなくなりました。
15歳の女の子ですが顔がアトピーでタダレて人前にも出られず、3度自殺しかけたというのです。そこで、私にサナダムシで治療して欲しいというのです。その子にサナダムシを飲ませ、ナオミと名前をつけ、お腹にナオミちゃんがいるんだから勝手に自殺してはいけないと諭しました。その後彼女はだんだんアトピーが治り今年早稲田大学に入りました。しかし、寄生虫での治療は日本では出来ないことになっています。先日、学長に呼ばれました。「藤田君2つ質問する。サナダムシは食べ物かい」というので、「食べ物ではないと思います」と答えました。次に「サナダムシは薬かい」というので「まだ薬にはなっていないと思います」と答えました。すると学長は「薬事法違反と食品衛生法違反で逮捕する」というのです。そこで私は「学長は納豆を食べるでしょう。ヨーグルトを飲んでいるでしょう。生きたバイ菌を食べているじゃないですか、寄生虫と同じでしょう」といいました。すると学長は「違う、サナダムシは腸管を食い破る」というのです。「とんでもない、私はサナダムシを数年間飼っています。最初はサトミちゃん、次はヒロミちゃん、キヨミちゃん、今はナオミちゃんがいます。私はこんなに元気です。おかしいじゃないですか」と反論しました。
私は寄生虫体からアレルギー反応を抑える物質を分離し、その特許を取り、アメリカのベンチャー企業と組んで薬をつくりました。ところが困ったことが起こりました。この薬は、アトピーは一発で治すのですが免疫のバランスを崩してしまい、ガンになりやすくなるのです。
免疫はTh(ヘルパーT細胞)1とTh2という2つの工場でできています。ガン細胞を見つけてやつけるのがTh1、アレルギーを抑えるのがTh2です。この2つがちょうどシーソーの上に乗った状態にあり、バランスをとっています。みなさんは毎日3000個以上のガン細胞が出来ているのをご存じですか?でも、われわれが簡単にはガンにならないのはTh1が見張っていて、インターフェロンを出したり、ナチュラルキラー細胞に命令してガン細胞をやっつけているからです。老化するとガン細胞を見逃すことが多くなり、ガンになりやすくなるわけです。
私が作った薬は、免疫のバランスを崩しTh1が小さくなってしまうのです。ガン細胞が出てきても見逃す確率が多くなるわけです。私の研究は西洋医学の限界を示しているといえます。西洋医学の功績が非常に大きいのは、一つの原因を一つの物質で治すということだと思います。たとえば、糖尿病はインシュリンの分泌が足りないから起きますので、インシュリンを与えればよいということです。西洋医学で手をつけられないのは免疫のバランスが重要因子である疾患です。アレルギーとガンは免疫の両極端にあります。日本癌学会は何十億と使って研究していますが、ガンの発生を止めることはできていません。アレルギー学会も何十億と使っていますが、毎年アレルギー患者が増えています。今こそ、東洋医学的な発想が必要です。東洋医学とは個人個人のバランスを見る学問です。西洋医学では風邪を引けばみんな同じ薬が出ますが、東洋医学では脈をとり、舌を見てその人がどのようにバランスが崩れているかを見て、そのバランスを正しくすることによって病気を治そうということです。
ガンの治療薬に丸山ワクチンがあります。最高のワクチンだと思うのですが、西洋医学はそのようなものを認めないのです。丸山ワクチンを投与するとTh1が大きくなります。ところが丸山ワクチンにはいろんな成分が入っているのでTh2も大きくなるのです。丸山ワクチンではガンも抑えられるし、アトピーも抑えられるわけです。西洋医学ではどちらに効くかをはっきりさせようとするから認めないのです。
西洋医学的な考え方で足りないことは「自然治癒力」という概念です。それをもっと大切にしなければなりません。自然治癒力とは、自然の中で生きてきた力です。私たちは地球上で40億年生きています。抗生物質が発見されて高々100年ですが、もう限界が出ている。自然治癒力、たとえば皮膚常在菌というのは皮膚に棲んでいて皮膚を守っている、腸には腸内細菌が100兆個もいて、腸内環境を正しく保っているのです。そして、女性の膣の中にはデーデルライン乳酸菌という細菌がいて膣を守っている。
