売れ切れた“飴”( 2003.12.16 )
 プロスポーツの世界では、時々ですが運営側と選手やスタッフ側の間に、待遇の改善等を巡って紛争が起こります。実際にMLBではストライキまで起こっていて、その影響で米国でのMLB人気が大きく落ち込んだ時期さえありました。ただ私個人は「大義名分のあるストライキならやるべきだ」という意見を持っていたりするのですが。

 現在セントラルリーグの審判団が、待遇改善などを求めて契約更新を全員保留しているという話があるそうです。別に申し合わせてそうした訳ではないそうなのですが、まあ過去の積み重ねから色々あったんでしょうね。何でも審判という職業は1年ごとの契約更新で退職金もないんだそうで。そうなるとせめてそれこそ一軍の一般的な選手に近いような待遇を得られないと、さすがにやってられないという気もします。選手みたいに現役やめたら解説者に・・・なんて可能性も乏しいでしょうし。

 こういう話って目先の利益、今現在現役で頑張っている人達のことだけを見てもダメなんですよ。現在置かれている状況、受けている待遇、そういった物を外の世界の人達が見て、果たして子供達が彼らの後を継ぐべく頑張ってみようと思えるかどうかなんです。よく私がエッセイなどで言う“モティベイション(動機付け)”というやつです。MLBはあれだけ高額な年俸契約を結ぶ選手が大勢いるのに、実際にはそれでも米国国内では人気的にNFLに勝てていないと思うのですが。NBAと比べても・・・どうなんでしょうか。多分負けてそうな気がしますが。こういうのって年俸以外にも人気とか露出度、そして競技としての格好良さとか色々な要素があります。そういう点に置いて審判といった裏方稼業は明らかに不利な訳で、やはりそれでよい人材を安定して確保しようと思ったら“それなりの待遇”はしないといけないのですよ。ただ金を出す側は当然できれば1円でも安く・・・と考える訳で、やはりやってる側がちゃんと文句を言わないとバランスが取れないのです。

 この話はあなた自身のもっと身近な場所でも起こっています。最近皆さんは「店での店員の接客スキルが昔よりも低くなった」と感じることはありませんでしょうか。しかし私に言わせると、それはある意味当然の成り行きなのです。今は他店より1円でも安い店でないと物が売れません。そうなると経費節減のために真っ先に人件費がやり玉に挙がり、社員を減らしてパートやバイトを増やします。パートやバイトが皆悪いとは言いませんが、彼らは社員に比べてもらっている報酬が少ないので、当然仕事に対するモティベイションは総じて低いはずです。つまりあなたの目の前にいる店員の態度が悪くなったのは、あなたが1円でも安い店でしか物を買わなくなった事に起因しているのです。逆に言えばあなたが店に昔と変わらないサービスやサポートを求めるのであれば、当然あなたはそれに見合う対価を支払うべきなのです。ただ日本の多くの企業や消費者がこの事に気が付いておらず、相変わらず人件費を削って自社に利益をプールしようという発想しか持っていません。でも日頃安い Made in China を有り難がって買っていたら、ある日突然自分の会社がその Made in China の商品に負けて潰れちゃった。そんな悲喜劇の積み重ねが今の不景気の元になっている気がします。ですから最近の労働組合の弱体化が日本に不景気を招いていると私は思っていたりもするのですが。

 閑話休題。ある世界で後進を育てるためには、その世界で夢を見られてそれが実現できるような環境を作ってやらないとダメなんですよ。あと選手にだけやたら金をつぎ込んで裏方を育てないのもダメですね。ゲームを売ってくれる人、人を育ててくれる人、イベントの面倒を見てくれる人。そういう人達がそのゲームで夢を見て、その夢が実現できる。そして自分がつぎ込んだ手間暇に見合う報酬や収穫が得られる。そういう環境をちゃんと作った世界は成功できるし、そういう手間を惜しんだ世界は没落する。これは別に私個人の見識なんかじゃなくて、既に過去の幾多の歴史が証明している話なのです。はっきり言いますがボランティアなんて物には限界がありますし、またボランティアで働いてくれる人がすべて善人だとも限らないのですよ(笑)。それだったらそのスタッフに然るべき権限と報酬を与え、その上で一定の責任を負わせた方が結果的にその世界の発展には貢献するはずなのです。でも最近は多くの世界で飴を切らしている、あるいはそもそも配る気がなくて準備すらしていない企業や組織が多くてねえ。




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