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韓国農業視察
(農業情報ネットワーク大会2002in福井 プレイベント)
 2002年8月22日から24日にかけて、福井で開催される第14回農業情報ネットワーク全国大会のプレイベントとして韓国を訪れました。
 メンバーは大会実行委員長の菊沢教授を始め、北部エコファーマー6名、農協の営農指導員、普及員、カメラマンそれに私の11名です。
 韓国では、農業振興庁の李歩(リーチョルヒ)氏に案内していただきました。
 今回は、(1)IT利用の農業経営、(2)親環境農産物の生産と販売、(3)農産物流通とインターネットという3つの視点でとりまとめましたので掲載します。

(1)IT利用の農業経営
 人口約100万人の水原(スウォン)市から南へ約10キロのところにある京畿道華城(ファソン)市の郊外に4000坪のハーブ園がある。大きな温室の中に入るとハーブをはじめいろんな植物が植えられ、噴水、水車があり空いたスペースのあちこちに白いテーブルといすが置かれている。中央付近にはハーブ茶をサービスするカウンターもあり、小さな公園がすっぽり温室の中に入ってしまった感じである。
 「年間3万人から4万人がソウルや水原市からこのハープ園に来てくれるんですよ」とハーブ園での若い販売責任者のイム・ホーピン氏(29)が話してくれた。販売はハーブの苗だけでなく、ハーブ入り石鹸、ラベンダーオイルなど加工品も扱い、今年上半期の売上は3000万円にも達している。
 1997年にハーブ栽培をはじめたオーナーが、法人化して、ここまで事業拡大できた裏には、イム・ホーピン氏のインターネットによる情報発信が大きな力になっている。イム・ホーピン氏はコンピュータ関係の大学を卒業し、水原市にある韓国農業振興庁でホームページ作成のアルバイトをしていたところへ、ハーブ園のオーナーから誘われ、ハーブ園のホームページ作成に取り掛かることになる。1年の準備期間を経て1999年4月にインターネットホームページを立ち上げる。しかしホームページを立ち上げただけでは、半期で3000万円の売上と年間3、4万人の来園者にはならないであろう。
 「ホームページを立ち上げ、これまで順調に事業が伸びてきたのは、送られてきた電子メールにも丁寧に対応したり、ホームページの管理をしっかりしてきたためと思う」と胸を張る。ホームページの開設によりハーブティーの注文が来るようになり、加工販売も始めるようになった。それにより生産農家と加工販売業者の両面を持つことになり、2000年12月には法人を設立し中小企業の支援を受け、ベンチャー農業第一号にもなった。
 彼は今、コンピュータの技術を持った同世代の人に比べ給料は安いが、7人の部下を任され、ホームページやハーブガーデンでの顧客対話を通じて経営を支えているという責任感のある仕事に満足している。
 韓国は今、インターネットを使った情報化に官民上げて取り組んでいるが、このハーブ園はIT利用農業経営の成功例といえる。このような先進事例に続くIT農業が次々に出現することが期待されている。