私のお腹にいるサナダムシのキヨミちゃんは最盛期には1日20センチメートル伸びます。卵を200万個産みます。小さなサナダムシが1ヵ月で6mにも伸びるわけです。キヨミちゃんは生きるために私がおいしいものを欲しがるようにするわけです。そこでキヨミちゃんはTh2細胞を刺激して私がアレルギーにならないようにするわけです。また、私がガンになっても困るからTh1も刺激してガンにならないようにしているわけです。
動物の寄生虫・ウイルスは宿主を大事にする
寄生虫はみんな悪者かというとそうではないのです。人の寄生虫は人の中でしか子供を産めないわけです。だから、人の寄生虫は人を大事にするわけです。動物の寄生虫は動物を大事にするわけです。寄生虫、ウイルス、細菌というのは一人では生きられない。必ず宿主が必要です。だから、その宿主は大事にする。北海道で流行している大変恐ろしい寄生虫があります。エキノコックスといいますが、キタキツネのサナダムシです。キタキツネは大事にするが人が手を出すと大変な目に遭う。これが掟なのです。SARSウイルスはセンザンコウ・ハクビシンや狸のコロナウイルスです。その中では仲良くして子供を産んでいたわけですが、人に感染するとひどい目に遭う。エボラ出血熱はアフリカのジャングルの猿のウイルスで昔から共生していたわけです。マレーシアで養豚場の人たちがたくさん脳炎で死亡しましたが、調べるとコウモリのウイルスであるニッパウイルスが原因だったわけです。ヒトがジャングルを勝手に開発しコウモリの住処に近づいたからです。コウモリから直接、人には感染しませんが、コウモリから豚に、豚から人に感染すると人が死亡するわけです。SARSもハクビシンのウイルスです。ハクビシンは中国の山奥にいるわけですが、わざわざ人のいる所までつれてきています。市場には隣に豚・鶏がいて、猫がいて牛がいるという自然界の生態系にない状態です。このように自然界の生態系を人間が崩しているのです。
鳥インフルエンザウイルスも人類が生まれる前から野生の鴨の中にいたわけです。縄張りがあってその宿主の中にいたのです。ところが、他のものに宿主を替えるとひどい目に遭う。鴨は水鳥ですから、あひるにうつる。少し症状は出ますがたいしたことはない。ところが家畜のあひるになると、餌に抗生物質を入れたりしていますから症状がひどくなる。それが鶏にうつるとひどい目に遭う。さらにそれが人にうつると大変なことになるわけです。
スペイン風邪で全世界人口の4分の1が亡くなったことがあります。ウイルスを絶滅しようとしてもできません。我々が生態系を乱し続けているからです。そのつけがSARSなどで出てきているわけです。人の腸内細菌は人を守っている。これまでの研究では寄生虫だけでなく、いろんなウイルス・細菌もアレルギーを抑えていることが分かっています。たとえば、ドイツですが、旧東ドイツの子供たちは旧西ドイツの子供たちに比べアレルギーも花粉症も少ない(ドイツの花粉症;旧西ドイツ児童8.6%、旧東ドイツの児童2.7%)。どうしてかをハンブルク医科大学の先生が調べました。アレルギーの原因を公害・自動車排ガス・食品添加物等に求める考えがありますが、どちらの子供がそうしたものにより多く暴露されているかを調べたわけです。そうすると、旧東ドイツの子供たちの方が公害や排気ガスなどに多く暴露されていたのです。旧西ドイツや日本のように、身の回りの細菌を追いやっているきれい社会がアレルギーを生み出しているのです。
スギ花粉症になる日本人は5人に1人です。日本で始めてのスギ花粉症の症例は1963年に出ました。日光のスギ並木は17世紀に植えられましたから、17世紀からスギ花粉は飛んでいるということです。17世紀の日本人は回虫にかかり、いろんな細菌がいましたから、それがアレルギーを抑えていたのです。ぜんそく、花粉症、アトピーは1950年には全くなかった。それが1965年以降急激に増え出した。1950年の回虫感染率は62%でした。回虫の感染率が5%を切った1965年から増えだしたわけです。
抗菌社会はビョウキ
身の回りの皮膚常在菌などが私たちを守っています。皮膚常在菌は皮膚の脂肪を分解して脂肪酸をつくって皮膚を守っています。抗菌グッズは皮膚常在菌をやっつけますから大嫌いです。ところが、いま売られているもので抗菌でないものを探すのには苦労します。パンツ、ボールペン、キャッシュカードもみんな抗菌です。布団も抗菌なのです。皆さん方は洗っていないといいますが、洗剤は益々強力になっています。そして、洗うと汚くなるのです。常在菌が元気だと、脂肪酸の膜をつくり悪いアレルゲンや細菌が入らないようにして、水分も抜けずにしとりとした肌になっているわけです。若い人10人にお風呂に入ってもらって石けんで洗う実験をしました。そうすると、1回石けんを使うと皮膚常在菌の90%が流れてしまう。しかし、10%の菌が残っていますので、12時間でもとの100%まで回復します。ところが、固形石けんではなく、強力なボディーシャンプー(これは合成洗剤なのです)で洗うとなかなか回復しません。歳をとると回復に時間がかかる。だから、歳をとったら石けんで洗うのは2〜3日おきにしたほうがよいです。
若い女性の膣炎が非常に増加しています。原因は洗いすぎです。小便の度に洗っている。洗うときれいになると思っているようです。しかし、女性の膣がきれいなのはデーデルライン乳酸菌がいるからです。グリコーゲンを食べて乳酸をつくっています。乳酸は酸性です。だから膣は酸性に保たれており、雑菌が入り込んでも死んでしまう。ところが、膣を洗うとデーデルライン乳酸菌が流れて膣は中性になりますから、雑菌が増えて膣炎を起こし、おりものが増えます。
トリコモナス膣炎というのがあります。トリコモナス原虫が寄生して起こりますが、トリコモナス原虫は何の悪さもしません。トリコモナス原虫を膣の中へ入れるとデーデルライン乳酸菌の餌になるグリコーゲンを横取りしてしまいます。餌が無くなりデーデルライン乳酸菌は死んでしまい、膣内は中性になるので雑菌が増えて炎症を起こします。膣の洗いすぎと同じです。
生命が誕生して40億年、この地球上に生物は生きています。しかし、単独では生きられない。いろんなバイ菌の力を借りて生きてきました。たとえば、膣は雑菌が繁殖しやすい。そこでわざわざデーデルライン乳酸菌に棲んでもらっている。それをきれい社会は排除 しようとするわけです。
日本人は何でも善玉と悪玉に分けて考えてしまいます。腸内細菌ですが、ビフィズス菌・乳酸菌を日本人は細菌とは思っていません。「ヤクルト」だと思っています。大腸菌は悪者だということで、抗生物質などでいじめます。しかし、大腸菌も生き物ですからなんとか生きようとして、200種類以上の変異株を作りました。その157番目がOー157です。O−157は発展途上国には存在しません。大腸菌をいじめてきたきれい社会に存在する菌です。O−157は毒素産生に力を向けているので、生きるためにはとても弱い菌です。O−157をインドネシアに持って行っても、雑菌がいっぱいいるところではやられてしまいます。集団中毒は屋台では起こりません。世界一きれいな学校給食の場で起こります。O―157の運び屋として「カイワレ大根」がいいのは無菌で育っているからです。普通は、O―157を飲み込んでも平気なのです。ちゃんと腸内に大腸菌がいれば排除されるわけです。1000名中990人はO−157を排除します。10名だけがO−157が腸管で増えています。そのうち3人は増殖しても下痢をしない。6人はちょっと下痢をします。残りの1人が下痢を繰り返して死ぬことがあるわけです。実際に、岡山の小学校ではじめてO―157による集団感染が起こった時ですが、便からはO-157が出ているのに1回も下痢をしない子が30%、ちょっと下痢をした子が60%、下痢を繰り返して入院した子が10%でした。
私たち人間が地球上に生まれて1万年です。私たちの身体の構造や遺伝子は1万年前と変わってはいません。しかし、その間、住んでいる環境を非常にきれいに便利にしてきました。ですから、こんなきれいな空間でコンピューターゲームをしている子供は本当の子供ではない。どろんこ遊びしているのが本当の子供です。そこで、私は朝日新聞社から『清潔はビョーキだ』という本を出しました。そうした医学部の先生からパッシングを受けることとなりました。清潔は医学の中心課題だ、清潔を病気というおまえこそビョウキだといわれました。