(2)親環境農産物の生産販売
 ソウルの南20キロにある儀旺(イワン)市の郊外にあるチョウ・ヒャンス氏のビニールハウスの前には、韓国における無農薬栽培農産物の生産圃場である事を示す親環境農産物の認証マークが描かれた大きな看板が立っている。「水耕栽培なので有機農産物の認証は取れないが、化学合成農薬を使わない無農薬農産物の認証を取っているんですよ」と話し、自動化した移動パレットを用いて水耕栽培をしている500坪のビニールハウスを案内してくれた。栽培を水耕で自動化しているのも、極力労力をかけないようにするためで、一般の有機栽培で問題となる作業時間の短縮を図り、コストを抑えるためである。「土で育てるより水耕のほうが効率的で、食べたときの味も水耕のほうが良いと思っていますよ」と話す。
 韓国には1993年にスタートした農作物栽培期間中の化学肥料や化学合成農薬の使用の有無や量によって認証する農産物品質認証制度と、2001年7月にスタートした親環境農産物認証制度の2つが現在共存している。前者は「品」の字をデザイン化した認証マークで、背景色や模様により、有機栽培、無農薬栽培、低農薬栽培、一般栽培の4種類がある。量販店では、米の袋につけられた品質認証マークが良く見られた。後者には有機農産物、転換期間中有機農産物、無農薬農産物、低農薬農産物がある。このうち有機農産物と転換期間中有機農産物はコーデックス委員会の基準にそっており、国際的にも有機農産物として認められるものであるが、無農薬と低農薬農産物は韓国独自のものであり、国際規格にはあたらない。前者の品質認証マークは来年6月までに後者の親環境農産物認証制度に一本化される予定である。
 農協のマーケットには認証農産物のコーナーがあり、認証マークのついた農産物が並んでおり消費者の高い関心がうかがえる。1994年、韓国の農協中央会で環境農業課を新設し、環境農産物の販売に力を入れてきたことが、成果として現れていると考えられる。新聞によると、有機栽培農産物は、一般農作物に比べ2倍程度の価格で売られ、特にキャベツは5倍を超えているという(韓国経済2002.1.17)。
 このような消費者の農産物の安全に対する強い関心を背景に、有機農産物関連のインターネットサイトも多くなっている。有名な有機農産物専門サイトのe-farm (www.efarm.co.kr)では、米、雑穀、野菜、果実、畜産物、水産物など有機農業関連の団体や全国の農家との契約栽培を通して、約500種の農産物を販売しており、多様な消費者ニーズの対応に一役かっている。

(3)農産物流通とインターネット販売
 水原(スウォン)市郊外の水田地帯の中にぽつんとある農協販売所は、日本でよく見かける地元に密着した農協のAコープといった感じだ。建物の外側にはハングル文字の横に、日本でもなじみの「身土不二」という文字が漢字で書かれている。店の中にはあずまや風の販売コーナーがつくってあり、新鮮な農産物が並んでいた。
 「ここで販売されている野菜は、個人農家からの直接仕入ではなく、20km県内にある近隣の作目班から入荷しています。作目班というのは40〜50名の専業農家で構成する作物生産部会です。この店での生鮮野菜のすべてをこれら作目班から仕入れています」と店長が熱っぽく説明してくれた。売り場に並んでいる野菜の結束テープや袋のラベルには消費者が生産者に直接連絡できるよう電話番号やホームページアドレスが書かれていた。
 ソウル近郊の大型ディスカウントショップ「ハナロクラブ」は、農協中央会が出資する株_協流通が経営する量販店のうちの一つだ。1日の売上は小売で約1億1千万円に達する優良店である。店内は加工食品などがうず高く積まれ、アメリカの量販店を思わせる倉庫棚のようなシンプルな店内である。また、農産物売り場では、親環境農産物コーナーが設けられ、認証マークのある農産物が所狭しと並んでいた。日本のAコープでは、品揃えのため輸入農産物を扱っているところが多いが、ハナロクラブでは、農協の方針で国産の農産物しか扱っていない。
韓国がここまで急速に流通システムを変化させた背景には、1996年に流通市場が海外に開放されたことや、翌97年に予期せぬ国家的な財政危機すなわち「IMF危機」に直面したことが挙げられる。これら一連の事態が意識改革を引き起こし、ここ数年で一気にあらゆる分野の社会システムを変化させるエネルギーとなった。
情報化による流通改善もその一つで、韓国農林部では2004年までに農産物の電子商取引を農産物取引の20%にまで拡大する目標を掲げており、またその実現のために一万戸の農家のウェブページ構築を支援し、情報の交流やインターネット販売に活用するよう推進している。
これらに関連して、各地の農協と連携して各種農産物を販売するサイト(www.shopping.nongyup.co.kr )、農産物統合ショッピングモール(www.a-peace.com )が開設され、また、変わったところでは都市住民に農業や農村に対する関心を深めてもらうため、150の都市と連携して情報交流や地域農産物の販売をインターネット上で行うサイト(www.egohyang.com)も現れた。
これらインターネット販売で成果をあげている農家はまだ少ないが、近年の韓国の新しい動きは、日本の農業、流通を考える上で参考になるものも少なくない。
ネットワーク大会では、このような韓国の事例を参考に、日本の農業について考えていきたい。

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