きれいにすることはいいことです。しかし、私たちの清潔というのはわざわざ守っている菌を追い出して、抗菌物質の銀イオンなどを使い、化学物質で地球を汚染しているのです。そのような清潔をビョウキだといっているのです。
子供の免疫力が落ちているから、どろんこ遊びをしようと新聞のコラムに書いたら、公園の砂場には犬猫の糞があり大腸菌がうようよしている。そんなところで子供を遊ばせていいのかというのです。アメリカの小児科の先生はあの大腸菌を子供たちに飲ませようとしています。イギリスやフランスの小児科の先生は子供たちにどろんこ遊びを推奨しています。ところが、日本の小児科の先生はどろんこ遊びをさせないのです。
沖縄の那覇市でアレルギー体質やアトピー性皮膚炎、ぜんそく児とアレルギーのない子を集めて調査しました。そうするとどろんこ遊びをしている子はアレルギーになる率が低いのです。外での遊びが少なくなるとアレルギーになる率が高くなるのです。この調査では第1子がアレルギーになりやすいということも分かりました。最初の子は大事だからほ乳瓶も煮沸し、おっぱいも消毒して飲ませました。2、3番目の子どもになると面倒くさくなってほ乳瓶も洗わない、そうするとアレルギーにならない。さらに、母親が働いていると子供はアレルギーになりにくいということが分かったのです。だから、『バイキンが子供を強くする』のです。
日本人のきれいに関する常識はみんな間違っています。飲んでいるミネラルウオーターにしても、ペットボトルの中は無菌だと思っているのは間違いです。ヨーロッパでは無菌のものをミネラルウオーターとはいわなのです。ある研究者がペリエのミネラルウオーターから細菌を発見してペリエに抗議しました。ところがペリエの社長から、消毒した水はミネラルウオーターとはいわないといわれました。アメリカでもヨーロッパでも水道水は100回検査して1回ぐらい大腸菌が出てもいいことになっています。細菌を殺すために塩素を大量に入れることこそ怖いといっています。日本では細菌が全く検出されないように大量の塩素で消毒しています。塩素では、下痢をしたりしませんからどんどん入れるわけです。そして、発ガン性物質のトリハロメタンができたり、クロロホルムまで出てくるようになってきたのです。塩素を入れたために麻酔薬・クロロホルムが水道水から出てくるのです。
免疫力を高めるには
これからの健康を考える時に重要なのは免疫です。今、免疫関連の病気が増えています。関節リュウマチは自分の関節を自分の抗体が攻撃する、自己免疫疾患という病気です。唾液が出なくなるシェグレンという病気では、自分の唾液に自分の抗体がアタックしています。だから免疫を正常に、そして高めてゆかなければなりません。ガンにならない、アトピーやぜんそくにならない、そして、O−157やSARSにも平気な身体を保つために、免疫力を高めるのにどうしたらよいか?
まず、腸内細菌の種類や数が多いほど免疫能力が高まります。
バイ菌を大切にすることです。風邪の原因の95%はウイルスによるものです。抗生物質は効かないわけです。風邪で医者へ行くと抗生物質を出しますが、これは風邪のウイルスには効きません。かえってお腹を守っている腸内細菌を殺してしまっているのです。普段からイソジンを使うとだめです。イソジンでうがいをすると喉を守っている細菌もいっしょに殺してしまうからです。1万年前の身体に近い状態で自然にふれあって生活すると免疫力は高まります。また、穀類、野菜類、果物類などを積極的に食べるとよいです。腸内細菌の餌になるからです。赤みの肉はバランスを崩します。赤みの肉は1万年前にはなかなか手に入りませんでしたから。
笑いはNK活性を高めます。1日1度は大声で笑うと免疫力は非常に高まります。日本医大の吉野教授は関節リュウマチの大家です。教授は患者を2つのグループに分けて実験をしました。1つのグループには関節リュウマチに効く新しい高い薬を飲ませました。もう1つのグループには林家菊蔵師匠の落語を1時間聴かせました。どっちが効果があったか血液検査をしたところ、落語を聴いたグループのほうが効果がありました。
ストレスをストレスと思わずポジティブにいきましょう。私の同級生の『唯脳論』を書いた養老教授も、いやなことは多いけどいいほうに考えましょうと思うことで免疫力は高まるといっています。
イメージトレーニングですが、「あなたは沖縄の珊瑚礁にいます」といってそれをイメージさせると免疫力は上がります。
運動はいいですが、プロ並みの運動量は無用です。死にそうな顔をしてジムで運動している人を見かけますが、それでは免疫力が落ちるだけです。楽しく運動しなければなりません。
極めつけは食べ物です。アメリカの国立ガン研究所がガンの予防の可能性のある食物としてメロン、タマネギ、ブロッコリー、ガーリック、大豆を上げています。たとえば大豆ですが、イソフラボンという物質がたくさん含まれていますので、女性のガンである乳ガン、子宮ガン、卵巣ガンになりにくくなります。アメリカ人と比べると日本人の乳ガンの罹患率は1/10くらいです。みそ、納豆、豆腐を食べているからだと思います。トマト、なす、ピーマンなどにはβカロチンが入っています。アメリカの栄養学の先生は「アジアの伝統的な食事を見習いましょう」とキャンペーンをしています。アジアの伝統的な食事とは粗食です。毎日食べた方がよいものはコメ、トウモロコシ、パン、穀類、野菜類、豆類、果物類です。赤身の肉は月1回にすべきといっています。アメリカ人と日本人の一人当たりの野菜消費量はどちらが多いか調べましたら、1985年には日本人が多かったのですが、最近はアメリカ人の野菜消費量が多くなっています。キャンペーンをすると食事の傾向も変わるということです。ファーストフードはアメリカで生まれましたが、今、それに蝕まれているのは日本の若者です。もっと昔の食生活に戻るべきです。
キレイ社会は排除の社会
きれいにすることはいいことですが、抗菌グッズなどが行き過ぎています。抗生物質も乱用されています。2003年、SARSが騒がれた時です。日本に観光に来ていた台湾のSARSの患者が帰った10日後に姫路城を全部消毒していました。SARSウイルスはたかだか4日しか生きられないのです。行き過ぎています。
35年前、日本の商社はラワン材を求めてインドネシアのカリマンタン島に大勢入りました。ところが、ジャングルではマラリアとかアメーバー赤痢とかの伝染病があり、たくさんの人が亡くなりました。熱帯の感染症は日本の医者は分かりません。私は熱帯病・感染症を研究していましたので、カリマンタン島に行くことになりました。そこではトイレが河の上に突き出て建ててあり、その下手に洗濯場が、そしてそこで歯磨きをしていました。水浴も朝晩そこでするわけです。
私はカリマンタン島の川の大腸菌数を計ってみました。ジャカルタの水道水と比較するとカリマンタン島の大腸菌が1/10〜20と少ないのです。生態系が大腸菌を増殖しない働きをしているのです。ジャカルタの水道水は見た目きれいだが裏が汚いということです。
「キレイ社会」というのは排除する社会です。それは危険な社会です。カリマンタン島の排除しない社会は大事です。日本ではぜんそくはこの10年間に2倍に増えました。公害がぜんそくの原因だと言う人がいますが、公害がこの10年間で悪くなっているはずはありません。私の学説はアレルギー学会で認められませんでしたが、この頃は認めざるを得なくなっています。国立成育医療センターの免疫部長の斉藤先生の発表では日本人の1970年代生まれの人は88%がアレルギー体質であるが、60年代生まれは44%であり、とくに大都市生まれの人はアレルギーになる確率が高いという結果が出ています。きれい社会が子どもをアレルギー体質にしているということです。
私たちの細胞はいろんな細菌との共生によって作られています。地球に最初に出てきたのは原核細胞です。ところが地球に酸素が増えてくると、酸素を利用しないと生きられなくなり好気的な細菌を細胞の中に取り込みました。それがミトコンドリアです。植物は光合成の細菌を体内に取り込みました。それが葉緑体です。このように私たちの細胞は細菌を取り込んで作られているわけです。虫の食わない野菜というのは農薬などで虫が逃げているということです。日本人はそれをきれいだといって食べている。腐らないリンゴには防腐剤が入っている。これらをいつも食べていると、私たちの死体が腐らない。腐らないと新しい生命が宿りません。近頃は犬の糞も腐らなくなりました。犬の糞はバイキンがいないと分解しないわけです。われわれは生命の循環を断ってしまっています。雪印事件のとき「牛乳の管理はまずかったが、下痢は病気ではありません。下痢は生体反応です。日本人はたまに下痢をしないと強くなりません」と朝日新聞にコメントをしました。編集長は没にすると言ってきました。しかし、私が心配なのは防腐剤です。その後食品にぎりぎりの量の防腐剤・殺菌剤を入れるようになりました。森永がぎりぎりの量まで入れた殺菌剤で子供が吐きました。私は森永の方が問題だと思っています。化学品・毒を入れているのですから・・・。その影響を最も受けるのが生殖器です。日本人の男子の精子が少なくなってきています。女性は子宮内膜症などになっています。性的にも非常に弱くなっているのです。
質問
A:共生社会という方向に向けようとしているのかどうか。
藤田:フジテレビのTV批評というのがあります。しかし、その放映は土曜日の午前5時30分からでスポンサーがついていない番組です。先日私も出演してきましたが、TVが間違った情報を出している。狂牛病の牛が出たら全部牛舎を消毒する写真を出す。消毒することは根拠がない。映像で安心させているだけである。抗菌が売れるから出す。抗菌靴下は臭くないから売れたのでしたが、それからなにもかも抗菌商品が出てきました。我々消費者が悪いからです。TVはコマーシャルでなりたっていますが、サイエンスマインドを持って報道して欲しいと言いました。TV局はどうしてもスポンサーが付いているから、メーカーは売れるから作っているのですが、私たち市民がしっかりしなければなりません。批判精神がないのです。ドイツの携帯電話は厚くて重いのですが、電磁波が身体に悪いことを知っていて、軽いものを買わないからです。消費者はもっとしっかりしなければなりません。
医学界では抗菌がだめだという人はいません。製薬会社などから研究費をもらっていますので、言うと研究費が出なくなってしまうからです。わたしも「笑うカイチュウ」を書いたあたりから研究費がなくなりました。養老先生も東大にいられなくなったのはそのためです。医学界では黙っていた方が得になるのでしょうか?
B:金属に対するものと、アレルギー反応との抵抗力は違うのか。
藤田:物質に対する抵抗力はでてきますが、アレルギーは反応ですから抵抗力とは違います。防腐剤を食べるとその防腐剤を食べる細菌は出てきます。しかし、それは免疫力を高めませんから免疫力は落ちてしまいます。生体反応は適応性がありますから、個人個人のバランスの問題があります。
C:サナダムシの一生ですが
藤田:サナダムシの卵を直接飲んでも人では育ちません。人が川で糞をして、糞と一緒に出た卵が孵化して幼虫になり、その幼虫がミジンコに入らないとだめです。次にそのミジンコを鮭が食べて鮭の中で感染性の幼虫になります。その幼虫を食べないと感染しません。北朝鮮の河川のミジンコを食べて回遊してきた日本海側の鮭でしか感染が回らないということです。だからものすごく貴重なのです。飲み込むと最盛期1日20p、1ヵ月で6mになります。最長12mになります。腸にへばりついて栄養を吸収しています。虫の寿命はだいたい2年くらいです。大酒を飲む人などでは感染しにくいです。
D:先生の薬の今後ですが
藤田:日本の規制ではこのままでは私の薬はガンになる可能性があるので、全く認められません。寄生虫体内にはTh1を刺激する物質もあるので、それを事前に投与するとか、同時にそれらの物質を徐々に出す方法とかを研究中です。
司会 山崎:有り難うございました。
★★★★★講師紹介★★★★★
藤田 紘一郎(フジタ コウイチロウ) 氏
1939年、旧満州生まれ。東京医科歯科大学歯学部卒業。現在、東京医科歯科大学大学院教授。専門は熱帯医学、寄生虫学。人畜共通伝染病の研究、治療を続ける一方、日米医学会議のメンバーとして、マラリア、フィラリア、エイズ関連の免疫研究に没頭する。
【主な著書】
「笑うカイチュウ」(講談社)「癒す水・蝕む水」(NHKブック)、「清潔はビョーキだ」(朝日新聞社)「新版 謎の感染症が人類を襲う」(PHP新書)など著書多数